本編












その頃、日本の何処かにある御浜と言う名の町。
その町の外れにある灯台の窓から海を見つめる、1人の少女がいた。




「ふぅ。ほんとこの灯台って、わたしみたいに隠居生活したい身にはぴったりね。」




彼女の名は桧垣菜奈美。
彼女はある途方も無い「G」を持つ爾落人であり、安息を求めていつしかこの灯台に住み着き、誰にも見つからないようにひっそりと暮らす日々を続けている。




「こんなリラックスして月夜を眺める時なんて、数百年生きて来た中でも中々無かったもんね。さてと、明日は何しようか・・・っ!」




そっと後ろに振り向こうとした菜奈美だったが、突如振り帰る直前に体を止め、頭だけを素早く後ろに向ける。
自分と似た存在の気配を、直感で感じたのだ。




『・・・あっ!いたいた!』




菜奈美が感じた気配の主は、間髪入れずに部屋に入って来た。
だが、同時に聞こえて来た緊張感の欠片も無い無邪気な声は、菜奈美の予想から外れたものであった。




「・・・えっ?」
『いや~、タイムマシン(仮)が壊れた時はどうしょうかと思ったけど、この時代にはまだ菜奈美ちゃんがここにいたのよね~。助かった助かった。そうそう、この時はまだ1人身だったっけ・・・寂しそうだけど、あと10年くらい待ったらいい事あるからね~!』


――な、何言ってるの?この人・・・




困惑する菜奈美をよそに近寄って来る、北欧系の女性。
ショートヘアーの髪は特異な色をしており、基調は銀色ながら、髪先だけが紫のグラデーションになっていた。
更に服装は髪色に負けじと言わんばかりにカラフルな配色をしており、最も目を惹くのが右手に持った身の丈はある長さの杖で、その先は鳥の様な形をしている。




「あの、貴女・・・誰でしたっけ?」
『あたし?あたし、爾落人。』
「いや、それは気配で分かるけど・・・どうしてここに?」
『えっとね、まず何処から説明しよっかな・・・うん、そう!菜奈美ちゃんの力を貸して欲しいのよ!』
「わたしの力?」
『あたしを元の時代に戻して欲しいの!あっ、でも3年前に行ってガメラを見に行きたいな~。いや、もっと遡って「G」発見の瞬間・・・それか、紀元前のインドにも・・・』
「あの、貴女が誰だかさっぱり分からないけど、わたしはひみつ道具のタイムマシンみたいな存在じゃないんだけど?」
『え~!そんな事言うんだったら、地球破壊爆弾を今ここで作っちゃうぞ~!』
「ち、地球破壊爆弾!?そんなの・・・」
『出来るもん。あたしの「G」を使って、上手く「造れ」れば。』
「えっ?貴女・・・何者なの?」
『ん~、それはね・・・』




頭を軽く掻き、女性は話し始めた。






「・・・とりあえず、貴女はそのタイムマシン(仮)でこの時代に来たのね?」
『そうそう♪あたしはそうやって未来から来たの。でもこの時代にはこの時代のあたしがいるから、あたしは未来人ってわけ。』
「時間も超えられる道具を生み出すなんて、凄い能力・・・わたしの知る限りだと、『真理』にも並ぶかも・・・」
『そう、なるのかなぁ?その気になれば、どんなモノでも造れるし・・・』




多々無駄な話を含めながらも、1時間程してようやく菜奈美は彼女の正体を知った。
菜奈美の言葉を聞き、内心喜ぶ彼女の言動の一つ一つこそ子供のように見えるが、曲がった人差し指を当てるその唇に塗られた口紅が、彼女が大人の女性である事を暗に示していた。




『けど、時間を渡るモノは作れなかった事になっちゃうなぁ・・・悔しいな~!時間の「G」を持ってる菜奈美ちゃんが羨ましい~!』
「でも、貴女の「G」でもう一度タイムマシン(仮)を作る事は出来ないの?」
『んっとね・・・それはかなり難しいかなぁ。また同じモノが出来るか分からないし、それ以上にこれより完成度の高いモノを作らないといけないって事よ?これを造るのに、物凄く苦労したのに・・・とりあえず、今のあたしには無理!』
「そ、そう・・・?」
『分かりやすく言えばね・・・1200ピースのパズルを、目の前で崩されちゃった!もしくは三億円の宝くじを、目の前で燃やされちゃった!ってくらいの事。菜奈美ちゃんはすぐにパズルに挑戦したり、また宝くじを買いに行こうと思う?』
「む・・・無理。」
『でしょでしょ!だから、菜奈美ちゃんの力を借りたいのよ!でも、まだ目的は果たして無いから・・・ちょっとだけ、あたしに付き合って?』
「付き合うって、何処かに行くの?」
『うん、今から四国へ。そこで後々日本史・・・いや、世界史に載るくらいの出来事が見れるから。それに・・・まだ無事な日本を見ておきたいし。』
「無事な・・・日本?」




その瞬間、楽天的だった女性の表情が真顔になったのを、菜奈美は見逃さなかった。




『あたし、今から20年くらい先の時代から来たんだけど、その頃の日本って大変な事になってるのよ。それこそ「日本沈没」なくらいの大災害で、もう日本は今みたいな姿じゃなくなってるの。だけど、この頃のあたしはちょっと間違いを犯して、根無し草みたいに世界中を放浪中してて・・・タイムマシンなんて無謀なモノを作ろうと思ったのも、だからかなぁ。』


――それにこの頃なら、またアークちゃんに会えるし、ね。


「・・・分かった、行くわ。特別にわたしの力を貸してあげる。」
『えっ、ほんと!?ありがと~!やっぱり、いつの時代も菜奈美ちゃんはいい娘ね~!』




真剣な雰囲気を作りながら、それをも自分で破壊する女性の声。
彼女の豹変っぷりに菜奈美は慌てながらも、こういう性分なのだと納得しつつあった。




「あの、貴女って未来のわたしを知ってるの?」
『うん。だって菜奈美ちゃんとあたし、2030年からの大親友だもん。いつの時代に何処にいたのかも、菜奈美ちゃんが教えてくれたし。あっ、もしあたしに会っても一応他人のふりしてね?歴史が変わるかもしれないらしいから。』
「う、うん。」
『はいさ!それにしても菜奈美ちゃん、さっきから疑問符ばかりだよ?』
「なっ、貴女のせいでしょ!ややこしい話なのにあなたがちゃんと説明しないから・・・あっ、そういえば貴女はなんて言う名前なの?」
『うんっと・・・最近、偽名ばっかり使ってたからなぁ・・・』
「ぎ、偽名?」




不意に出て来た女性の発言に驚きつつも、菜奈美は今にも部屋を出て行こうとしていた彼女の返事を待つ。




『えっと・・・ベルセリオス!・・・でも無い。それならアンマルチア!・・・いや、それはこの頃の風来坊な根無し草だった時の偽名だし・・・あっ!思い出した!』




呟きながら少し間を置き、女性は握った右手で左の手のひらを叩く。
そして女性は菜奈美に向かって振り返り、自分の真名を告げた。



『あたしは、パレッタ!「G」の探求家にして、「想造」の芸術家よ!』
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