「G」の軌跡





ゴガァァァァァァオン…!

ゴジラの咆哮が相模湾に轟く。

『ゴジラが出現しました。付近住民は、すみやかに避難してください。繰り返します………。』

避難を促す放送が街中に響き、その元では避難でパニック状態になっている人々の姿があった。

自衛隊の車両が編列を組んで、車道を進んでいく。
その先には、上陸をしようとするゴジラの姿があった。


ゴガァァァァァァオン…!

突然、ゴジラの動きが止まり、咆哮した。
自衛隊はまだ攻撃準備すら整っていない。

ゴジラは、ゆっくり沿岸を伊豆方面に移動し始めた。

全く状況がわからず、立ち尽くすのは自衛隊であった。



一方、ゴジラの上空にいたガルーダⅡの将治は、事態を報告する。

「ゴジラが伊豆方面に移動し始めました!」
『本当か!………伊豆の伊浜原子力発電所が狙われる可能性が高い。至急、確認を。……麻生はそのままゴジラを追尾しろ。』
「了解。」
『ならん!』
「その声は、お爺さん!」
『………お前はまだ仮隊員だ。まだ戦闘に参加するのは早すぎる!』
「お爺さん、僕の友人は今、別のところで戦っています。僕も、自分の出来る戦いをしたいのです。」

そして、将治は通信を切った。



 
 


「将治!」

通信機の前で、孝昭はうな垂れる。
そこへオペレーターの声が響く。

「指令!伊浜原子力発電所を確認したところ………。映像を出します。」

「………これは。」
「嘘だろ。」
「ビオランテ、なのか?」

映像に映し出されたのは、原発の中から蔦を伸ばし、中から生え出してくる巨大なバラのような生き物であった。
オペレーターが言う。

「僅か数分前の衛星画像には一切、それらしき姿はありません。」

「つまり、数分以内でここまで急成長したのか。」
「紛れもなく、化け物だ。」

司令室にいる全員がそのあまりの異形なる姿に驚きを隠せず、しばしその成長する姿を傍観してしまっていた。

「新城!至急、ゴジラへ向かった部隊を。」
「えぇ。伊浜に出現した謎の巨大怪獣へ向かえ。」
「了解!」

すぐさま、指示が部隊に通達される。

「………どうするんだ?」
「いくつかこちらにも手はあります。」
「……アレが完成しそうなのか?」
「はい。正確には、ガルーダⅡよりも先に完成はしていたのですが、乗艦する人間の選抜と指導、それと艦上機にあたる物がまだ未完成だったので。」
「………やはり、黒木か?」
「えぇ。元々が元々ですから、双方で適任だと判断されました。」
「……わかった。事態によっては、今日中に出撃する必要が出てくるかもしれんぞ。」
「わかってます。今、黒木さんがこちらに向ってます。」
「わしも出来る限りの協力はする。………それで、将治にアレの操縦を任せたのか?」
「いずれは、と思っていたのですが。成り行き上、少し早まりました。」

そして、彼らは再び、モニターに映し出された緑色の異形なる怪獣を見つめるのであった。







「ごめんなさい。あなた達まで巻き込んでしまって。」

倉庫のような部屋に監禁されて、優はみどりとシエルに謝る。

「あなたが謝る事はないわ。悪いのは全部あいつらなんだから!」
「それに、私は自分から捕まったのだから、あなたが謝る必要はない。」
「シエルちゃん、なんでわざわざ?健達と一緒に待っていればいいのに。」
「ミドリを守る為。………それに、助けもすぐにくる。」
「え?」
「私が捕まった時に、ミドリの携帯電話をトラックに仕込んだ。だから、すぐにここの場所もわかるわ。」
「………もしかして、シエルちゃん、そのために?」

優が聞くと、シエルは頷く。

パシン!

倉庫の中に平手の音が響いた。みどりがシエルの頬を叩いた音だ。

「馬鹿!なんでそんな危ない事をするのよ!もしかしたら、シエルちゃん、殺されてたかもしれないんだよ?」
「………いいの。」
「え?」
「私は、ゴジラと健を守る為に来たから。……健の大切な人を死なせない。」
「シエルちゃん、もしかして記憶が?」

みどりの質問に、シエルは何も答えなかった。

「なんでソビラがいるんだ!」

突然、外から大声がした。
その後、発砲音。
二人は思わずシエルにしがみつく。

「何があったの?」

しばらくして、足音が扉の前で止まり、扉が開かれた。

「大丈夫かい?」
「山根さん!」

扉を開けたのは健吉だった。

「どうしたの?今の音……。」
「仲間割れだ。伊豆に怪獣が現れたんだけど、それがどうやら彼らが生み出したものらしい。」
「ワン!裏切ったのか!」

八神の声が廊下の先から響く。
そして、その先から三神が走って出てきた。片手にはスーツケースが握られている。
そして、その後ろから八神が出てくる。

「三神!それを奴に渡すな!……コイツは、俺を裏切ってた!俺達の組織じゃない!コイツらが目論んでるのが、NEXT"G"計画だ!………ぐっぁ!」

叫んでいる途中で、八神が呻き声を出した。彼は楯になっていたのだ。
崩れる八神。そして、白い廊下に赤い液体が広がる。
そして、倒れる八神の後ろには片腕が巨大な刃物に変形し、そこから血を滴らせているワンの姿があった。

「早く……ソビアを……あいつは……俺が作った………ゴジラとバラのキメラだ………ぐがっ!」
「やかましい。死ぬならば、さっさと死ね。」

そう言い、とどめを指したワンは、腕を八神の背中から抜く。

「………お前は、何者だ!」

三神が言う。

「何者……人間は非常に哲学的な質問をするな。……だが、恐らくこの説明で納得するだろう。我は、タイプM-5。固体名、α。俗に言う、アンドロイドだ。」
「………アンドロイドだと?」
「納得が出来たか?では、お前達を削除する。計画には邪魔な存在だ。」
「逃げるぞ!」

三神の一言で、皆が一斉に走り出す。
後をαが追う。




 


グオォォォォーーーォン!

ソビアは咆哮をあげる。
既にその姿はある程度の形となっていた。中心にそびえる蔦の頂に赤い蕾ができ、その中心には、無数の棘が連なり、巨大な口の様な形を作りつつあった。

そこへ、自衛隊の航空機がミサイルで攻撃をする。

グオォォォォーーーォン!

爆発で蔦が吹き飛ぶが、物凄い速度で再生される。



『物凄い再生速度です!』
「まだ謎だらけの怪獣だ。慎重に攻撃しろ!」
『了解!』

司令室では、その様子を見ながら新城達が攻撃の手段を考えていた。
そこに、未希からの電話がかかってきた。

「どうした?」
『桐城健君と青木さん達がみどりちゃん達の救出に向ってしまったわ。』
「なんだと?………全く、あの人達は協力しているのか、迷惑をかけているのか……。」
『それに関しては、警察の方が動いているみたい。なんでも、国際捜査官が救出に向っているみたい。……それよりも、テレビの怪獣の映像を見たわ。』
「ビオランテか?」
『違うわ。どことなく似ているけど、全然違う。少なくとも、あの怪獣からはビオランテみたいな女の人の感じはしない。』
「じゃあ、ゴジラは?」
『テレビで見ただけだから、言い切れないけど、多分ゴジラの細胞は組み込まれていると思う。』
「つまり……ビオランテが生まれなかった代わりに現れた怪獣と考えていいわけだな?」
『そう考えていいわ。これからどうすればいい?』
「………こっちに来てくれ。桐城さん達も一緒に。」
『わかったわ。』

そして、電話を切り、新城は指示を出す。

「メーサー航空機とメーサー戦車の応援出撃を自衛隊へ要請してくれ。植物ならば、効果がある可能性がある。」




 


「ここは地下研究所だ。エレベーターか階段が………。」
「こっちにあるわ!」

優が階段とエレベーターを見つけ、呼びかける。そして、とりあえずエレベーターのボタンを押した。

「階段で………そんな!ドアに鍵がかかってる!」

三神が階段へのドアを開けようとするが、ドアは開かない。彼らに武器はない。そして、αは迫ってくる。
万事休す。そう思った時、シエルが前に出た。

「シエルちゃん!」
「下がってて、エレベーターが来たら、すぐに上がって。………このガラクタは私が倒す。」
「無茶よ!」

みどりが言った瞬間、シエルはαに立ち向かっていった。
皆が思わず目を閉じた。が、ゆっくり目を開けると、そこには予想外の光景があった。

「貴様、何者だ?」
「随分と哲学的な質問をされるじゃないの、ガラクタの癖に。………いいわよ。教えてあげるわ。特に、あなたには一番よくわかる言い方で。」

シエルが片手でαの腕の刃物を押さえていたのだ。
そして、シエルは名乗った。

「私の名は、CIEL-M-6。あなた達の次世代型よ。正確には、その型式のアンドロイド素体にCIEL社の移植改造手術を施されたサイボーグなんだけどね。」
「CIEL社?その様な会社は知らない。それに、我々以上のアンドロイドが存在するはずがない。」
「そりゃ当然よ。CIEL社は今から5年後に出来る会社だもの。………当然、あなたの識別機能程度じゃ、私を普通の人間と区別するのは不可能でしょうね。」
「な、何故だ?」
「そんなのを私に聞くの?………タイムマシンを理解できているのに、全く本当にガラクタね。」
「ガラクタと呼ぶな!」

αがもう一方の腕も刃物に変形させてシエルに刺そうする。
だが、シエルは手刀でその刃物を折ってしまった。

「バカな……。」
「言ったでしょ?スペックが違うんだから。」

「シエル!」

みどりがエレベーターに乗ってシエルを呼ぶ。
シエルは振り向いて言う。

「私に構わずに行って。私なら余裕よ。………うぐっ!」
「余所見をするナ。馬鹿メ。」

シエルの脇腹をαの蹴りが入った。
その足は、巨大な棘が生やされていた。

「来て!早く!」
「ちっ!ガラクタめぇ!」

シエルの回し蹴りがαを廊下の反対側にまで吹き飛ばす。
そして、脇腹をおさえながら、エレベーターに乗り込む。
αが立ち上がる時には、エレベーターの扉は閉まっていた。




 


エレベーターの中で、シエルは自分の脇腹の傷を確認する。一切出血もしていない。みどりが話しかける。

「シエル………あなたは?」
「未来人ってところよ。本当はすぐに彼らからゴジラをまもるはずだったのだけど、タイムスリップする時のショックで記憶を失ってた。………ごめんなさい。ミドリ、記憶が戻ってた事を黙ってて。」
「いいわよ。でも何故あなたはわざわざこの時代まで?」
「歴史をもう少しゆっくりとした流れにさせたかった。そして、会いたかったの。おじちゃんが好きだったゴジラに。」
「ゴジラはいなくなるの?」
「えぇ。これから数週間以内に。ゴジラはアイツに入れ替わられる。」
「アイツ?」
「私達はアイツをGや悪魔って呼んでいた。おじちゃんが最後まで戦い続けていた怪獣。全てを破壊して、世界を滅ぼそうとしていた怪獣。」
「………八神が言っていたNEXT"G"計画が成功したのか。」

そして、エレベーターが開き、一行は入り口へ向う。
しかし、その足は止まった。
入り口に片腕を刃物にしているβがいた。

「M-5の別固体だわ。」
「う、後ろも!」

シエルが言うと、健吉が後ろを見て言う。振り向くと、階段からαが出てきた。

「挟み込まれた……。」

シエルはどちら側に構えるか迷う。しかし、どちらも彼らに迫っていた。


その時、予想外の事態が起きた。
みどり達を連れ去ったトラックが、玄関の窓を破って、横からβにタックルを仕掛けてきたのだ。
トラックに轢かれ、βは吹っ飛ぶ。

そして、トラックの運転席から男が出てくるなり、ショットガンを撃ち、αを吹っ飛ばす。

「な……。」
「これはハリウッド映画か?」

「………うそ。」

皆が驚く中、みどりだけが違う驚き方をしていた。
ショットガンを片手に彼らに近づいてきた黒い礼服を着た男は、弥彦村やエマーソン博士の研究室にいた国際捜査官であった。
だが、それ以上にその男は……。

「お父さん!」
「みどり、助けに来たぜ。………皆さん、国際捜査官の藤戸拓也です。娘がお世話になりました。」

元トレジャーハンター、現職国際捜査官の拓也は、一同に挨拶をした。

「貴様……!」
「フジト、こっちの奴は私が抑える。早く、ミドリ達を!」
「え?………成程、そう言う事か。わかった!」

αに向って構えるシエルを見て、察した拓也はショットガンを構え、みどり達を外へ連れ出した。
そして、シエルはαに言うのだった。

「さぁ、ガラクタの性能を見せてもらいましょうか?」
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