「G」の軌跡





「それで、出現した怪獣は?」

新城は司令室に入るなり、佐藤に聞いた。

「ゾエアは現在のところ海から陸には移動してないが、清水港の停泊していた船舶は壊滅的な被害を受けている。防衛庁から協力要請を受けた。」
「ゾエア?」
「どうも近隣大学の教授や学生達が怪獣をゾエアと叫んで捕獲しようとして、避難誘導の人間と揉めたらしい。んな訳で、便宜上怪獣の名前をゾエアとする事に現場で決めたらしい。」

佐藤は笑いながら言ったが、そんな話を新城は咳払い一つで一蹴し、話を先に進める。

「近隣住民の避難は?」
「大体完了している。避難が遅れているのは、主に老人よりも件の学生達だな。どうも捕獲や採集をしようと考えているらしい、中には怪獣も災害とか言って戦おうとしてた者もいるとか書いてある。」
「………。」
「どした?」
「い、いや。…自衛隊の戦力等は?」

新城は眉間を抑えつつ、聞いた。

「最大の戦力であるスーパーXがいないからな、あまり良くはないぜ。それでも、メーサーや冷線戦車や戦闘機は出撃しているから、絶望的ではないぜ。」
「なるほど。先日の怪獣との戦闘に参加した部隊は参加しているのか?」
「んと………、流石に場所が違うからな。駐屯地が違うから、一部隊だけだ。」
「どこだ?」
「瞬庚特佐の部隊が応援に出ているらしい。」
「ん?プレシオルとの戦闘で謹慎中じゃなかったか?」
「瞬隊長は謹慎中。代りに部隊長の代りに向かったのが………おっ!」
「どうした?」
「黒木翔特将です。」
「どうやら、応援が主力部隊になりそうだな。Gフォースからの応援は………あれはまだ完成していないのか?。」
「あぁ。今専門の技師が最終調整をしている最中だ。」
「わかった。Gフォースは自衛隊のサポートをしろ。……完成が間に合った場合の為に、パイロットを待機させておけ。」
「OK。……じゃなくて、御意!」

敬礼をし、部下達に指示を下ろす為に歩いていく佐藤を見ながら、新城は微笑すると、資料に目を通し始めた。



 

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某国某所

「日本にまた怪獣が現れたそうです。」

薄暗い生物系研究施設と思われる一室で、アジア系の男が、彼に背を向けて机に向っている男に言った。

「ふっ、日本は怪獣のバーゲンセールだな。」
「そろそろ我々も日本に向かいましょう。」
「あぁ。……再びあの国の敷居を跨ぐ事になるとはな。準備は任せたぞ、ワン。」
「了解。」

ワンと言われたその男は、すぐに部屋を後にした。
そして、一人残されたもう一人の男は机に向って座ったまま、一人呟いた。

「また会う事になりそうだな、三神。」




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「清水に怪獣が現れたらしいよ。」
「ゴジラか!」

健達がゴジラを止めた場所で実地調査をしていると、将治がパソコン画面を見て言った。
途端に、健が駆け寄る。

「いや。どうやら、先日現れた怪獣達と同じような存在みたいだよ。」
「でも、怪獣が現れたんだ!ゴジラが現れるに決まってんだろ!」
「むしろ、何故キミが怪獣の出現するところにゴジラが現れると考えるのかを僕は聞きたいけれどね。」
「決まってんだろ!怪獣をぶっ飛ばす為だ。」
「ゴジラは正義の味方ではないんだ。ゴジラも清水に現れたものも、同じ怪獣だ。」

将治は、拳を目の前に出して力説する健にピシリと言った。

「健君、ゴジラも怪獣である…私達は特殊生物や巨大生物という言い方をするけど、この場合結局同じだ。その事実は変わらない。問題は、目的だ。」
「目的?」

健吉に健が聞くと、健吉は頷き、話をする。

「放射能を浴びても、なおも生存し続け、更には放射能を帯びた熱線を吐ける。それが、ゴジラの持つ特徴なんだ。そして、その生命の謎を求めたのが、祖父である山根恭平です。私…いや、僕はそんなお爺さんの研究を継いで、ゴジラの本当の姿を知りたい。そう思って、ゴジラが姿を消して以来研究を続けてきたんだ。そして、再びゴジラは現れた。その目的、または原因が必ずあるはずだ。それが、ゴジラの謎を解くヒントになるかもしれない。」
「じゃあ、山根さんはゴジラが怪獣をぶっ飛ばす為に来たわけじゃないってのか?」
「それを調べる為にキミに会いに着たんだよ。」
「なあ。」
「なんだい?」
「俺を怪獣のところへ連れてってくれ!」

健は健吉に言った。
その目は自身と同じ、真実を求める目であると気づいた健吉は一度頷こうとするが、その首を横に振った。

「何故だよ!」
「キミの求めているのは、ゴジラだ。怪獣じゃない。それに、例え今キミが再びゴジラの前に立っても、結果が同じという保障はどこにもない。今すべき事、そして出来る事を見抜くんだ。」
「………。」

その言葉を聞いて、健は右手に付いた細く青いブレスレットを見つめる。

「父さん。」
「え?」
「分かった!さっさと、調べるぞ!次は何をすればいい?」
「あ……えぇーと、その当時に渡り鳥とかはいたかな?」

突然、意見が変わった健に驚きつつも、健吉は資料を片手に健に質問をする。
これは、長年ゴジラを研究し続けた人たちの資料だ。

「確かいなかった。渡り鳥がいるとなんかあるのか?」
「以前そんな仮説を立てた学者がいたんだよ。ゴジラには帰巣本能があるって。まぁ、当時はゴジラが現れてなかったから、実証ができなかったんだけど、ゴジラが出現してから、それらしき性質を確認したらしくて、ゴジラの生物的な特徴としてちょっと有名なんだよ。」
「ふーん。」



健と健吉が話している姿を眺めるみどりが呟く。

「ねぇ、シエルはゴジラや怪獣をどう思うの?」
「私は…前の記憶がないから、よくわからない。でも、ゴジラという名前は懐かしい気がする。…でも、なんか怖くて、悪いもののような気がする。タケルと私じゃ、ゴジラの名前に抱く印象が違うみたい。」

シエルは今の答え方であっているのか、上目遣いでみどりの反応を伺う。

「いいんじゃない。私も健とは違う印象をゴジラにあるし。まぁ私のは、今のゴジラじゃなくて、前のゴジラだから当然だけどね。」
「いたっ………。」
「大丈夫!シエル!」

突如、頭部を押さえて苦痛に顔を歪ませるシエルにみどりが声をかける。その声はシエルをとても心配しているものだった。

「大丈夫。ゴジラの事を考えていたら、一瞬何か思い出しただけだから。」
「そう、無理をしないでね。」
「うん。ミドリ、心配してくれて、ありがとう。」

そんな言葉を言うシエルにみどりは、笑顔で抱き寄せた。
しかし、抱き寄せられたシエルの顔は笑顔ではなく、何かを睨んでいるかのような目であった。だが、その顔に誰も気づくものはいなかった。




 


「黒木隊長、まもなく清水に到着します。」
「やはり通常航空機では移動に時間がかかるな。」

大型ヘリ、チヌークを操縦する隊員が黒木に報告する。

「しかし、緊張するなぁ。」
「そりゃ、状況中は緊張するだろ?」
「違うよ。あのヤングエリート、黒木翔特将の直接の指示の元で動くんだぜ。」
「あぁ、確かにそうだなぁ。」
「こればっかりは、隊長の謹慎には同情するけど、ラッキーだな。」
「そこのキミ達、まもなく作戦地域だ。私語は慎みたまえ。」
「「ぎょ、御意!」」

揺れるチヌーク内でわざわざ立ち上がって敬礼する部隊員二人を見て、瞬に同情しつつ、この作戦の成功を切に願う黒木であった。



 



「すみません!」
「三枝所長!」

司令室に突然未希が駆け込んできた。入り口近くのスタッフが慌てて挨拶をする。
未希は真っ直ぐ新城の元へ駆け寄る。

「ゴジラが清水に向かっているわ!」
「なに?…おい!至急、ゴジラを探せ!」
「了解。」
「…ゴジラの強い意志を感じたわ。」
「意志?」
「ゴジラはゾエアを倒す為に清水に向かった。」
「新城指令!センサー網を抜けて、ゴジラは既に駿河湾内にいます。」
「出遅れた!至急、応援部隊及び、自衛隊に連絡しろ!」
「了解!」

「しかし、なぜわざわざここまで?」
「あの怪獣、ゾエアはやっぱりおかしいわ。多分、オリハルコンで変異した怪獣よ。もしかしたら、何か作為的なものかもしれない。」
「その可能性は考慮している。……敵がキミの考えている様に、未来人である可能性も。」

新城は、後半を小声で言う。まだ極少数しか伝えていない極秘事項なのだ。
更に新城は小声で続ける。

「……この一連の出来事が、何者かの作為的なものであるという可能性を考えると。怪獣によるテロ行為という可能性が出てくる。対怪獣であるからこそ、我々は国連のGフォースとして、日本の国防に協力できる。だが、これが対人、もしそれがどこかの国家に属する組織による事となると、これは国連の原則に反する。」
「そうなったら、Gフォースは何もできない。わかってるわ。でも………。」
「大丈夫だ。既に手は打っている。静岡県で怪獣を出現させてまで狙うものは恐らく一箇所だけだ。」

新城は一人笑って、静岡県の地図を眺めていた。




 


「……了解。では、我々は予定通り作戦に移る。」

そう言うと、黒木は通信を切り、隊員達を見回す。

「ゴジラが駿河湾内に現れたそうだ。だが、今はゴジラ駆逐でなくゾエア殲滅が作戦任務だ。いいな!……今回は久しぶりの白兵戦だ。既に避難も部隊配備も完了している。自衛隊の底力を怪獣に思い知らせてやろう。」
「「おぅ!」」

部隊の士気は最高潮に高まった。
オペレーターが伝える。

「清水港にいるゾエアが動き始めました。」


チヌークの窓から清水港へ突撃するゾエアが見える。
港に鋲舶されている船をゾエアの胸部から生えるハサミ状の脚によって、潰される。
更に、沈没しつつある船がゾエア自身に押され、清水港に打ち上げられ、工場や建物を襲う。

空へ照明弾が打ち上げられ、それを合図にゾエアへ陸上からの攻撃がなされる。

グゴゴゴゴゴ……。

唸り声にも似たゾエアの鳴き声が湾内に轟く。



「硬いな。……メーサー攻撃を中心に使用する様に伝えろ。」

黒木が言うと、素早く各部隊に伝えられる。


ゾエアを港の至る所に配置されたメーサー戦車による攻撃が襲う。
内側に命中したメーサーがゾエアにダメージを与える。……だが、すぐにゾエアは身を伏せ、硬い殻でメーサーの攻撃を防ぐ。

更に、その半球状の殻を使い、海中から港に押し上げる。同時に打ち上げられた海水が津波となって海岸線に配備された部隊を襲う。
運良く波にさらわれなかった部隊も、続いて繰り出されたゾエアのハサミによって崩れたビルの下敷きになってしまう。



「海岸線に配備された部隊、壊滅的です。」
「清水港の被害は何%に達した?」

黒木はオペレーターに聞く。すぐさま、オペレーターが答える。

「ゾエア出現前の80%を超えました。」
「……よし、この機を駿河湾側に待機させている駆逐艦へ着艦させろ。同時に陸上部隊は第二防衛線まで下がり、援護に回れ。」
「了解。」

チヌークは湾内のゾエアが背にしている三保半島の駿河湾側沖に待機していた駆逐艦に向った。







気がつけば、日が傾き始めていた。
駆逐艦に入った黒木の部隊は最新のフルメタルミサイルを準備する。

「横須賀から回すのに時間がかかってすみません。」
「いや、こちらもこの作戦は極力使用せずに行きたかった。ただ、街への被害を最小限に抑えつつ、確実にあの怪獣を仕留めるにはやはり、自衛隊が持つフルメタルミサイルよりもGフォースやアメリカ軍が持つ最新のホーミング型フルメタルミサイルが必要だったので助かりました。」

Gフォースの隊員が黒木に敬礼し、挨拶する。
黒木が言う様に、従来の貫通力が命であるフルメタルミサイルは発射後の誤差修正が事実上不可能であったが、アメリカが中心に開発した最新型はその弱点を克服し、完全なるホーミング誘導が可能になり、それを可能にさせる機動性から貫通力も更なる改良が施されている。まさに、都市型怪獣戦闘向きの最新兵器である。

「発射準備完了です!」
「ゴジラがゾエアと戦闘をする前にゾエアを沈黙させる。標的をゾエアに合わせ、ホーミングフルメタルミサイルを発射しろ。」
「「了解!」」


数秒後、駿河湾の駆逐艦からホーミングフルメタルミサイルが発射され、一度上空に打ち上げられた後、第一波は天頂と両脇からゾエアに直撃。

グゴゴゴゴゴ……!

攻撃に苦しみ、貫通せずに体内に留まったミサイルにもがく。
その間に第二波がゾエアを襲う。暴れるゾエアにフルメタルミサイルの発射時の照準とずれる。が、ホーミング誘導でゾエアの位置が修正され、再び天頂と両脇をホーミングフルメタルミサイルが襲う!


「効果絶大です!」
「よし、このままフルメタルミサイルによりゾエアへ攻撃を続けつつ、陸上部隊はゾエアの内側へメーサー攻撃を浴びせる。」
「……凄いな、黒木特将。」
「あぁ、完全にゾエアを押しているぜ。」

黒木の指示を見て、瞬部隊の隊員達は呟く。
そして、目を一瞬駿河湾沖へ移した一人が絶叫する。

「ゴ、ゴゴゴゴジラだぁぁぁぁあ!」


ゴガァァァァァァオン…!


戦いの最中に新たな狼煙が上がった瞬間であった。
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