本編



城南大学の食堂は今日も賑わっていた。お昼時の時間なら尚更だ。


テーブルで定食を食べる中年男性、井上昭。彼はこの大学の物理学教授である。
その隣に座る同年代の男性は梶山雄太郎。井上とは教授になる前からの付き合いであり今は彼の助手をしている。


2人は昼食を食べ終わるとトレイを返却する為に立ち上がる。それを見計らい井上に忍び寄る人物がいた。


人物は井上の真正面に立ちはだかる。そして隠し持っていた何かを井上の腹部に突き刺し、皮膚を貫く鋭い音が聞こえた。
同時にトレイは井上から手放され、食器が辺りに散乱する。


「!」


人物は井上の腹部の同じ箇所を何度もめった刺しにすると、トドメとばかりに胸部を突き刺した。


状況に気付いた女学生が悲鳴を上げ、さらに騒ぎを察知した周りの学生が逃げ惑い食堂は混乱に陥る。


人物は床に這いつくばり虫の息状態の井上に冷たく言い放つ。


「さよなら教授。あの世で僕の姉に謝れよ。」


間もなくして人物は警備員に取り押さえられた。





数時間後、城南大学物理学助士の葛城建一は警視庁捜査一課の有する取調室の中にいた。
彼は何も置かれていない机の前に座らされ、数人の刑事に囲まれている。


「とぼけるな! 包丁でめった刺しにしておいて「覚えてない」だと? そんな都合の良い話があるわけないだろう!」
「だから私は殺ってない。覚えていない。」
「だから―――」


葛城は井上殺害を否認していた。
しかし確かに葛城は井上を大衆の前で刺殺し、大学の警備員に取り押さえられそのまま警察に引き渡されたのだ。
この状況で「覚えてない」などと通用する筈もなかった。


取調室に備え付けられているマジックミラーの向こう側では、伊吹と木内が葛城の表情を伺っていた。


「葛城建一、物理学助士。前科なし、経歴を見る限り汚点のない人生を送っていたようです。」
「あの若さで大学の助士だってな。」
「何があって恩師を殺したんだか…」
「それを今から聞き込みに行くんだろう。取り調べは加藤達に任せて俺達は葛城の動機を探し出すぞ。」
「はい。」


伊吹と木内は部屋を後にして地下駐車場に向かった。
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