「G」の軌跡





一方、国立生物科学研究所にいる健達は休憩室でお茶を飲んでいた。

「やはりキミに特殊な能力があるわけではなさそうだ。これで、ゴジラが人の意思を理解できるという説を発表できる。世界のゴジラに対する反応が変わるよ!」

健吉はハイテンションで言う。途端に、片手に持っていた湯のみからお茶がこぼれ、慌てる。

「………期待して、いいんだよな?」
「健君、彼は本物の学者だよ。僕なんかよりも立派なね。血の繋がりなんて関係ない。間違いなく、山根さんは山根博士の孫だよ。」

三神が健の横に立って言う。その目は健吉への尊敬の念が込められている。

「お邪魔しまーす。……あ、こんなにお客さんがいたの!」
「あぁ、わざわざありがとう。助かったよ。」

ひょこっと顔を覗かせて優が休憩室に入ってくる。片手には三神への愛妻弁当がある。

「いいねぇ。三神君はこんなに出来た奥さんがいて。………すごいんだよ。優さんは以前国境のない医師団で世界中を渡り歩いたくらいの名医なんだよ。」
「ちょっと、山根さん。そんなの何年も前の話じゃないですか!」
「たったの2年前までの話ではありませんか。」

恥ずかしがる優に健吉は笑っていう。

「あぁ、紹介しよう。妻の優です。そして、この少年がゴジラに自らの意思を伝えて、村を救った英雄、桐城健君です。」
「ちょっと!それは恥ずかしいからやめてくれよ!」
「………桐城?キミ、タケルって健康の健?」
「そうだけど?なんだ?」

健は怪訝そうな顔をして、優に聞く。三神も首をかしげる。

「ちょうど4年半前になるわね。中東のある国で爆発事故があって、その時にあなたのお父さんにお世話になったのよ。お父さん、桐城研護さんよね?」

頷く健。

「それって、通訳役をかってくれて、色々なサポートをしてくれたっていう日本人記者の事かい?」
「えぇ。彼は、爆発がその国の極秘軍事実験の失敗ではないかと取材に来てたみたい。怪獣と戦う日本が世界中の兵器を進化させるって言ってね。正義感の強い人だったわ。まだ治安が安定していなかった地域で、負傷した人を担いで避難させたりね。逆に、患者を動かさずに人を呼べって私達に怒られたりしてね。」

優は思い出し笑いをしてクスクス笑いながらいった。

「でも、勇敢だった。彼が取材してたから、私達も患者を救えたんだと思う。お父さんはお元気?」
「……わからない。父さんは行方不明だ。その取材から帰ってきて、しばらくして起きた原発事故の事を調べて、すぐに。」
「私に鏡を渡して、たけにぃにブレスレットを渡して。それっきり。お母さんは、お父さんの行方を捜すために今東京に来ているの。」
「そう……だったの。………!あの事かしら?」
「え?」
「私達が引き上げる直前の話なんだけど。彼が爆心地を取材に出かけて、それで帰ってきた時、彼は青ざめてたわ。それで、私達に言ったのよ。とうとう人はやってはいけない領域にまで技術を進めた、って。何か、彼は爆心地で見つけた。そう思うわ。」
「………健君。この話、お母さんにも話したほうが良いかもしれないね。」

三神が言うと、健も頷く。
そのとき、廊下から声が響いてきた。

「そういう頭を使う話は場所を選んでした方がいいぞ、三神。下手をすると、手段を間違えて俺の様になる。」

声を聞いた三神の顔が青ざめる。
そして、廊下から顔を出したのは、今まで薄暗い研究室で日本の動向を探っていた男であった。

「八神!」
「旧友と久しぶりの再会なのに、その形相はないだろう?」

男―八神宗次はそう言うと、肩をすくませる。垂れ目が印象的な男だ。

「どうやってここまで来た?」
「そりゃ車と徒歩。」
「ふざけるな!」
「冗談だよ。俺の相棒が邪魔をする人間を気絶させてくれた。ここにいた人間がセキュリティーを解除した流れについて語っても面白くはないだろう。」
「何をしにきた?」
「昔の夢をキミに見せてあげようと思ってね。」
「夢?……まさか、アレを生み出したのか!」

物凄い形相で八神に迫る三神に、八神は銃を構える。三神の動きが止まる。

「懸命な判断だ。……後ろの皆さんは半分以上、状況を知らない方々のようだな?俺は昔、ここでそこの三神と共にある生物の研究をしていた。その研究を進める中で、彼はその能力の謎を解明する道を選んだ。だが、俺はその生物を再びこの世界に蘇らせたくなった。そして、同胞に出会い、その夢は果たせ、更なる野望が出来た。まずは、その夢を果たせた事を嘗ての同志に伝えたくてね。」
「……何故だ?あなたもアレは平和利用をする為に研究だと言っていたじゃないか!だから、私も協力したんだ!」
「山根先輩、あなたの伯母さんから聞かせて頂いた芹沢博士の話はとても参考になりました。そして、より強くなってしまったんですよ。アレを再びこの手で蘇らせたいとね。後ほど、伯母さんの墓前にもお礼に伺いますね。」
「………もしかして、そのアレって?」

みどりが呟く。八神がそれに気づいた。紳士的に話しかける。だが、その手に握られた銃はみどりを捉える。

「そちらのお嬢さん、お名前は?」
「手塚みどり。」
「みどりさん。恐らく貴女の察しは正しい。お友達にも言って差し上げなさい。その答えを!」

「………デストロイアね。」

「正解!……最も、残念ながら、生み出すことが出来たのはデストロイアの能力を持つ細菌だ。芽胞形成大桿菌という種類で、世界で最も強い毒を生み出す細菌の仲間だ。お見せしよう!」

そう言うと、廊下から入ってきたワンが片手に持っていたスーツケースを開く。
そして、中から小さなビンを取り出した。

「この中にゴジラをも倒す最強の生物、DO-Mがいる。現在は休眠状態にしているが、一度活性化すれば、ミクロオキシジェンで高エネルギーを得て生き、代謝の際にオキシジェン・デストロイヤーが副産物として出され、あらゆる物を溶かす。どうだ?素晴らしいだろ?」
「………何がすげぇんだ!ただの細菌兵器じゃねぇか!」
「少年、威勢はいいが、時と場所を選ぶ事も知るべきだ。」

健に八神は銃口を向ける。
優が割って入る。

「お久しぶりです。鬼瓦さん、いや今は三神夫人か。」
「こんな再会はしたくありませんでした。八神さん、目的はなんですか?無意味に子ども達を怯えさせに来たわけじゃないでしょ?」
「話が分かる人はいい。三神、キミに一緒に来てもらう。どうしてもキミの柔軟な思考が必要だ。」
「僕に何をしろというんだ?」
「ゴジラを消してもらいたい。いや、正しくは今のゴジラを消すのに協力してもらう。」
「今の……ゴジラ?」

三神が聞き返す。そして、八神は不敵に笑い、頷く。

「おい!てめぇ!黙って聞いていりゃあ、ゴジラを消すだと!ゴジラは俺達の味方だ!」
「そうだ。君達に味方する。そんな怪獣は要らない。ゴジラには、恐怖を与える存在になっていてもらわなければ困る人たちもいるんだ。」
「………八神君、キミの移ったバイオメジャーは非合法な活動から、解体されて今は裏社会で非人道的な活動も行っていると聞く。八神君達がしようとしているのは、死の商人の様なことなのか?」
「山根先輩、俺自身は今も昔と変わらず、やりたい研究を続けているだけです。ただ、資金源とする組織が平和な社会を望んでいないんですよ。これは仕事です。」
「ゴジラを消してどうするんだ!結局、怪獣はいなくなるんだぞ?」
「三神、話をちゃんと聞け。俺達が消そうとしているのは、今のゴジラだ。意味、分かるな?」
「………まさか、ゴジラを生み出すつもりか?」
「正解!冴えてきたじゃないか。俺達はその計画をNEXT"G"計画と呼んでいる。友好的に協力しなければ、俺の相棒によって強制的に協力してもらう事になる。」
「なんてむちゃくちゃな。」

三神は苦虫を噛んだような顔をして、そのまま立ち尽くす。
美歌は怯えて、シエルとみどり、そして優にくっついている。その前に健が立つ。

「………どうやら、協力は強制的にお願いする他ないようだね。」

八神が合図をすると、ワンはすばやく後ろに回ると、みどりと優の手を掴む。

「ちょっと!何をするのよ!」
「黙っていろ。貴様達は人質だ。」
「なっ!卑怯だぞ!」
「裏社会で生きていく内についた知恵だよ。さぁ、協力せざる負えまい。山根先輩、あなたも是非協力して頂きたい。………ぐうの音もでないか。いいでしょう、時間は長くない。いきましょう。」

そうして、優とみどりを掴んだワンが廊下へと歩いていく。健達は何も出来ず、八神に突きつけられた銃口を睨んで立ち尽くすのみだった。
そして、三神と山根も八神に連れられて歩いていく。

そして、静かに休憩室の扉が閉まった。

「みどりー!」

健の声が部屋に響く。そして、意を決し、クラウチングスタートの体勢を取る。

「待ちなさい!」

シエルが呼び止める。

「何をする気?」
「決まってんだろ!みどりを助ける!」
「殺されるわよ?……いいの?」
「じゃあ、じゃあどうすりゃいいんだよ!」
「………ミカ、あなたはここに残って、気絶した人たちを手当てして。多分命を無駄に奪うような真似はしないはずだわ。ミカでもちゃんと助けられる。そして、このことを警察に伝えて。」
「俺達はどうするってんだ?」
「タケルはGフォースに行って。今の話だと、もうすぐゴジラを消そうとするはずだから。」
「じゃあ、シエルはどうすんだよ!」
「……私は、彼女達と一緒に行く。そして、彼女達と一緒に逃げる。」
「んな事……。」
「出来る。信じて。ミドリ達を助ける。だから、タケルはゴジラを守って!」
「わ、わかった。」

そして、少年少女達は動き出した。

八神達が車に乗り込む時、シエルは彼らの前に飛び出した。

「ミドリはつれて行かさない!」
「威勢はいいが、時と場所を選べって、さっきあの少年に言っただろ?」
「ミドリと離れ離れなんて嫌だ!だから、連れて行かせない!」
「……やれやれ。だったら、大好きなみどりお姉さんと一緒に行きな!」

そう言うと、八神はシエルを掴み、車に放り込んだ。

「シエルちゃん!大丈夫?」
「えぇ。ミドリは私達が必ず助けるわ。」
「シエル……ちゃん?」

シエルに近寄ったみどりはその確りとした口調に驚く。



一方、健は車とは逆側の出口でクラウチングスタートの体勢を取っていた。

「みどり、シエル。必ず助けに行くぞ!……待ってろ!」

そして、健は走り出した。

 
9/14ページ
スキ