「G」の軌跡





「何だって?わかった。すぐに助けに行きたいけれど……そうも行かなくて。」
『だぁぁぁあ!何だよ!これ以上に一大事があるのか!』

電話の先で健は叫ぶ。息が荒い、走っている最中だ。相手の将治が言う。

「伊浜原発に怪獣が現れるんだ。それを倒しに行く。」
『んだとぉぉお!どう言う事だよ!』
「これから、ガルーダⅡに乗って出撃するんだよ。僕がパイロットとして。」
『何だって!』
「次期パイロットとして訓練してきたんだけど、今回の出撃は極秘任務状態だから、事情を知ってる僕がパイロットに抜擢されたんだよ。」
『すげぇじゃねぇか!』
「まぁね。……それより、キミは走っているけど。どこに向かっているんだい?」
『筑波のGフォース本部に決まってんだろ!』
「走って?」
『走って!』
「電車を使え!」
『んなに遠いのか?』
「当たり前だ!」
『駅どこだ?てか、ここはどこだ?』
「………携帯のGPS情報で場所は分かるから、迎えに行ってもらうよ。…………なんで!」

突然電話を片手に叫ぶ将治。健までもが驚く。

『ど、どうした!』
「えぇ……と、わかった。適任者を向かえに向かわせる事にしよう。」

そう言う将治の前には、青木一家がいた。



 
 


「………という事らしい。それで、偶然居合わせた青木さん達が健君を迎えに向かっているそうだぜ。健君は今、国立生物科学研究所で、偶然一緒にいたお母さんと三枝さんと合流して、その到着を待っているらしい。」
「未希は何かそういうトラブルをひきつける能力でもあるのか?」
「今度調べてみれば?」

佐藤は笑って言う。
指令席のイスに座りなおすと、新城は話を進める。

「それは今はおいておこう。それよりも、NEXT"G"計画だな。」
「健君と美歌ちゃんから三枝さんが聞いた話だと、そうらしい。」
「繋がってきてしまったか。」
「だけど、未来人の予想は外れてそうだな。旧バイオメジャーが怪獣を生み出してるんだろう?」
「いや。そうなると、おかしい。ゴジラに代わる怪獣を生み出す為に、山根さんや三神さんをさらったんだとすると、彼らはゴジラを消して、その怪獣を山根さんや三神さんの力で生み出そうと考えている。そう考えるほうが理解できる。恐らくそれだけのバイオ技術と準備があるという事だろう。そうなると、オリハルコンの存在は少なくとも八神は知らないと考えた方がいい。」
「成程。でも、ただ単にその力を完全に信じてないだけじゃないか?」
「そうとも考えられる。桐城健護さんの失踪もどうも引っかかる。」
「なぁ。」
「なんだ?」
「あんまり難しい事を考えると禿げるぞ。」
「………私はそんな歳ではない!」

『あのー………。』

将治が申し訳なさそうに声をかける。

「あ、すまない!よし、システム全て問題なし!」
「いいぜ、しっかりやりな!」
『はい!ガルーダⅡ、発進します!』

そして、ガルーダⅡは無事に発進する。

「後、オリハルコンとゾエアの死骸の事だけど。」
「あぁ。」
「ゾエアの死骸から、どうも怪獣化するって言い方が本当に正しいみたいだ。本来自由に泳いだりするのは出来ないはずのプランクトンなんだけど、ゾエアになったら、本来は短い脚は長く硬いハサミとかになってるし、力も生命力も計算できないような向上だ。本当に、コスモスの神器っていうのが納得できるよ。」
「それで、何か弱点は?」
「とりあえず、オリハルコンは一欠片で怪獣に出来るのは一度限りみたいだ。まぁ、方法とかがあって、それをしなきゃ怪獣にならないってんなら、話は別だけど、回収された欠片も、届いた欠片もそれらしきエネルギーは無かった。怪獣の弱点は、怪獣次第で変わる。万能な弱点はわからない。」
「あるか、ないかもわからないか。」
「あぁ。それから、オリハルコンの年代を調べたら、面白い事が分かった。」
「なんだ?」
「驚け、年代の調べ方は色々あるらしいんだけど。作られてからどれくらいの歳月が経ったかを調べる方法と、どれくらい古い物かを調べる方法があるらしいんだ。その二つの結果、一方はたったの数十年くらいしか経っていないという結果。もう一方は数万という果てしなく古いものって結論が出た。」
「その時代が経ったことを調べた結果が間違ってたんだろう?コスモスの文明がモスラを生み出したんだから。」
「ところが、調査技術の信憑性の高さだと、こっちのが高いんだ。どう思う?」
「どうって言われてもなぁ………。」
「俺はこう思うんだよ!オリハルコンは、タイムマシンでこの時代に太古から来た!……どうだ?」
「………。」

新城は何も言わない。じっと、何か考えている。

「どうした?やっぱりむちゃくちゃか?」
「いや、キヨ!お前はすごいぞ!少なくともオリハルコンの謎は解けた!」
「お、おう。」

適当に今思いついた事を言ったとは言えず、返答に困る佐藤であった。




 


「健君。挨拶が遅くなったわね。三枝未希よ、はじめまして。」

未希は、イスに座ってうな垂れている健に缶ジュースを渡して話しかけた。
ここは国立生物科学研究所のロビーだ。

「三枝……あんたが!」
「私、そんなに有名人かしら?」
「みどりからも、山根さんからも聞いた。ゴジラの気持ちが分かるって!」
「えぇ。最も能力自体は昔ほど強くはないけどね。」
「会いたかった。会って直接今までのゴジラの事を聞きたかった。あんたならゴジラの気持ちがわかるんだろ?」
「私も、あなたに会いたかったわ。あの子は今もベビー、リトル、ジュニアの時と変わってないわ。まだその力の大きさに心の成長が着いていってないだけ。………健君はあの子に似ているわ。好奇心、正義感に満ちて、自分の可能性を信じてる。そして、まだ自分の成すべきことを知らない。だから、時には自分の信じる意思を無理やり通そうとしてしまう。」
「……すげぇ、超能力者ってなんでもわかるのか?」
「これはただの人生経験。私は元々動植物、言葉が通じないものの気持ちを感じ取る能力が高いの。……そうか、この世界にはいないんだ。」
「……え?」
「一度歴史からゴジラが消えた事を知ってる?」
「昔、寺沢のおっさんに聞いたことがある。未来人だのタイムマシンがどうのって。」
「むやみに他の人に話さない?」

健は頷いた。未希は小声でゆっくり話し出す。

「私はそのタイムマシンで前のゴジラを一度歴史から消している。」
「マジで!」
「うん。それで、私や寺沢さんが前のゴジラをゴジラザウルスの内にビキニ環礁の島からベーリング海に移した。そして、歴史はゴジラの誕生を遅らせた。……でも、前の歴史だとゴジラは既にあらわれてた。それが、私とゴジラの最初の出会い。」
「………。」
「今じゃおばさんだけど、当時は超能力少女って言われてて、ゴジラ上陸を止めてもらうように、ゴジラとテレパシーで交流したの。」
「通じたのか?」
「えぇ。」
「………俺、親のゴジラはアイツと違ってすげぇ悪い奴だと思ってた。………話せばわかるんだな!やっぱり、ゴジラすげぇ!」
「そして、バラとゴジラと人の細胞を合成させたビオランテという怪獣と戦った。今の歴史には存在しない怪獣よ。その苗の声を私は聞いた。………でも、多分前の歴史で存在しない怪獣もいれば、今の歴史で存在するものもいる。」
「今のゴジラ?」
「えぇ。確信はないけど、多分あの子がここまで立派になる事は無かったと思う。………もしかしたら、前の歴史で未来人たちが言っていた後に復活して破壊をする怪獣ゴジラがあの子だったのかもしれない。」
「大丈夫だ!」
「え?」
「アイツは俺の言った事がわかった。わかんなきゃ、今度は拳と拳で殴り合えば分かる!だから、大丈夫だ。」

健は拳を突き出して言った。
その姿を見た未希は、微笑む。

「………もしかしたら、私の役目は終わったのかもしれないわね。」
「ん?何か言った?」
「ううん。きっと健君なら通じるわ。」
「おう!」

そこへ未希へ電話がかかってきた。しばらく電話で話をしながら、住所らしきものをメモする。

「みどりちゃんの居所がわかったそうよ。」
「本当か!」
「他の携帯はここの駐車場に残されてたそうだけど、みどりちゃんの携帯だけが車と一緒に移動してたらしいわ。」
「………シエルだ。アイツが車に乗り込むときに持ち込んだに違いねぇ!」
「そうかもしれないわね。」

未希はそう言いつつ。脳裏では、健を車から遠ざける為に走らせて、自分が車に乗り込み易くしたのではないか、と考えていた。

「まさか。いくらなんでもそこまで………。これで、後は警察が何とかしてくれるはずよ。」

未希がそう言った瞬間、一陣の風が吹き抜けた。見ると、イスの上に置いた住所のメモがない。

「三枝さん!みどり達は俺が助ける!」

そう言うと、メモを手にした健が建物から出て行った。



健が建物の外へ出ると、目の前で一台のワゴン車が停車した。車体には翼竜のステッカーが貼られている。
そして、窓から見慣れた顔が出てきた。

「兄貴!」
「おう、翼!ナイスタイミング!おじさん!大至急、神奈川県のこの住所へ行ってくれ!みどり達の命がかかってるんだ!」
「わ、わかった!」

一馬は慌てて、車に健を乗せると、すぐさま車を発進させた。

「……で、どうして東京にいるんだ?」
「親父が用も済んだし、東京観光でもしようって、呼んだんですよ。」
「なるほどな……。」

翼は健に説明する。健は、何気なく後ろを見た。未希が外に出ていた。
健は隣に座る翼にも聞こえない小声で呟いた。すまない、と。



 

 

「指令!ゴジラが出現しました!場所、相模湾沖。針路は横浜方面へ北上中。」

オペレーターが言った。
佐藤が新城に言う。

「思ったよりも早かったな。」
「あぁ。まさか伊浜原発よりも先にゴジラが現れるとは………。」
「どうする?まだゴジラへの攻撃はGフォースの重要任務のままだぞ。」
「………上陸をするようであれば、武力によってゴジラを撃退する他ない。」
「麻生はどうする?」
「まだ怪獣が現れていない段階だ。それに、ゴジラが伊浜に向かわない事を考えるともしかしたら我々の勘ぐり過ぎであった可能性もある。………現在、ガルーダⅡで実務訓練中の麻生仮隊員には、このまま作戦に参加してもらう。」
「………いいのかよ、そんな事して。」
「仕方ないだろ?それにその辺ならば、怪獣が伊浜で現れてもガルーダⅡの移動性能ならすぐに向かえる。」

『了解!麻生、ガルーダⅡ、針路をゴジラへ変更します。』

将治が通信で答える。

「さて、自衛隊だけど、どうするんだ?黒木さん、連続じゃないのか?」
「それに、そろそろアレが進水できる状態になる。ここは、黒木さんに残ってもらうのがベストだろう。」
「乗艦する人選は済んでるのか?」
「自衛隊サイドは済んでいる。そもそも、今回の麻生にガルーダⅡへの操縦を任せたのも、他の人材を一人でも多くあちらへ回したかったという事もある。」
「おい!新城!どう言う事だ?」
「麻生さん!」

司令室に飛び込んできたのは、麻生孝昭であった。

「何故仮隊員が戦闘に参加している。そもそも実地訓練なんて、わしは知らないぞ!」
「……どうする?」
「事情を説明する他、ないだろう?実は………。」

 



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某所
『………ゴジラが横浜の方角へ進んでいる。』

暗闇に包まれた部屋で機械的な声が響く。

『………やはり……異形となした同胞よりも仇敵を選んだか………。
 ………本来ならば……もう少し時間をかけて……ゴジラの情報を聞き出してからと考えていたが……。
 ………仕方がない。……第三段階、始動。』
 
 
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