本編






一体無音はいつまで続くのだろう
愛の永遠(とわ)へと言う
花咲く時まで

――人同士が口をきこうとしない。でも、互いを理解しあったら、この地に、いつか純白の花が咲いてほしい。

明日が見えなくても
微かな光を

――彼の分まで、光を胸に灯して明日を生きていきたい。

例え短い人生だったとしても
自分らしく生きることが出来たなら
それは良い死なのだろう

――彼は自分らしく生きれたのかな?分からない。けど、最期に彼は彼自身を取り戻せた。

笑いながら
夜明けの光は来る

――私は、夜明けの光のような人になりたい。

闇を振り払い
天則(リタ)に従い
方角を見失わず

――闇に魂を飲まれたカルナを、神の領分を侵犯したアグネアを、繰り返してはいけない。

笑いながら
夜明けの光は来る

――だから私は、夜明けの光のような人になりたい。




彼の体も、彼の砂も、今やどこにもない。あるのはシタールだけ。それでもカルナが聴いているような気がして、ウシャスは詩の最後まで歌い続けた。
最期くらい、楽しい歌で迎えてあげよう。
「さよなら…カルナ…」







『少女、』
ウシャス同様、カルナの最期を見届けたゴジラが、彼女のもとへ近付いた。
『カルナのシタールを持ち、この地を去れ。後千年は草木一本生える事もなかろう。』
つまり、カルナの形見をウシャスに譲るということか。人と繋がりを持つ事で力を得てきたゴジラが、自ら人との関わりを断ち切ろうとしている。脳に直接届く声はやはり人とは違っていた。
「貴方は…どうするの?」
『日のいづる海へ行かん。同胞を探し、残りの時を全(まっと)うする。人との繋がりは、カルナで最後だ。』
ウシャスの問いにそう告げると、ゴジラは大きな躯を翻す。そして歩みだし、彼女の前から姿を消した。
それが、ウシャスがゴジラの姿を見た最後だった。
ゴジラの通った道は、炭の木々が砕かれ、黒く塗り潰されていた。
「日いづる…か。」
カルナの家族、そしてカルナ自身の形見のシタール。子供の身の丈近くあるそれを両腕に抱えて、ウシャスは東の空に目を向ける。


その後、ウシャスは、カルナという名が慈悲の「悲」を意味していると知った。
悲しみを共有し、他者の悲しみを取り除く。その言葉自体の意味は、「嘆き」。
他者を楽しませる「慈」を望みながら、彼は悲しみを吸い過ぎた。
無念のうちに死んでいった人たちの悲しみを、一身に引き受けて。
彼は、生まれる時代を間違えてしまったのだろうか。




――そして、10数年の時が過ぎた。
ウシャスは幼馴染みの異性と結婚し、東へと旅立った。
アグニ国の科学力で造られた乗り物は自家用すら空を飛べる。それで行き着いた場所が、日出る国・葦引、今でいう日本だった。
海から太陽が見える太平洋側。
そして一人目の子供も生まれた。黒髪の男の子だ。

「ミトラは本当にシタールの音色が好きなのね。」
「うん、それでね、僕がおっきくなったら、弾き方教えて!」
「ふふ、分かってるわよ。」

ガジャ・ナーガの恩恵を受けていたカルナは、ウシャスにとある「力」を授けた。
この「力」は、一族の末裔まで途切れることも消えることもなく、継承されていく。
未来の大きな災厄を予見する力。
それは願いの戒めか、呪いの復讐か、ウシャスにも分からなかった。
彼の受けた辛酸をその骨身で味わえということだとしても、悲劇を繰り返してはならないという責務を人間は果たさねばならない。
この子――ミトラにも例の能力があるだろう。しかし不思議な事に、その子はカルナの生き写しのようによく似ていた。それだけでなく、彼はシタールの奏者を目指しているのだ。まるでカルナの遺志のように。
彼はもうすぐ7つになる。ウシャスがその年に、カルナは一度命を落とした。
カルナの魂が、共に歩もうとしてくれているのかもしれない。ウシャスはそんな気がしてならなかった。




KARMA・完
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