本編
数日後。庁内のある部屋の前に伊吹が佇んでいた。
春野逮捕の際の過剰な暴力が問題になり、呼び出されたのだった。
伊吹は深呼吸の後にノックをすると、入室した。
部屋は1人が居座るには広く、机の前には華美でない銀色の細いフレームの眼鏡が特徴の男が椅子に座り伊吹を見据えていた。
上相浦彰彦。警察の警察と呼ばれる警務部の監察官を務める男だ。
「…伊吹龍二警部補、ですね。」
「はい。」
「調書を読みました。逮捕の際の過剰な暴力…。あなたの行動は警察官としての職務を逸脱している。これが何を意味するか分かっていますか?」
「…はい。」
「公共の安全と秩序を守らねばならない我々が、法を守らずして公務執行員を名乗れない。警察官が不正を働く程、世の中は組織としての警察を罵倒する。君のような捜査員がいる為に、我々が警察庁から出向しているんです。これ以上、仕事を増やさないで頂きたい。」
現場を知らないキャリアに嫌味を言われるのは気持ち良くない。伊吹は聞き流しながら内心毒づく。
「処分は後日書面にて通達します。それまで職務を続行してください。」
「…はい。」
「尚、この事は公表されないので口外はなさらぬよう。」
「…失礼しました。」
伊吹は上相浦に建前で頭を下げ、内心を悟られぬよう退室した。
その伊吹を外の廊下で1人の部下が出迎えた。木内だ。
伊吹は木内の存在に気付き、木内は伊吹に無言で頭を下げた。
「何してる? 梶山を殺害教唆で引っ張る。行くぞ。」
「…はい!」
伊吹は有無を言わせない勢いで木内にこれからの目的を告げると、木内の先を歩き始める。
2人はいつもの調子で地下駐車場に下りると覆面パトカーに乗った。
―――了