本編





「それにしても、貴方はやはりとてもお優しい方ですね。隼薙。穂野香が巫子に目覚めてから、勾玉越しにずっと貴方を見ていましたが、内の優しさは変わっていません。穂野香の為に勉強を教えたり、バイトをして香川うどんを食べさせたり・・・」
「そ、そんなとこまで見てたのかよ!?」
『あら、噂以上の妹想いじゃない~。じゃあ隼薙君の昔話、もっと聞かせて♪』
『わたしも気になる~!』
「そうですね。隼薙は割と涙もろくて、穂野香が初めて心を失った時に・・・」
「待て!それ以上は言うんじゃねぇ!」
『もう!はやては黙っててよ!』
「黙るわけねぇだろ!あんなこっぱずかしい話を喋られるんだぞ!」
『ならば私が話そう。事前に隼薙からその時の話は聞いている。』
『それに、恥ずかしそうな話だから気になるんじゃないの♪何ならあたしが、ちょっと黙らせましょっか~?』
「お、おい!何する気だラピス!お前運転しろって!アークも余計な事言うんじゃねぇ!」
「ふふっ。皆様、そんな無理やりはいけませんよ。では、別の話を致しましょう。わたくしが勾玉の中に心を移してから穂野香と出合うまでの間に、一度だけわたくしと交感した巫子がいました。その巫子は正真正銘の卑弥呼の血筋の女性でして・・・」
『待て。卑弥呼は最終的に子を設けず、邪馬台国の民の前にも滅多に姿を現わさなかったとされる。そんな卑弥呼に、子供がいたと言うのか?』
「そうです。神にも等しかった扱いを保つ為、と言う理由もありましたが、むしろ子供がいたからこそ卑弥呼は民の前から姿を現さなくなったのです。ジャイガーを封印した後、傷ついた彼女は唯一飲食を給仕する為に宮に出入りしていた男性と結ばれ、子を設けました。しかし、『卑弥呼』と言う存在にとってそれは許されざる事であり、自身が民の前から姿を消す事で子の存在を隠し、『普通の子供として生きさせて欲しい』と、世話をしていた弟と夫に伝えて彼女は息を引き取りました。』
『まさに禁断の恋ねぇ。卑弥呼もまた、1人の女だったのね。』
『何だか「きんしんかん」がわくなぁ~。』
『それを言うなら「親近感」ね?それ、漢字にしたら禁断の関係になっちゃうわよ?』
「それから卑弥呼と巫子の血筋はこの勾玉と共に人々の中で生き続け、約100年後に生まれた卑弥呼の曾孫が、わたくしと共感しました。その曾孫はわたくしから自分が卑弥呼の血を引く者と知り、今の自分はどうあるべきなのか悩んだ彼女は答えを探す為、わたくしを案内人に日本中を旅しました。そしてその旅はやがて人々の間に知れ渡り、『天照大神』伝説として古事記・日本書記に記されたのです。」
『あ、あまてらす!?』
「お、おい!って事は、あれ全部卑弥呼の子供と、あんたの事を書いてたのかよ!」
『こういった神話には、多少の誇張が入るものだ。中には面白半分で書かれたものであった可能性も否定出来ない。しかし証拠となる資料が書物程度しか無い以上は、真偽の確かめようも無いが。』
「きっと貴方達以外に言っても、まともに聞いては頂けなかったでしょう。それでも貴方達にお話しようと思ったのは、何故でしょうね。」
「そんなの・・・」
『あたし達だから、でしょ?アンバー。』
「おいこらラピス!俺が言おうとした台詞を!」
『「せんてにっしょう」だね~。もったいぶってるから遅れるんだよ!』
『ラズリー、「先手必勝」ね?』
『お前の瞬発力の甘さが出たな。瞬発力は常に発揮出来なければ意味が無いぞ。』
「お前らも黙ってろ!」
「ふふふっ・・・それは事実のようですね。曾孫が失恋して岩影に閉じこもって泣いていたら、仲良くなった近くの村の方達が大騒ぎして、つられて出て来た時の事を思い出しました。」
「それってよ・・・まさか天照伝説の『天岩戸』の事じゃねぇだろうな?」
「はい。流石は隼薙、小さい頃から穂野香に天照伝説をお話していただけの事はありますね。」
『・・・隼薙。よく考えてみるとお前も穂野香様も、卑弥呼の末裔と言えるのでは無いのか?先程勾玉と共に血筋が受け継がれたと言っていたが、穂野香様の勾玉は昔から初之家に伝わっている物。つまりは・・・』
『はやてとほのかのご先祖様って、卑弥呼ってこと!?』
「ちなみに、岩屋寺に祀られている白山権現は身体を含め、わたくしの事だったりします。」
『ほんと、さっきから壮大な歴史の授業を受けてる気分ねぇ。』
「・・・俺と穂野香が卑弥呼の子孫だの、白山権現の正体がこんな所にいただの、更にそいつが天照大神の元にもなっただの、フィクションに慣れた俺でもとてもついていけねぇ・・・」
『只まず言える事、それはやはりお前は岩屋寺の住職を継ぐべきだと言う事だな。隼薙。』
『でもさ、「ぼーず」頭のはやてって想像するだけで・・・ぷぷぷ。』
「おいこらアーク!なんでそうなるんだよ!ラズリー、お前もさりげなく俺を馬鹿にしやがって!」
「ふふふっ・・・こんなに面白おかしく人間の方達と話すのは、もう本当に久しぶりです。わたくしが「G」なのを忘れそうなくらい・・・」
『「G」だなんて関係ないわ。こうしてあたし達と話してるあなたは、アンバーって言うあたし達の仲間なんだから。』
「仲間・・・」
「でもな、穂野香の体と心は絶対返して貰うぜ。そんなに喋れるんなら、元に戻っても問題ねぇだろ。」
『しかしその場合、勾玉を介してしかコミュニケーションが出来なくなる。穂野香様を元に戻す事が最優先である以上、致し方無い事であるが。』
『え~っ!じゃあ、わたし達と喋れなくなるじゃん!』
「そこは穂野香になんとかして貰いますから。わたくしには戻るべき身体があるのですから、いつまでも穂野香の体を使うわけにはいきません。」
「あぁ。全部解決したら、改めて話そうぜ。白虎のアンバーさんよ。」
「・・・はい!」
『それじゃあ、あたし達は何処に向かえばいいのかしら?』
「穂野香を通じて得た地図の知識と、身体の向かった方向から確信しました。ジャイガーは、此処に眠っていると思われます・・・土佐市の清瀧寺に向かって下さい!」




その言葉と共にトラックは法定速度ギリギリのスピードを保ちながら道路を駆け抜け、清瀧寺へと向かった。
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