本編











数時間後、土佐市・清瀧(きよたき)寺。
四国八十八箇所の三十五番目礼所であるこの寺には、今日も厳しい道のりを経た人々が巡礼に訪れていた。
しかし、突如空より降って来た巨大な白雲が、人々の静寂を破った。




「おわっ!」
「な、なんじゃあ・・・」




雲が飛散し、清瀧寺全体を厚い霧が包む。
体のバランスを崩しそうになる程に強い勢いである霧を受け、人々は視界を奪われながら困惑する。




グウィウォォォォォウン・・・




「な、なんか聞こえるぞ!」
「鳴き声、かしら?」
「じ・・・じゃあ、「G」が来たって事!?」




未曾有の出来事に、人々の不安は恐怖に変わっていく。
雲と共に現れた「G」は巨大な影を霧越しに人々に見せながら、本堂横の不入山「入らずの山」に向かったかと思うと、山に佇む高岳親王塔とその一帯を、その手で叩き壊した。




「きゃあっ!」
「な、なっ、何だぁ!」
「は、入らずの山が!高岳親王塔が・・・!」




高岳親王塔が建っていた入らずの山は跡形も無く破壊され、破壊を物語る巨穴とその穴から覗く「何か」だけが残った。




『やはりここだったのか!!いよいよだ・・・我の、復活の時だぁっ!!さぁ、白虎!最後の使命を、果たせぇぇぇぇぇぇ!!』




ゆっくりと霧が晴れ、雲の正体である白虎が人々に姿を見せる。




「おっきな白い猫!?」
「と、虎じゃねぇか?」
「見ろ!手に人を乗せとるぞ!」
「ああ言うの、聞いた事・・・そう!ガメラ!あれ、ガメラみたいじゃない!」
「じゃあ、悪い「G」じゃないのかな?」




多種多様な反応を見せる人々をよそに、手のひらに載せた「悪意」の手先となった白虎は穴の中の「何か」に手を伸ばし、簡単に引き抜く。
それは何十mはある大きな石の柱であり、先端部はおぞましい表情をした顔になっていた。




『ふふふふふ・・・!あはははははは!!さぁ、始まりだ!!我の・・・ジャイガーによる、アトランティス侵攻が!!もうこの体に用は無い、好きに朽ちるがいいわ!!いくぞぉぉぉぉぉっ!!』




白虎の手のひらから禍々しい紫のオーラが飛び出し、柱が埋まっていた穴の中に飛び込む。
その刹那、一帯を激しい地震が襲った。




「きゃあっ!!」
「じ、地震・・・っ!」
「み、見ろ!あそこからなんか出てくるぞ!」




地震に揺り動かされるように・・・いや、この地震を起こす元凶である存在が、大地を突き破って現れた。




アグァッ・・・
アグォァァァアア・・・




茶色い重厚な四つ足の体、頭頂部と口の左右から禍々しい角が伸びる大きな顔、何者も萎縮させる鋭い眼差し。
そう、かつて白虎と「悪魔の笛」によって封印された大魔獣・ジャイガーが、白虎の手で悪魔の笛を引き抜かれ、復活を果たしてしまったのだった。




「また「G」が!!」
「こ、こわいっ・・・!」
「逃げろ!逃げるんじゃぁ!!」




ジャイガーを見た人々は本能から悪しき存在だと察知し、直ぐ様逃走を開始する。
だが、ジャイガーは後足で立ち上がり、両前足から重力波を人々に向けて発射した。




「うわあぁぁぁぁ!!」
「きゃあぁぁぁっ!!」




風に飛ばされる紙屑のように人々は重力波に弾き飛ばされ、崩壊して行く清瀧寺と土雪崩れの中に飲まれ、後には木っ端微塵になった清瀧寺の欠片と、無残な結末を迎えた人々の遺体だけが残された。




グヴォヴゥゥゥゥ・・・




ジャイガーは顔の両脇からジェットを噴射し、清瀧寺を飛び去る。
そして白虎は悪魔の笛と、右手の中に置き去りにされたマインを掴んだまま、虚ろな様相で歩き去って行った。






二大「G」の出現の報は瞬く間に広まっていき、市民達は理不尽な破壊に怯え、役員達は「G」への対策に奔走する。




『・・・ってわけだ、だから一番近い場所にいるお前に先に行って貰う。』
「ほんまで・・・すか!?」




無論それはGnosis達、京都にいる岸田にとっても例外では無かった。
今岸田は無線機で験司と緊急連絡を取っており、すなわちそれは休日が無くなった事も意味していた。




『ほんまでっか、じゃねぇよ。休みを潰すのは悪ぃけどな、オレ達は竜宮島に行く事になったんですぐに行けねぇし、なら時間に余裕があって一番近い場所にいるお前が行くのが自然だろ。』
「そうですけど・・・これからがいい所でしたのに・・・」
『仕方ねぇよ。今回現れた「G」は白虎である可能性が高いんだからな。』
「へえっ!ほんまでっか!?」
『いよいよ素になりやがったな・・・蓮浦が集めた情報によれば、白い方の「G」は数時間前に岩屋寺で目撃したって言う証言があるし、ネットに広がってる写真に写ってる全体像の特徴が、白虎とよく似てるんだよ。』
「岩屋寺から出て来た、白い「G」・・・確かに前々から探してた白虎と似てますね・・・」
『後から現れたもう一体の「G」も気になるが、今は白虎が最優先だ。だから頼んだぞ!』
「は、はいっ!」




験司からの連絡が終わり、大きく深い溜め息を付く岸田。
これは休日を奪われた事へのショックもあるが、それ以上にGnosisが設立当初から探していた四神の一体・白虎が突如現れた事実への驚きを収める為でもあり、Gnosis久々の大スクープを自分に任された事を受け入れる為の作業であった。




「せっかくの休みが急に無くなったんは嫌やけど・・・四神絡みやったらしゃあないよな。ほんまあんだけ俺達の調査断っといて、いきなり出すなんてあかんねんからな!こうなったら俺が手柄取って、深紗さんと首藤さんに一泡吹かせたるわ!よっしゃ!この岸田月彦、やぁってやるでぇ!」




これまた急にやる気を出し、岸田は携帯を片手に近場の駅へ駆け足で向かった。
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