本編
1時間後、伊吹と特捜課の3人は城南大学を訪れていた。今日は予め春野を呼び出し、使われていない会議室に集まった。
「…刑事さん、今日はどういった用件で?」
「春野さん、御呼び立てして申し訳ない。今日は大事なお話があります。」
春野は不満げだったが無理もない。これから食堂が忙しくなる時間に警察から呼び出されたのだから。
特捜課の3人は下がり、伊吹が話を進める。
「葛城が釈放されました。」
「…何故です?」
春野は先程とは打って変わって信じられない様子で聞き返した。
「最先端の科学捜査の結果、証明されたんです。犯行当時葛城の精神状態に刑事責任は無いと。」
「…そうですか。」
「それよりも今、我々はあなたを疑っている。」
「!」
この言葉に、春野の中に衝撃が走る。だがあくまで冷静さを保つ。
「…言ったでしょう。僕はあの時葛城の仮眠室で横になっていた。」
「かと言って事件当時にそこにいたアリバイはない。」
「何を言い出すかと思えば……」
「鑑識が殺害に使用された凶器から第三者の指紋が採れたと言っていました。」
この瞬間、春野の瞳孔が開いた。動揺している証拠だ。
「どうです春野さん、あなたの指紋を凶器のそれと照合して嫌疑を晴らしませんか?」
自分に向けられた疑いに春野は、自信から来る不満や不安から苦し紛れに声を張り上げた。
「違う! 僕は殺ってない! 第一葛城が殺した筈だ! あの時、あの刺身包丁で!」
伊吹はこの言葉を待っていた。彼がしてやったりとニヤついた所で春野は己の失言を自覚する。
「おや、何故刺身包丁だと? 目撃者は刃物としか分かっていないし警察の公式発表はまだだ。」
「目撃者から聞いたんだ!」
「刃物だと知っていて何故そこまで特定を? 刃物と言ってもカッターナイフや登山ナイフなど多々ある中で刺身包丁だと?」
「それは!」
伊吹はここぞとばかりに畳み掛ける。
「凶器の情報なんて、警察関係者か犯人しか知り得ない事なんだ。何故知っている? 言え!」
「……」
春野は息が荒く、どうにか冷静さを取り繕っている状態だ。だが突然、観念したかの様に態度が急変した。
「ククク……僕に目をつけていたって事は、能力者である事もお見通し、か。」
「…今の言葉、自供と解釈しても良いな?」
「……そうさ、僕の能力で井上殺害を葛城に実行させた。」
またも「G」の力を宿す犯罪者は糸も簡単に犯行を認めた。荒木と同じ様に。
この展開に伊吹ら一同は荒木を思い出した。
「……だけどね、君達は僕「自身」を逮捕する事はできない!」
瞬間、春野はパタリとその場に倒れた。