本編


「警視庁捜査一課の伊吹です。」
「同じく木内です。」
「刑事さんですか。やっぱり葛城の事ですね?」


数分後、2人は春野新と接触していた。いつもの手順で身分を明かし聞き込みを始めたのだった。


「ならば話が早いです。いくつか聞きたい事が。」
「何です?」


木内は伊吹の下で何人もの人物に聞き込みをこなしてきた。その中でも春野は幾分協力的だと木内は判断していた。


「葛城が井上氏を殺害する直前、あなたと接触していたのは事実ですか?」
「事実ですよ。葛城の研究室の中にある仮眠室で会った。」
「何故食堂の忙しい時間に調理士のあなたが仮眠室にいたか説明願いますか?」


木内の質問に割り込んだ伊吹の鋭い質問に、不快感を露にして春野は呟く。


「…何だか僕も疑われているみたいだな。」
「すいません。関係者は皆疑えと警察学校で教えられるもので…」


木内は伊吹のフォローを忘れない。


「…気分が悪くて葛城の研究室にある仮眠ベッドを借りた。事件を知ったのは警察が到着してからです。」


納得した伊吹は木内に質問を続けさせる。


「葛城が井上氏を殺害するような動機をご存知ありませんか?」


一瞬、春野はこの質問を待ち侘びていたかの様に口元がニヤつくと、躊躇いを装って話し始めた。


「…実は葛城は、井上教授の論文を代筆する事を条件に物理学助士にさせてもらっていたんです。承知していたとは言え自分の論文を我が物顔で発表されるのが堪えられなかった、そう思う。」
「調理士のあなたが何故その事を?」


再び伊吹の鋭い質問に、今度の春野は即答で返す。まるで用意していた答えの様に。


「僕と葛城は旧い付き合いで同じ大学に勤めている、一緒に飲む事くらいあります。」


この返答に納得する伊吹。


「しかし殺人を犯すような奴だとは思わなかった。教授をあんなにめった刺しにしておいてシラを切るなんて…」


春野は呆れた様子で付け加えたが、この発言により伊吹の中で新たな疑惑が生じる。
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