「G」が導く未来 ~「GODZILLA」VS of FINAL~
「・・・また、あの時の夢か・・・
あれはいい思い出だったなぁ・・・ふあぁ~。」
それから数年過ぎた、ある日の朝。
翼は自宅の寝室で何度目か分からない、「最高のケンカ」の時の事を夢で見ながら目が覚めた。
スマホに誰かからメッセージが入っていたが、ひとまずパジャマのまま寝室から出て一階に下り、トイレ・歯磨きを済ませて妻の美歌が朝食を作っている台所に行く。
「おはよう、美歌。」
「おはよう、翼。もう少しでご飯出来るから、座って待ってて。」
「うん。ありがとう。」
椅子に座った翼は今日も元気に朝食を作る妻の姿に笑みを浮かべながら、テレビに目線を変える。
テレビのニュース番組では先週、インファント島で再び双子のモスラが生まれた事に関しての報道と、モスラの個体数が増える点の是非を巡る議論が名前を知っているよう知らないような専門家達によって行われていたが、もうかれこれ20年は経過しようとしているガダンゾーア事件で、地球の平和を守る為にゴジラと人類・・・健と共に戦ったオリジナルのモスラの姿を間近で見ていた翼にとっては、利己的な思想の元に出された意見を必死に熱弁する、専門家達の議論自体が無意味にすら思えた。
「・・・あの事件の事を何も知らない癖に、よく言うよ。モスラはただの怪獣じゃない、平和を愛する地球の守護神なのに・・・」
モスラ不要論を主張する、如何にも頭の固そうな評論家への軽い怒りと呆れの言葉を呟きながら、翼はスマホのメッセージを確認する。
メッセージは将治からで、昨夜起こったサラジア共和国のエージェント・SSS9によるオリハルコン強奪及び、G細胞の平和利用のサンプルとして注目されていた新物質「オルガナイザーG1」強奪未遂事件に「赤イ竹」なる過激派テロ組織が関与していて、偶然襲撃先となったCIEL社関連施設の研究所で居合わせた健の殺害を目的に、「赤イ竹」は独断でオリハルコンを使用。
結果誕生した巨大なムカデの怪獣によって、逆に「赤イ竹」メンバーが全員殺害された事が書かれていた。
「赤イ竹」は犯罪関係に携わる・精通している者には知られているものの、それ以外の民衆からすればさほど知名度は高いとは言えない組織だったが、翼には確かにこの組織に心覚えがあった。
それを見越して、「赤イ竹」にフォーカスした内容のメッセージを送って来た将治に翼はほどほど関心しつつ、10年以上前の出来事・・・弥彦村で健と再会し、「約束」を交わす少し前の事を思い出す。
『・・・い、いつか必ず・・・ドデカイ事をしてやる・・・!覚えてろ・・・!』
そう・・・健・翼の師弟に正義の鉄槌と言う名の屈辱を与えられ、翼に敗北してから行方が知れなくなった不良グループ「レッド・バンブー」の事を。
「赤イ竹」はその「レッド・バンブー」が名前と行動目的を変え、過激派テロ集団に成り果てた姿だったのだ。
「・・・これが、あんたらのやりたかった『ドデカイ事』なのかよ・・・」
彼らのその末路に、翼はあの時の眼差しと同じ、哀れみと少しの侮蔑の言葉を呟くと、メッセージの続きを読む。
健は昨日「オルガナイザーG1」について調べる為に研究所に来ており、その理由があれから自分と美歌に続いて結婚を果たしながら、その年に不幸にも不妊の体になってしまった妻・みどりの治療の為だった事と、研究所の付近に住んでいた、ムカデ怪獣によって家族を失い身寄りが無くなった1人の少女を、健が引き取ったと言うものだった。
そしてその少女を保護した際の健との会話の記録メッセージを見た翼は先程と逆に、とても満足気な笑顔になる。
「お待たせ・・・って、どうしたの?翼。何かいい事あった?」
「・・・美歌。おれと君の、義兄さんとみどりさんの、そしてみんなの未来は平和になるって、確定したよ。」
翼はメッセージを美歌にも見せ、美歌の顔にもまた満面の笑顔がこぼれる。
「・・・よかった・・・!よかったね、みどり姉さん、健兄さん・・・!!」
『・・・大丈夫か?怪我、してないか?』
『うん。』
『よかった・・・名前は?』
『・・・睦海。』
『!・・・そうか。』
健とみどりの養子となった、その少女の名は・・・「睦海」。
それは昨日の出来事の筈ながら、翼や健達はずっと昔からこの少女の事を知っており、彼女と健が巡り合うこの時を心待ちにしていた。
ガダンゾーア事件の際に健達と出会い、機械の体になりながら絶望の未来を変える為に未来からやって来て、健達と共に戦って希望の明日を掴み取った、絶望の未来の健の相棒・・・シエル・シス。本名を、睦海。
希望の明日に変わった事で彼女が機械の体になった事実が無くなり、「シエル」としてでは無く「睦海」として健の養子となる運命を迎えていた彼女は、睦海の姿で中学卒業前の健達の元に現れ、10年後に母親になる者が分かると告げて未来に帰って行った。
それから本当に10年後に健はみどりと交際を始め、こうして今の睦海が2人の子供になった事実は、シエルが・・・前の睦海が願い続けていた平和な未来へと、確かに繋がった事を意味していた。
「・・・じゃあ、私達もたくさん幸せにならないとね。翼。」
「そうだね・・・やっと授かった、おれと君の子供の未来は明るい事が分かったんだ。それを見届けるまで、おれはうんと長生きしないと・・・」
翼は自分と妻の愛の結晶である、少し膨らんだ美歌のお腹に耳を寄せ、いずれ産まれて来る我が子の胎動を聞きながら、子供の未来に思いを馳せるのだった。
「・・・大丈夫。君ならできる。
次は、君の番だ・・・」