「G」が導く未来 ~「GODZILLA」VS of FINAL~











そして長い年月が流れた、2109年。
22世紀を迎え、2038年に開発された多目的立脚機動重機「ガンヘッド」の誕生を皮切りに、世界はかつて20世紀の人々が夢見た近未来の光景を現実にしようと、目まぐるしい発展の道を進んでいた。
日本は1992年の未来人事件を教訓に繁栄に溺れる事も自ら破滅する事もせず、国民と国家が一丸となって国を作った先達の教えに学んで高潔な精神を持つ事で、超大国にも極貧国にもならずにいた。
更に全てのエネルギーをクリーンエネルギーで補える社会のシステムを開発した事で、21世紀の終わり頃に世界で始めて全ての核・放射能物質の永久廃棄に成功。
これに続く国も現れ始め、日本は赤字国の買収等をする事も無く、アメリカ・中国・ロシア・EU等の超大国に負けない発言力を持つ重要国となっていた。






カクゥゥゥゥン・・・


グワゥゥゥゥゥン・・・



一方、2030年頃に1人の国家環境計画局職員の運動がきっかけになって制定された「ハルカ・ヒウナ条約」によって保護され、着実に個体数を増やしたモスラ一族達は世界中を飛び回り、平和の脅威となるものへの監視と、人々の幸福を見守っていた。
かつて「初代モスラとバトラの元になった生物は同じ卵から生まれた」と言う仮説を立てた故・北川敦教授の説を裏付けるように、一部の個体はバトラに酷似した姿をしていたが、かつてのバトラのように他のモスラ一族や人類に敵対する事も無く、モスラ一族はGフォースと共に世界中に現れ続ける怪獣達の脅威から人類を守った。
それによって怪獣の出現はこの半世紀で大幅に激減し、いずれ放射能やオリハルコンに関係の無い怪獣の出現及び、該当怪獣の保護の意見まで上がっていた。






また、ゴジラもモスラ一族と同じく人類の脅威となる怪獣達と戦いを続けていたが・・・22世紀を迎えんとしていた10年前、2099年に突如としてベーリング海の底で眠りに付いた。
その理由は一切分からず、「世界が平和になったから」、「大いなる厄災の予兆」、「遂に人間を見限って相手にしなくなった」、「先代ゴジラと同じメルトダウンの再来」などの意見が飛び交う状況にあるが、「日本が核を永久廃棄した事で、いずれ最大のエネルギー源となる核物質が何処からも摂取出来なくなると判断し、エネルギーを抑える為に冬眠状態に入った」と言う意見が、現在最も主流な意見になっていた。
しかし、この意見に対しても「2024年にG対策センターで試作品が開発され、2054年に完成したゴジラ用の食料があれば十分で、エネルギーの心配をする必要は無い筈」と言う反対意見が根強く、21世紀になってから故・三枝未希に並び立つ超能力者が現れる事も無く、ゴジラの真意は誰にも分からなかった。
今だ人類の脅威にもなり得ると考えられていたゴジラとの共生・コミュニケーション問題を考える必要がひとまず無くなったと日本以外の国家が思う一方で、ゴジラを英雄や神に見立てていた一部の熱烈なファン・カルト集団はその勢いを失い、ゴジラをモチーフにしたものが主流になっていたサブカルチャー界隈もまた、衰退を感じざるを得ない状況になっていた。







「ちげーよ、バーカ!!ゴジラは友達が死んだから、つまんなくなって自分も寝る事にしたんだよ!えらそうな顔してテストで100点取ってやがるくせに、あいつらみんなバーカバーカ!!」



新潟県、弥彦保護区域。
かつてここには「弥彦村」と言う村があり、環境保全の観点から国によって一帯の開発が禁止され、22世紀でありながら20世紀頃の自然と風景と空気が残された、時間が止まっているかのような感覚に陥りそうな場所になっていた。



「でも、オレはちがう!だってオレは知ってんだ!オレは師匠の話を、信じてるからな!!」



そんなこの地の野原を、クラスメイトへの悪態を付きながら子供とは思えない速さでひた走る、1人の少年がいた。
彼の名はマサル。この近くの学校に通う、10歳の少年だ。
自然よりVR・AR等の仮想現実が身近な存在になった現代の子供達が、学校行事や自由研究などの理由が無い限りはまず近寄らない、この地に彼がいる理由。それは・・・



「いくぜっ!オレのベビー!」



この地の日本海寄りの端にある、マサルの目の前に佇む山・・・弥彦山へ行く為であった。
マサルは背中に背負った、灰色のランドセルのような機械の電源を入れ、更にダッシュした後に勢い良く跳躍した。
するとそれに合わせて機械が反重力波を放出し、マサルの体は宙を飛んで真っ直ぐ弥彦山に向かって行った。
彼が背中に背負ったこの「BABY(ベビー)」と言う機械は多方面での人間の補助を目的にCIEL社によって開発され、2024年の試作型の完成、局地での導入を経て2040年に一般販売を開始するや世界中でヒットを飛ばし、今なお改良型が出続けている、CIEL社を一躍大企業に押し上げたロングセラー商品である。
マサルが背負っているのは安全に配慮し、セーフティ機能が厳重になされている小型の子供用だが、マサルの物は自分の手で意図的にセーフティがある程度解除され、大人用と大差ない出力が出るようになっている。
普通の子供なら事故を起こしかねない危険な状態にも関わらず、マサルがそんな気配の欠片もなくBABYを自在に使えているのは、彼が母方の血の影響で運動神経がずば抜けて高く、BABY試作型の設計に関わったと言う父方の血の影響が上手くマッチしているからと言えよう。



「今オレは、翼竜の神・ラドンになるっ!!弥彦山まで、いっくぜ!!」



しかし、マサルは好きなものがゴジラと翼竜とBABYで飛ぶこと、と言って憚らない突飛かつ特殊な個性と、これまた母方譲りの血気盛んさから時折問題行動を起こし、学校の生徒だけでなく一部の親や教師からも忌み嫌われている存在でもあった。
が、当人はそれを全く意にも反さずに唯我独尊を貫いており、勉強の成績自体は優秀な部類に入っている事、一部の人間以外からはむしろ好かれており、彼の人格に惚れ込んで弟子入りを志願する男子が後を絶たなかったり、父方の血で女子には割と紳士的に接するので女子人気も高めな事、BABYを使って火災現場から老人を助けて表彰された功績もある事から、学校も手を出せずにいた。
何より、親類関係者全員がマサルの個性を受け入れ、明らかに行き過ぎた行動以外は特に何も咎めていない事も、彼がこうして自由に毎日を過ごせている理由だった。



「とうちゃーく、っと・・・うっひゃあ~!!やっぱ何度見てもすげぇ~!!」



やがてマサルは弥彦山の頂上に辿り着き、BABYを止めて着地。
眼前に広がる、日本海の広大な風景に心奪われていた。
機を見ては何度も訪れているが、何時来てもマサルにとってその風景は色あせない感動と驚きを、彼に与えてくれていた。



「さってと・・・」



ひとしきり日本海の風景を堪能した後、マサルはBABYを使って山を下り、中腹にある一際大きな木の下に着陸。
「オレのスーパーひみつきち」と書かれた木の札が置かれたテントに入る。
テント内にはゴジラや翼竜、ヒーロー物のフィギュアが至る所に置かれたり吊るされたりしており、マサルはBABYを外してテント奥の箱から今や新潟周辺でしか販売されていない地方限定菓子・カレー豆の袋詰めを取り出し、床に寝転びながら食べる。



「カレー豆、いつ食べてもさいっこうだな!これを食べて、オレも早く師匠みたいになるぜ!」



カレー豆を袋の半分程食べた後、マサルはおもむろに近くに置かれたゴジラのフィギュアを取り、神妙な目で見つめる。
ゴジラが海底で眠りに付いてから約10年、人々にとってゴジラは三度過去のものになりつつある中、マサルは産まれたその年にゴジラが眠りに付いた都合で直に見た事が無いにも関わらず、好きなものの一つに挙げる程にゴジラを強く慕っていた。
それはマサルが「師匠」と仰ぐ、曾祖父から聞いた「ゴジラと拳一つで心を通わせた『ある男』」の話を心底信じているからで、それはマサルの親類しか信じる者のいない、教科書にも乗らない眉唾物の事だが、どうしてかマサルにとってこの話は初めて聞いた時から今になるまで心の中に残り続け、好奇心と情熱を絶え間無くマサルに与え続けている事でもあった。
だからこそ、マサルはこうして弥彦保護区域に行き続けたり、弥彦山に秘密基地を作ったり、一部の者から何と言われようとも破天荒な己を貫き続けていた。
「その男」に、師匠のような男に自分がなる為に。



「・・・ひいおじいちゃんの話は本当なんだ。ゴジラは待ってんだ、師匠みたいな男がまた来るのを・・・!
だからオレはぜったい師匠みたいになって、ゴジラに会いに行って、オレがたしかめてやるんだ・・・
そしてオレがゴジラを、もう一回起こしてやるんだ・・・!!」
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