魔神

***「G」との遭遇***



「俺の名は和夜、宇宙人だ」

 和夜と名乗った少年は確かに自分を宇宙人だと名乗った。
 彼と僕らが出会ったのは、1980年の夏休み。僕らが5年生の2泊3日の林間学校で、温泉が多いと聞く自然豊かな里山を訪れた時の事であった。
 2日目の午後は自由時間になっており、僕は親友の伴行と二人で周辺の散策に出かけた。僕とは対照的な伴行は、背も高く、社交的な性格で沢山の友達がいる。しかし、彼は僕を親友と呼び、僕が一人になる時は必ず一緒に行動してくれた。
 川の源流が宿舎の近くにあり、多くの生徒はそこで遊んでいたが、僕らはその更の森を散策していた。
 和夜に出会ったのは、その時だった。僕らと同い年位の紺色の浴衣を着た少年が岩の上に座って空を見上げていた。

「地元の子かな? おーい!」

 伴行は少年に手を振った。彼は僕らに微笑んだ。整った綺麗な顔だった。

「君達はここの子かい?」

 彼は岩の上から僕らの前に飛び降りると聞いた。不思議な事に、飛び降りた筈なのに、とても緩やかに彼は着地した。まるで宙に舞った花びらが水面に着く様に静かだった。
 僕らは首を振った。同時に、彼も僕らと同じで、地元の子どもではないことがわかった。

「ふーん……。君達、名前は?」
「伴行」
「帝史」

 彼に聞かれるままに、僕らは答えた。

「たいし……いい名前だね。何をしていたの?」
「小学校の林間学校で……自由時間だから、散策をしてたんだ」
「ふーん」

 彼はとても楽しそうに僕の拙い説明を聞いていた。名前を褒められた為か、伴行とすらいつも話を聞くばかりなのに、僕は自分から彼に話した。

「おい。聞いてばかりじゃなくて、自分も言えよ!」

 伴行は彼に言った。僕はその言葉で彼の正体が全くの謎である事に初めて気がついた。

「俺の名は和夜、宇宙人だ」

 彼は確かにそう答えた。
 僕らはあまりに突飛な返答に呆然とした。その反応を和夜はとても満足気な顔で見ていた。

「本当に、宇宙人なの?」

 やっと発した僕の言葉は、笑い飛ばすでも、気持ち悪がるでもなく、彼を肯定しようとするものであった。

「あぁ。夜に輝く月の更に先から、俺は来た」
「何をしに?」
「温泉に入るために」
「温泉?」
「知らないかい? ここの温泉は宇宙でも有名な名湯なんだ」

 和夜は地球は丸いんだよって授業で話した先生の様に言った。一言の言葉ではとても理解できない事なのに、不思議と僕はそうなのかもしれないと思ってしまう先生の様な雰囲気が彼にはあった。

「なんで宇宙人が浴衣を着てんだよ!」

 伴行が僕の前に割って入り、和夜に聞いた。やっと彼も思考が回転したらしい。

「裸じゃ風邪をひくだろう?」
「そういう意味じゃなくて、なんでオレ達みたいな姿をしているんだよ!」

 伴行の言いたいことが僕にもわかった。宇宙人といえば、漫画雑誌で見たタコだかよくわからない姿をしているものだ。和夜はどこから見ても、日本人の子どもだ。

「そんなことか。星にはそれぞれその星に合った姿がある。俺はこの星に合った姿、つまり文明を発達させている今においての君達地球人の姿をしているんだ。俺の星にいけば、俺もこの姿とは似ても似つかない本来の姿になる」
「じゃあどうやって来たんだ?」
「そりゃ、舟に乗ってさ。……そうだな、月ノ舟って呼ぼう。本当は正しい名前があるんだけど、この星の言語では発音ができないんだ」
「他に仲間は?」
「星には沢山いるけど、ここには俺一人だ」
「まだ子どもじゃないか!」
「今の姿は君達と同じ子どもの姿だが、俺はもう長く生きている。この星の周期にして、何百年間という長い時間だね。宇宙も広いから、いくら光の速さよりも早く移動する事のできる月ノ舟でも、俺の星からここまではとても長い時間をかけなければならない。だから、君達の感覚で言えば、僕は不老不死といえる」
「お前の星はどんな星なんだ?」
「この星と条件的に大差はない。元々、生命が誕生するのに必要な条件が揃う星は皆、似ているからね。俺の星とこの星の違いは、月が二つある事だ。二つの月の軌道はとても複雑だが、この月による引力のお陰で俺の星の生命は豊かに進化し、こうしてこの星へ来るほどにまで文明が進んだ」
「わざわざ温泉に入る為にこの星に来るなんて考えられないな。本当に宇宙人なら、調査とか侵略とか……そういうもんじゃないか?」
「それが君達の先入観となって、文明の進度を遅らせている。君達だって、こうして林間学校という目的で違う土地を訪れているだろう?」
「それは近いし……」
「近い? じゃあ、今から歩いて自分の家まで帰れるかい?」
「それは……」
「それと同じだ。移動手段が進歩すれば、距離感はどんどん短くなる。確かに、この星から俺の星は遠いし、それは俺自身の距離感でも近いとまではいえない。だけど、行けないと諦めるような距離ではない。だから、俺は温泉に入るという目的の為に、少し遠い星まで来た。君は温泉に入るといって、近所の銭湯に入るかい?」
「いや……」
「だろう? それが旅行だ。俺は温泉旅行というものを楽しむ為に、この星まで来たんだ」
「………」
「どうやら、もう反論できないみたいだね。その歳の知能としたら、上出来な方だ」

 和夜は黙り込んだ伴行に言った。そして、彼は僕を見た。

「帝史、君は何かないのかい?」
「……じゃあ、月ノ舟を見せて!」

 僕は言った。すると彼は少し困った表情をした。

「見せられない訳ではない。でも、今はできない。今は月が出ていないだろう? だから、月ノ舟はその姿を現せないんだ」
「じゃあ、今夜! 今夜、またここに来るから、僕に月ノ舟を見せて!」
「構わないけど、大丈夫なのかい?」
「抜け出せばいいよ! ね、伴行!」
「あ、あぁ」

 その時の僕は、いつもでは信じられないほどに積極的だった。夜に抜け出して外に出るなど、いつもの僕では到底言い出せない事だ。
 僕が懇願すると、和夜は笑顔を浮かべた。

「いいよ。今夜、ここで待っている。一番月が綺麗な時がいい。……1時。真夜中の1時にここで待っている」
「うん」

 僕は満面の笑みで頷いた。

「君はどうする?」

 和夜は伴行に聞いた。彼はブスッとした顔を作って答えた。

「オレも行く。お前が本当に宇宙人かこの目で確かめてやる」
「よし、決まりだ」

 和夜は言った。
 その時、宿舎の方からクラスメイトの声が聞こえた。

「トモー! 自由時間、終わるぞぉー!」
「おー!」

 クラスメイトに呼ばれて、伴行は答えた。
 そして、彼は僕の手を引き、そのまま和夜から離れる。

「じゃ、今夜ここで」

 離れていく僕らに和夜は笑顔を浮かべたまま言った。





 

 夜、皆が寝静まった頃、僕は静かに布団から抜け出した。
 布団を時計に被せて懐中電灯で時間を見た。午前0時45分、丁度良い時間であった。
 僕は、隣の布団で寝ている伴行を起した。

「………時間だよ」
「……本当に行くのか?」
「うん」
「わかった」

 僕の返事を聞くと、伴行はもぞもぞと布団から出てきた。
 そして、足音と息を殺して教師達の眠る部屋の前を通り過ぎ、廊下を出て、持ち出した靴を履いて、勝手口から外へと出た。
 和夜が言っていた通り、月はとても綺麗な満月であった。そして、月明かりだけで足元も十分に照らされていた。
 僕らは約束していた場所へ向った。

「やあ。丁度だね」

 岩の傍らに昼間と同じ浴衣姿の和夜が笑顔で僕らを迎えた。

「本当に月ノ舟を見せてくれんだろうな?」
「当然だ。ほら、月をご覧よ」

 伴行に聞かれて、和夜は微笑んで答えると、月を手で示した。僕らは月を見上げた。
 月の端が光り、その光は瞬く間に近づいてきた。
 月を見上げる僕らは驚愕した。
 それは巨大な蓮の花の様な形で、漫画雑誌に出てきた灰皿の様なUFOとは違い、洋館の天井に下がるシャンデリアの様に豪華絢爛な無数の光が輝く美しいものであった。

「これが、月ノ舟だ」

 頭上に浮かぶ巨大な月ノ舟を見上げる僕らに和夜は言った。

「これ、どうやって乗るの?」
「俺が連れて行ってあげる」

 僕の疑問に和夜は答えた。すると、和夜の背中から昔絵本で見た天女の羽衣の様に、美しい薄く透き通った二枚の羽が現れた。
 二枚の薄膜状の羽を揺らす和夜の身体は浮き上がった。月ノ舟の明かりに照らされた和夜の姿はとても綺麗だった。

「さあ、二人とも、手をお掴み」

 言われるがままに、僕と伴行はそれぞれ差し出された和夜の手を掴んだ。
 僕らは和夜に導かれ、宙に浮いた。
 驚く僕らを和夜は静かに微笑み、そのまま月ノ舟へと向った。





 

 月ノ舟の中はとても広く、全てが真っ白で、その奥行きはどこまであるのか全くわからなかった。

「さて、折角だから少し宇宙に行ってみよう」
「いいの?」
「ああ」

 驚く僕に和夜は笑顔で頷いた。

「でも、これじゃあ折角の宇宙も見えないぜ?」
「それなら、はい」

 伴行の疑問に和夜が答えた瞬間、白一色の船内は壁が透き通った様に外の景色に切り替わった。僕らの足元にはさっきまでいた場所の岩があり、少し離れた場所には宿舎があった。

「すげー!」
「すごい!」
「これで、楽しんでもらえる筈だ。では、行こうか」

 和夜の言葉に合わせて、地面がどんどん遠ざかり、逆に雲が近づく。
 そして、一瞬にして雲は僕らの横を通り過ぎ、足元に地球が浮かんだ。

「今は地球の衛星軌道上だ。……まずは月へ」

 和夜の言葉が終わる前に、月ノ舟は地球の衛星軌道上から離れ、前方に浮かぶ月がどんどん近づく。

「すごい、これが月なんだ……」
「こんなにデカいのか……」

 月の表面を足元に望み、教科書の写真でしか見た事のなかったクレーターなどのゴツゴツとした月面を僕らは四つん這いになって見た。

「感嘆といった様子だね。でも、本番はここからだ!」

 和夜が言うと、月から離れ、今度は星が光の筋となり、光は筋のままで止まったかと思った瞬間、全てが目の前の一点に集まった。
 その一点に飲み込まれると思った瞬間には、僕らの目の前に赤い星が浮かんでいた。

「火星だ」

 和夜は言った。僕らは目の前に浮かぶ星を眺めた。

「火星人って、いるのか?」
「さぁ? 俺もそこまでは知らない。……次は木星だ」

 伴行の質問に苦笑して答えると、和夜は言った。また僕らは一瞬にして木星の目の前に移動した。
 こうして、僕らは巨大な木星を見て、土星の環を回り、天王星、海王星、冥王星を廻った。

「もう太陽があんなに遠くなっちゃった」

 冥王星とそれに匹敵するほどに大きい衛星の間で月ノ舟は止まり、僕は太陽を見て呟いた。太陽はとても小さく輝いていた。最早ここからではどの星が地球かの判断はできない。

「太陽系の果てだからね。ここから先を君達の星の表現で表すと銀河系と呼ぶ広い世界になる」
「銀河系にも果てがあるの?」
「当然。宇宙から見れば太陽系も銀河系も対して変わらない位の小さい星の塊に対する呼び名にしか過ぎない。地球から見える星々の帯、天の川と呼ばれる星の殆ど全て、この銀河系の星だ。だから、この銀河は天の川銀河と呼んだ方がいいのかも知れない」
「他にも銀河はあるの?」
「当然。……見えるかい? あそこに見える星の渦、あれがアンドロメダ銀河だ」

 僕が聞くと和夜は渦を巻く星の塊を指した。

「漫画で見た事ある」
「うん」
「アンドロメダ銀河は、君達の星の単位で表すと……大体230万光年くらい地球から離れているな」
「それって遠いの?」
「ここから地球までは5光時。銀河系の直径はおよそ10万光年」
「光時?」
「光年ってのは漫画でよく見るけど、アレってなんだ?」
「地球人が現在計測出来る最速の存在が、光なんだ。光が1秒で届く距離がおよそ30万キロメートルで、光年というのは光が1年で届く距離を表す単位で、およそ9兆4600億キロメートルだな」
「9兆4600億キロ!」
「……それが230万倍だから? ……訳がわかんねぇ!」

 僕と伴行は頭から煙が出ているのがわかった。とても小学5年生が計算できる位ではない。

「宇宙の広さと、君達の世界の狭さはわかってくれたかな?」

 和夜はとても面白そうに聞いた。僕らは黙って頷いた。

「とりあえず、今はここまでにしよう。そろそろ戻らないと、あの森へ夜明けまでに帰れない」

 和夜が言うや否や、月ノ舟は地球へ向けて戻り始めた。
 気がつくと、目の前に地球が現れ、後ろには月が浮かんでいた。

「今は君達のいた場所からかなり離れた位置の上空にいる。ほら、太陽をご覧」
「少しずつ見えてきた」
「今、この足の下にある地上に夜明けが訪れたんだ。……月ノ舟の移動は、体感の時間と実際の時間が違うけど、君達はもう何時間も月ノ舟にいたんだ」

 太陽の明かりに照らされていく地上に見とれる僕らに和夜は言った。

「もう、お別れだね」

 僕は小さく呟いた。

「そうだね。………それとも、一緒に行くかい?」
「え?」

 和夜は小さな声で囁いた。僕は和夜に振り向いた。彼は切なそうな笑みを浮かべていた。

「俺と一緒に行けば、銀河系の外も……いや、俺の星まで見せてあげられる。………帝史、君なら俺の仲間に、親友になれる」
「………」

 とても嬉しかった。今まで僕を親友と呼んでくれたのは伴行だけだった。でも、彼の言葉には伴行以上に僕を想う気持ちが感じられた。言葉に想いをこんなにも感じられた経験は今まで、なかった。
 しかし、僕は答えを言えなかった。口を開いても先に続く言葉が出てこない。言葉を失ったかと思った。
 家族の顔が浮かび、話もした事すらないクラスメイト達の顔が浮かび、担任、近所の人、次々に頭の中に浮かんでは消えた。僕は、地球から別れられないと悟った。

「おい! オレも宇宙に行きたい! 帝史がいいんだ。当然、オレもいいんだろ?」
「………あぁ。構わない」

 伴行が言うと和夜は頷いた。しかし、その目は僕に言った時と少し違った。

「帝史、君はどうする?」
「……ごめん。和夜、君の事を親友だと僕も思う。それは本当だ。……でも、僕はこの星を離れたくない。……ごめん」

 僕は俯くと、消えそうな声で和夜に言った。

「いいんだ。……それなら、それで」
「………」

 和夜は優しい声で言った。
 しかし、僕は顔を上げることが出来なかった。

「……はい」

 和夜は僕の右手を取ると、何かを握らせた。
 僕は、手の中にあるモノを見た。それは巻貝の殻に似ていた。しかし、貝の口からは七色の光の帯が漏れている。その光は和夜の背中の羽に似て、とても綺麗だった。
 僕は顔を上げて、和夜を見た。

「これは?」
「お土産の………お礼だよ。天羽衣というものだ」
「あまのはごろも? 昔話に出ている?」
「天羽衣は一体となる事で、俺の持つ力を得ることが出来る存在だ。つまり、不老不死になれる。ただし、それを纏うという事は俺の仲間になるという事だ。「人」でなくなる。……これを親友の証として、受け取って欲しい」
「うん。ありがとう」

 可能な限りの笑顔で僕は、天羽衣という貝殻を確りと握り締めながら言った。

「それじゃ、お別れだ」

 和夜は伴行の手を引いて、僕から離れると言った。

「帝史、元気でな」
「二人とも……さようなら」

 僕は二人に別れを告げた。
 


 

 

 その後、どの様にして宿舎に帰ったのか覚えていない。
 気がついた時、僕は自分の布団の中にいた。雨戸の隙間から部屋に差し込む光が、既に朝になっている事を僕に教えた。
 そして、隣に敷かれた伴行の布団には、伴行の姿はなく、僕の手の中には貝殻があった。
 この後の事は詳細に覚えていない。あまりにも慌しく、そして混乱に満ち溢れていたからだ。
 起床後の点呼で、伴行が消えた事に気づき、宿舎内を生徒と教師全員でくまなく捜索したが伴行は影も形も見つからない。
 その後、周辺も教師達大人が捜索したが、見つからず、遂に警察へ連絡した。
 パトカーや警察官の姿を見た生徒達は動揺し、宿舎内は泣く者、騒ぐ者達によって混乱状態になった。
 まもなく、大人達は捜索隊を編成し、森の中を捜索した。

「帝史、ちょっといいか?」

 本来なら宿舎を出発する予定であった昼過ぎ、担任が僕を呼んだ。周囲の子ども達は泣きつかれて眠っていたり、事の重大さを実感しきれていない者が遊んでいたりと、先程に比べると大分静かになっていた。

「昨日、お前と伴行、生徒以外の男子と一緒にいたよな?」
「はい。……和夜と言ってました」

 不思議な事に、僕は一切動揺しないで答えた。それは、昨夜の出来事に後ろめたい気持ちがなかったからなのかもしれない。

「やはりか……実は、その和夜って子らしい遺体が見つかったんだ」
「え?」
「……先生は嫌なんだが、警察が帝史に顔を確認して欲しいって言うんだ。……先生も見たが、確かに傷とかがないから見せられない状態という訳ではない。だが………」
「先生、見せて下さい。……僕の目で、和夜かどうか、確認します!」

 僕は言った。和夜が死んでいる筈がない、彼は宇宙に行ったのだから。
 僕は担任に連れられて、森を進んだ。連れて行かれたのは、昨日僕らが和夜と会った場所であった。岩の傍らにシートに包まれた何かがあった。
 警察の人が何か言うと、僕にシートの中を見せた。
 その子どもの遺体は、和夜の顔をしていた。しかし、心なしか、顔が和夜と違う様に見えた。僕はこの遺体が和夜ではないと悟った。

「どう? 和夜君かな?」
「はい。……この顔は、和夜です」

 警察官に聞かれた質問に、僕は答えた。一切の感情がない、静かで冷たい口調で答えた。
 その後、少年の遺体は運ばれ、僕らも数時間遅れで帰路についた。
 それからの小学校での記憶はあやふやにしか残っていない。修学旅行にも行ったが、誰と班を組んだのか、どこに行ったのか、覚えていない。
 やがて歳月が流れ、大人になった僕は結婚し、子どもが生まれた。その時間の流れの中で、僕はこの出来事を忘れてしまった。
 しかし、今でも僕は月の綺麗な夜になると、この出来事を思い出し、夜空を見上げる。
 僕の見上げる夜空の彼方には、二人の親友がいるのだから。




【おわり】
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