本編





――そっから俺はまた、昔と変わらずに穂野香と接した。
いや、更に大事にするようになったっけか?
休日には必ず、寺へ遊びとお参りに行った。
学校の奴らが穂野香を学校に行かせないって言いやがったから、俺が勉強を教えた。
何度か穂野香目的で変な連中が来たけど、全部かわした。
そうやってまた、元の日々に戻れたって思ってた矢先に・・・あいつが来た。




『お・・・親父、お袋、どうしたんだよ・・・何で、穂野香みたいな事になってんだよ・・・』
『それは、我の針を持って「心」を奪ってやったからだ。』
『な、なんだ!てめぇ!』
『知る必要は無い・・・貴様らもろとも、ここで死ぬのだからなぁ!』




――どうにか俺の能力で足止めして逃げて、町の外れくらいに来た時に、俺は気付いた。
あんな得体の知れない奴を「俺が足止め」した事に。
俺が能力者どころじゃない、「爾落人」だった事が分かったのが、こん時だ。
それと後から聞いた話じゃ、今も親父とお袋は原因不明の植物人間って形で、町の病院にいるらしい。
なんであいつが親父とお袋の「心」を奪えたのかは分かんねぇけど、今までうっとうしいって思ってばっかだった親が、昔の穂野香みたいに俺の知ってる親父とお袋じゃ無くなったって思って、初めて親がいる事の有り難みを知った。
あんな親でも、もうちょっといい関係になる前にいなくなるって、悲しいんだなって逃げながら、考えた。




『見ろ、穂野香。ここが桂浜だ。改めて、高知のこんな所まで来ちまったけど、観光って考えたらいいよな。坂本龍馬の像も、なんかいい感じだし・・・』
『・・・お兄、ちゃん・・・』
『んっ、どうした?』
『ここ・・・確か、お父さんとお母さんと・・・行く約束・・・』
『・・・そうだな。でも、今は俺達が生き残る事を考えるんだ。あの野郎も「心」を奪ったって言っただけだし、絶対に生きてるって。』
『でも・・・』
『心配すんな。心を奪ったんなら、あの野郎を問い詰めて取り戻せばいい。それに穂野香がここまで戻ったんだ、何とかなるだろ。』
『・・・』
『穂野香。何があっても、俺が絶対にお前を守ってやる。約束だ。』
『・・・うん。』
『・・・さっ、早く観光を済ませて違う所に行こうぜ!時間は待ってくれねぇ、次だ!』




――とりあえず、後悔してる間にあいつに捕まるのはご免だから、穂野香を引っ張って行く事だけを考えて、四国を巡り続けた。
ちょっとずつだけど、穂野香も感情が出て来るようになったしな。




『うおおおっ!これが、鳴門海峡の渦潮か!やっぱ実際に見るとすげぇな~!』
『うん・・・だけど、ちょっと怖い・・・』
『大丈夫だって!何なら、俺の能力でもっと近くで見ようぜ!』
『だ・・・駄目!』
『あ・・・あっちぃ~!分かった分かった、だから炎を出すのをやめろ~!!』




『お待ちどうさま~。』
『これが・・・7年振りの本場さぬきうどん・・・』
『・・・おいしそう。』
『それじゃあ、早速!』
『『いただきます。』』
『・・・う、うめぇ~!』
『・・・おいしい。』
『美味いか?穂野香?』
『うん。ありがとう、お兄ちゃん・・・』
『ここ数ヶ月、野猟生活だったからなぁ・・・涙の味すらしそうだぜ。』
『だからお兄ちゃん、急にバイトしてたの・・・?』
『まぁ、そうだな。生活費もあるけど、穂野香にそろそろうまいのを食べさせたかったし、よ。』
『・・・変なスマイル、してまで・・・?』
『う、うるせぇ。バイトなんて久しぶりだから、仕方ねぇじゃん。』
『・・・でも、やっぱり・・・ありがとう。』




――そうやって四国を回ってる内、あの女とお前に会った。




『ってわけで、あたしのアークちゃんを引き取ってちょうだい!』
『ってわけで、って何だよ!つまりこの変なのを押し付けてるだけじゃねぇか!』
『変なのではない。私にはアークと言う名前が与えられている。』
『お前は黙れ!』
『・・・しゃべってる。』
『あたしだって、アークちゃんが違う所に行っちゃうなんて辛いのよ~?この子はあたしの子供みたいなものだし・・・』
『だったら・・・』
『それに、この方がアークちゃんの為でもあって、君の為でもあるのよ。君・・・自分の能力を全力で引き出した事、全然無いでしょ?』
『なっ・・・』
『さっき君の「疾風」の力を見せて貰ったけど、コントロールがある程度出来てるだけ。もっと強い力が出せるのに、わざと遠慮してるわね?』
『・・・!』


――・・・な、なんで分かったんだよ?
俺は穂野香と一緒に逃げたあの日以来、本気は出さねぇようにしてる。
本気を出したらどうなるか分かんねぇし、もし穂野香を傷付ける事になったら・・・って、思うと・・・


『お兄ちゃん・・・?』
『「心情」の「G」は持ってないし、そんな機械も造れたらって興味はあるけど・・・伊達に「G」の研究家を名乗ってるわけじゃないわ。このままじゃ、またその能力者が襲って来た時に穂野香ちゃんを守れないかもしれないわよ?』
『くっ・・・!』
『「G」を持った者、特に爾落人なら自分の「G」を理解しなきゃ、ね。アークちゃんなら、あらゆる「G」由来の自然現象を調整出来る。それにあたしはアークちゃんを、君のような自由の身にしたいの。』
『・・・お兄ちゃん、私・・・アークと行きたい。』
『ほ、穂野香?』
『私は・・・お兄ちゃんの力を貰っただけの、ただの能力者。でも、お兄ちゃんは違う・・・私を守れるの、お兄ちゃんだけなの。アークも・・・こんな「G」なんて見た事無いし、それにきれい・・・』
『・・・何故か、母性を感じる・・・』
『キレイなのは当然よ!アークちゃんのボディはリチア輝石のヒデナイトをイメージしたけど、強度はその比じゃないし、中の風車はクンツァイトみたいな感じの構造にして・・・』
『・・・分かった。』
『んっ?もう一回。』
『分かった!そのアークってのを、引き取ってやる!だから、早く渡せ!』
『お兄ちゃん・・・』
『否、私はお前を主と認めてはいない。私の主は今より、穂野香様だ。』
『な、なんだと~!』
『まぁまぁ♪ってわけで、決定ね~!』






「こっから先はお前が来た後と同じだな。これが、俺と穂野香との思い出だ。」
『・・・』
「凄過ぎて、言葉も出ねぇか?自慢する気はねぇけど、そこらの奴らより苦労はして来た人生だと思うぜ。」
『まさに、これこそが壮絶だと思ったのだ・・・穂野香様。』
「おい!俺には何にも無しか!」
『仏道一家に生まれながら、仏像に悪戯をすると言う罰当たりな事をしていたなど、閉口だな。』
「ほんと、真面目にいい話をしたと思ったらてめぇは・・・!」
「う・・・ううん・・・」
『言葉のボリュームを、下げろと言っただろう。むしろ黙っていろ。』
「ったく、覚えてろよ、てめぇ・・・」
『ただ・・・絶対に、穂野香様は守れ。「疾風」の爾落人、初之隼薙。』
「・・・当たり前だ、確認するまでもねぇ。俺はお兄ちゃんだからな。」




やや呆れた態度をしながら、そうぼやきつつアークを見る隼薙の顔は、使命と約束の意思が宿った、兄の顔であった。
アークもそれを確認し、風車を小さく回して、さり気ない意志表示をする。




「さて、次はてめぇの番だな。」
『否、これから話をすると最低4時間の睡眠不足になってしまう。明日にしよう。』
「なにっ!?アークてめぇ、約束破んのか!」
『今話さないと言っただけだ。話す時間なら幾らでもあるし、よく考えれば穂野香様にも話しておきたい。』
「わ、分かったよ・・・じゃあ、あの風来女の名前だけでも今教えろ。」
『主の名か・・・了解だ。主は確認出来る限り、これまで20通りの偽名を使っているが、その本名は・・・』
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