本編







一方、高知県・香南市、高知駐屯地。
駐屯地内の司令室にて、高知市に上陸すると予想されたジャイガーに対して、昨年編成された高知駐屯地に所属する第16旅団を出動させる事を決定し、着々と出動準備が進んでいた。




「それにしても、まさか君がいる時に本当の実戦を見せる事になるとは、なんと言うか・・・」
「いえ。第16旅団の視察に来たのですから、嘘偽りの無い視察が出来る事に関しては良いでしょう。ただこれは巨大「G」が暴れていると言う事なので、手放しで喜べないですが。」




副旅団長と話すこの男は、青森県・青森駐屯地よりこの駐屯地及び第16旅団の活動を視察に来た、陸上自衛隊第9師団一佐・逸見亨平。
自身より階級の高い副旅団長相手にも全く動じる事無く話を続ける所は、自らの信念を曲げない彼らしいものであった。




「とにかく、100%の実力を発揮した第16旅団の力を君にお見せしよう。」
「光栄の極みです。しかし、対「G」条約が締結されて以降「G」の出現が増加の傾向にあると言うのも、皮肉なものです。」




ここで逸見の口から出た対「G」条約とは、2018年に締結された条約であり、増加する「G」による被害に対抗する為、特定の状況・手順を踏む事によって国会会議や総理大臣の認可を通す事なく、自衛隊や特殊部隊を出動させる事を可能にした条約である。
条約には以下の警戒態勢レベルが存在し、


第一種警戒態勢:「G」の活動が物理的以外の科学、地質、気象、精神、「G」等いかなる点でも1つ確認された場合。
第二種警戒態勢:「G」の活動が声、動きなど物理的に確認された場合。
第三種警戒態勢:「G」の出現が確認された場合。
第四種警戒態勢:「G」が日本の特定地域への上陸、もしくは破壊活動が行われることが確実とされた場合。


となっており、第四種警戒態勢レベルになった時点で自衛隊・特殊部隊の出動を認可出来るようになっている。
無論、今回の第16旅団出動も「G」(ジャイガー)が高知市への上陸が確実とされ、それ以前に清瀧寺近隣の破壊を行った事により、同じく高知市での破壊活動が予想されたからである。




――・・・ギャオス出現、エアロ・ボット暴走から二年。
あの事件から「G」への脅威に対する手段が必要との声が強まり、図らずも俺が願っていた「G」に人類が対抗するシステムが出来上がった。
俺も未だ「G」は許せんが、それは我が子を否定する事になる・・・
しかし、俺はやはり「G」に身を任せるだけの時代になってはいけない。いけないんだ、樹。
だからこそ、人類を脅かす「G」に人類が対抗出来るのか、俺は今確かめたい。
頼むぞ、第16旅団よ。




その目に「G」への複雑な思いを込めながら、逸見はジャイガー駆逐へ出動した第16旅団の面々を見つめていた。




アグァッ・・・
アグォァァァアア・・・



しばらくして、高知市の中央部にジャイガーが上陸した。
建物をその身一つで破壊し、逃げ惑う人々を瓦礫に埋め、炎を広げながらジャイガーは破壊活動を続ける。




『目標「G」を目視!』
「清瀧寺近辺の破壊行為により、目標への攻撃は既に許可されている。各次、攻撃を開始!」
『『『了解、了解!』』』




瞬く間に一変した街に、第16師団の戦闘機・戦車が到着し、部隊長の号令と共にジャイガーへ一斉に攻撃を開始した。
戦闘機からのミサイルが、戦車からの砲弾が正確にジャイガー目掛けて飛んで行き、その全てがジャイガーの全身に直撃。
ジャイガーの周囲が黒い爆煙に包まれ、次の攻撃の準備を完了させた隊員達が目標の動向を警戒する。




「各位、気を抜くな。相手は「G」だ・・・!」
『っ!目標、現れました!速度を落とさずこちらに向かっています!』




爆煙を突き破って現れたジャイガーは、まるで何の攻撃も無かったかのように、無傷そのものであった。
目の前の「G」の脅威に一瞬萎縮しながらも、16師団はジャイガーに第二波の攻撃を仕掛けるが、ジャイガーを止める事は叶わなかった。




『第二波、目標に直撃!』
『・・・目標、全く動じません!』
「なんと言う奴だ・・・!だが!我々が諦めるわけにはいかない!直ぐ様次の攻撃の準備を開始せよ!」




グヴォヴゥゥゥゥ・・・




するとその時、ジャイガーの額が橙色に点滅し始めた。
何かの攻撃行為と察知した第16師団は第三波の攻撃を仕掛けるが、やはりジャイガーには無意味であり、その間にも額の光は一層強くなっていく。




アグァッ・・・
アグォァァァアア・・・




そしてジャイガーは空を見上げ、額からオレンジの光を第16師団に向かって放射した。
光は放射状に広がって行き、街ごと戦闘機・戦車を覆う。




「こ、これは!?」
「か、体がぁ・・・!」
「がぁああああっ!!」




光に包まれたもの全てがその中に消え去り、残ったのはわずかな瓦礫と、ほんの少し前まで血と肉が付いていた骸骨だけであった。
この攻撃はマグネチューム光線。極めて高い周波数の音波「極超短波」によって浴びたもの全てを分子から分解する、恐るべき技である。




「な、なんと言う殲滅力・・・!各位に伝える!直ちに後退し、遠距離から攻撃を続行せよ!」
『しかし、後退しながらの攻撃は正確性を犠牲にしてしまいます!』
『今の光線で約70%もの戦力が削られた以上、確実に攻撃を加えた方が!』
「我々の使命は平和を守る事・・・撤退は、許されない。だが、決して無駄死にをする事でも無い!及び腰と言われようとも、私は君達の命を一つでも守らなければならない!君達が神風になる必要は無い!今は確実に生き残り、少しでも奴に攻撃を与える!命令だ!各位、後退しながら攻撃を続行せよ!」
『『『了解!』』』




部隊長の指示に従い、残された16師団はジャイガーと常に一定の距離を取りながらのミサイル攻撃に移った。
だが、正確性を欠いた攻撃がジャイガーに通用する訳が無く、ジャイガーは顔の両脇に付いた角を発射し、戦闘機を撃墜した。
更に角は瞬時に生え変わり、ジャイガーは新しいその角を発射して遠距離から戦車を破壊する。
そう、これは正確には角では無く、体内の唾液を角状に固めたものであり、「固形唾液ミサイル」とも呼ぶべきこの物体は発射した瞬間に体内の唾液から新しい物が精製され、生え変わって次の攻撃に備える事が可能となっていた。




「あの遠距離攻撃、止まる事を知らないのか・・・!そうだとしても、私達は諦めるわけにはいかない!」




ジャイガーの攻撃に押されながらも、16師団は怯む事なく反撃を続ける。
しかし、16師団が圧倒的に劣勢なのは目に見えて分かる状態であり、既に郊外にまで後退させられていた。




グヴォヴゥゥゥゥ・・・




ジャイガーも長期戦に持ち込む16師団に業を煮やし、前足を上げて重力波を発生させると、14師団もろとも街の全てを吸い寄せ始めた。




『目標より、強力な重力異常!』
『全部隊、目標の方向へ引きずり込まれています!』
「くっ、向こうからこちらを引き寄せて来たかっ・・・!」




なすすべ無く16師団は町の瓦礫もろとも、ジャイガーに向かって飛ばされて行く。
ジャイガーは全ての兵器がこちらに来た事を確認し、今度は重力波を放出して16師団を弾き飛ばす。




『うわあああっ!』
『本機、機能停止!』
『本機も、もう動きません!』
「やられてしまったのか・・・!こうなれば、各位脱出!速やかに乗機より脱出せよ!」




部隊長の指示に従い、隊員達は急いでコクピットから降り、外に脱出する。
が、その時既にジャイガーの額は橙色の光を放っていた。




「た、隊長・・・っ!!」
「・・・南無三っ!!」




そして無情にも極超短波は放たれ、街もろとも第16師団は跡形も無く光の中に消え去った。
光が収まった後に残されたのは、もはや高知市の面影も感じられない、瓦礫と平地のみであった。




アグァッ・・・
アグォァァァアア・・・




一つの街を壊滅させ、ジャイガーはジェット噴射で飛び去って行く。
その様子を、高知駐屯地の面々はただ茫然と見る事しか出来なかった。




「第16師団が・・・高知の街が・・・壊滅した、だと・・・!」
「た、直ちに別の部隊を回せ!「G」の監視を続行するんだ!」




――やはり・・・人類は「G」には敵わないと言うのか・・・!
だとすれば、人類はただ「G」に運命を、日々を、全てを委ねるしか出来ないと言うのか・・・!
そんな事、俺は認めん!
俺は認めんぞ・・・!




机に拳を叩きつけ、逸見はただ無力さに顔を滲ませるのだった。
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