本編

紀元前2000年頃のインドに、アグニ国とスーリヤ国が存在していた。
アグニ国は非常に高度な文明を持ち、「アグネア」という新型兵器を作り出した。
それは現代の原水爆と形式が全く同じものだった。
そしてアグニ国はスーリヤ国との戦争で、スーリヤ人の頭上へと、アグネアを突き落とした。
それが、後に「G」と呼ばれるものが姿を現わす原因となるとは、この時誰も知らなかった。





鉛色の空から白い綿のようなものが降っている。
雪ではない。この地域は温暖で雪など降らない。
雪に似て非なるそれらは、地面に降り積もり、地表がすっかり見えなくなっていた。
ここは林だろうか、しかしまるで山火事の後のように、木々は黒い炭になって死んでいる。
その、死んでいるくせにつっ立っている炭の木のひとつに、うずくまっている人影があった。
ギターやウクレレに似た大きな楽器を両手に抱き、ばさばさになった黒髪を垂らしている。
彼の下に、真っ白い地面に赤い雫がポツポツとこぼれる。
――許さない。
青年は呪いの言葉を何度も何度も繰り返す。
体中が煤と傷だらけだが、際立っていたのは左の顔半分がひどい火傷を負っていたことだ。
彼は名前をカルナといい、スーリヤ人だ。
彼は子供の頃――まだ戦争が始まっていない時、アグニ国の音楽に惹かれた。1m強はあるアグニ国の撥弦(はつげん)楽器・シタールを父が誕生日にくれたのだ。
しかしカルナは数日前、その父を、母を、妹を、友人を、夢も希望も失った。
アグネアに、アグニ国に、奪われた。
少女がぬいぐるみを抱き締めるように、家無き子はそのシタールを抱き締める。

カルナの夢は、アグニ国とスーリヤ国で有名なシタール弾きになることだった。

「どうしてこんなことに…」
肺から息が抜けるように、力なく呟く。
しかし目だけはギラギラと光らせていた。
こいつをどうしようかと、カルナはシタールを見る。敵国の楽器。皮肉にも、これが唯一の形見になってしまった。
大事なものを奪った仇敵を、彼はすぐにでも惨殺してやろうと、延々と考える。手段も方法もどうでもいい。胸の中で蛇がとぐろを巻くように、怨恨と憎悪が渦巻いていた。
しかし、彼は心身ともに衰弱しており、走ることはおろか戦うことなど論外だ。
その時。
「!」
前方から人の気配を感じたカルナは前を見る。そこには、防護服を着たアグニ人が立っていたのだ。
『アグニ人のガキ!』
国籍は防護服の形で分かった。
アグニ人と分かるや否や、カルナは獰猛な狂気の不可抗力がたぎるのを感じた。そして傷だらけの全身に鞭を打つ。
そして、脊髄反射の勢いで立ち上がり、手近な凶器――シタールを構え…

「傷…痛いの?」

宇宙服にも似た防護服頭部の窓越しに、10も満たない少女が、心配そうに眉を下げていた。
「…っ!」
カルナは目を見開くと、力なくシタールを下ろした。

これが、青年・カルナと少女・ウシャスの出逢いだった。
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