「G」の軌跡





新城はGフォースの小会議室の扉を開いた。

「功二、遅いぞ。」
「すまん。ちょっと報告をきいていた。」
「わざわざ隠居の戯言に付き合わせてしまって、すまないな。」
「いえ。それで、どのような内容ですか?」

小会議室にいるのは見慣れた顔が極少数のみだ。中心に佐藤、そしてこの席を設けた麻生教官がいる。

「まずは、既に報告がまわってる筈だけど、相次いだ怪獣出現で当初考えられていた放射能によるものという可能性。調べた結果、残留していた放射能はどれも微量、しかも統一性なしだ。それがどういう意味だかわかるよな?」
「あぁ。」
「つまり、あの怪獣達は我々が考えていたものとは全く別の理由で現れたという事だ。」

「理由は必ずあるはずです。恐らく自分達が把握もしていないような…。」
「だな。んで、功二。エマーソン博士って知ってるか?」
「………誰だ?」

その名前に全く新城は心当たりがない。

「Gフォース開設当初の研究者らしいんだけどな、メカゴジラの前、ガルーラ開発の途中で、何か考える事があるとかで抜けたらしいんだ。まぁその後、技師の青木さん達がガルーラを開発して、メカキングギドラからメカゴジラを開発したって流れは今更言う事もないよな?」
「あぁ、つまりGフォースが日の目を見る前に脱退した博士という事か?」
「そう。んで、その老博士が変な物を麻生さんに送りつけてね。」
「変な物?」

麻生は資料を机に投げると新城に言った。見ると、小さな金属らしきものの写真が写っている。

「怪獣を生み出した金属らしい。エマーソン氏はオリハルコンと呼称しているのだが、どうも国際捜査官に依頼して入手した品らしいが、そのオリハルコンとやらがマジロスの現れた弥彦村中心地から発見されたものらしい。」
「……でも、それは、怪しくはないですか?」
「ぶっちゃけ、怪しい。信用できない。だけどさ、可能性がある以上、調べる価値はあるだろ?それで、多忙なる司令官殿の代わりに、優秀なる補佐である俺に麻生さんから分析を依頼されたんだ!」

佐藤がなぜか胸を張って言う。隣で麻生が、一番暇そうな奴に頼んだんだという顔で佐藤を眺めている。

「……まぁな。それで、その金属は?」

オリハルコンなどと映画や小説でしか聞いた事のない物の調査をして果して意味があるのか疑いつつも、新城は頷いた。

「そろそろ最終分析が終わって、そこからここへ届けてくれるとはず。物が物だけに科学分析だけじゃわからない事が多すぎて、科学以外でも分析してもらってるんだ。」
「科学以外?………おい、まさか。」

新城が佐藤に言うと同時に扉がノックされた。新城が扉の方を見ると、扉を開き、見慣れた女性が入室する。

「G対策センター・サイキックセンター主任、三枝未希です。Gフォースより分析の依頼が来ていました金属、オリハルコンの調査結果とサンプルを持ってきました。」

実年齢30代後半とは思えない若い女性がケースと資料を持って会議室へ入ってきた。
すぐさま新城は佐藤を睨む。佐藤はその視線から逸す。

「そ、それで、三枝さん。そのオリハルコンの分析結果は?」

「特殊な音が聞こえました。」
「音?」
「麻生さんならば、ご存じかと思いますが、ベビーの卵に付着していた苔が発していた音に酷似していました。」

そう言うと、未希はカセットを再生した。ソプラノを利かせた合唱が流れる。

「これが?」
「その苔の発したベビーを卵の長い歳月語り書け続けた音です。」
「じゃあ、これはゴジラの卵が産まれた太古の物?」

新城が聞くと、未希は曖昧な表情になる。

「わかりません。実は音とは別に、この金属のもつ感じに似た物をまた別の時に感じた事があるんです。」







ゴジラによって破壊された弥彦村は、早くも瓦礫の撤去作業が始められていた。

「早いものだとは思わないかい?怪獣の被害に僕達が慣れてきている証拠です。」

土木作業車が瓦礫の撤去作業をする光景を健が眺めていると、将治が後ろから言いながら歩いてきた。

「またてめぇか!付き纏うんじゃねぇよ。大体、学校はどうしたんだ?」
「僕はGフォースの通信教育で学んでいるからね。悪いけど、既に高等学校修了者以上の知識はあるよ。そうそう、君の学校だけど、先程正式に避難命令が解除されるまでは休校する事になったらしいよ。よかったね、宿題の提出期限が延びて。」
「………。」

将治は健の座る横の瓦礫に腰をかけた。

「怪獣の出現もあれから落ち着いて、ゴジラも太平洋で行方を消したらしいよ。でも助かったよ、スーパーXⅢが故障中だけに、今の怪獣やゴジラへの対策が低下しているからね。」
「またてめぇはそんな事を!怪獣が現れたら、倒すって考えが間違ってんだよ!きっとゴジラにも理由が!」
「理由……か。実はその事を祖父に話したら、人を紹介してもらって……どうしたの?」

将治が話していると、健が何かをジッと眺めている事に気が付いた。

「あれ、人じゃないか?」
「ん?………本当だ!」

人が崩れそうな瓦礫の下を歩いていた。工機の振動で少しずつ瓦礫が崩れている。
いつの間にかクラウチングスタートの体勢をとっていた健は、将治が言うが早いか走り出した。後を追って将治も走る。



健達が辿りつく直前、瓦礫が崩れた!


「しゃがめー!」

「え?」

ガシャァァァーン!



地響きと土煙が辺りを舞う。

「桐城!」

将治が叫ぶ、目の前には土煙に包まれて瓦礫がそびえていた。

瓦礫の反対側へ将治が迂回をすると、健が人を庇って突っ伏している。

「大丈夫かい?また無茶な事を……。」
「あぁ、それよりも。おい、大丈夫か…って女?」

健は自らが庇っていた者が自分と同世代の容姿をした少女である事に気が付いた。
間近に同世代の異性を見た経験など凡そない健は、赤面しつつ少女から離れる。

「……あ、アメリカ人かな?」
「キミは白人系を皆、アメリカ人と思うのかい…。」

今時、と呆れながら将治は言う。
仮隊員としてGフォースに身を置く将治は国際社会という環境を日頃から認識しているかもしれないが、健にとって日焼け以外で肌の色の違う人間に接した経験は記憶を辿る限り存在しない。

健は反論しようと少女を一瞥する。が、その目を話せない。
綺麗、素直にそう健は思った。

「桐城、顔がニヤけているよ。」
「なっ!いつニヤけた!何時何分何秒、地球が何回回った時?」

将治は赤面させて低次元な事を言う健を無視して少女に近付く。
見たところ怪我はない。どうやら気絶しているだけの様だが、油断は出来ない。

「桐城、しばらく彼女を見ていてほしい。」
「えっ!」
「この間の戦いで電波基地局が壊れているんだよ。さっきの所なら電波が入っていた、僕は救助を呼びに行ってきます。いいか、絶対に彼女を動かすな。……それから、絶対に変な事はしないで下さい!」

最後の釘を指した一言に再び赤面して健は何か叫んでいたが、将治は構わず走っていった。



 

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某所
「ゴジラが復活したそうです。」

薄暗い室内で、扉の前に立つ男が言った。
部屋はどこかの生物研究施設なのか、ドラフトやクリーンベンチなどがあり、恒温器が静な部屋の背景音として唸り続ける。

「そうか。……これで条件は揃ったか。よし、計画決行の準備を進める様に組織に伝えろ。」

机の上に座っていたもう一人の男が言った。
扉の前の男は敬礼をし、部屋を後にした。


「ふっははははははははあはははははは………!」

男の笑い声が部屋中に響いた。
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