「G」が導く未来 ~「GODZILLA」VS of FINAL~




こうして翼は、ずっと兄代わりに思っていたゴジラとの絆を繋ぐ事に成功。
ヘリはゴジラの少し前の平原に降り立ち、この島に来た本当の目的を果たそうと翼達はヘリを降りる。



「ううっ、寒っ・・・みどり姉さん達って、いつもこんな所で仕事してるんだ・・・」
「まぁ、慣れちゃえば大丈夫よ。それより、美歌ちゃん。翼君。」
「・・・兄貴。」



ヘリとゴジラの間には、1人の男が立っていた。
男はかつて、弥彦村最強の喧嘩番長として名を轟かせ、大切なものを守る為に村人から避けられようと不良達と戦い続け、ゴジラの心をも動かし・・・友となったゴジラと共に、世界を救った。
そんな彼の背中に憧れ、追いかけ、彼が村を去るまでその生き様を見届け続け・・・そして今。
翼の本当の兄となって、彼の前にいる。



「いや・・・健、義兄さん。」
「・・・よう、翼。」



その決断が、歴史の分岐点にすらなる男・・・桐城健との、再会だ。



「美歌も、来てくれてありがとうな。まずは、結婚おめでとう。みどりも早速迷惑かけたけど、2人をここまで連れて来てくれてありがとよ。」
「ほんと、分かってるならなるべく迷惑かけないで欲しいわね・・・まっ、あんたは昔から迷惑かけない時が無かったような感じだけど。」
「それもそうだな。」
「ありがとうございます、義兄さん・・・」
「見てたぜ、ゴジラと話すお前の姿。あれをお前の最終試練にしてたけど、あれなら合格だ。美歌をやっても大丈夫な、一人前の男になったな。翼。」
「はい!おれ、絶対美歌を幸せにします!」
「もしかして、だからここにわざわざ翼君と美歌ちゃんを呼んだの?もう、あんたって人は本調子を取り戻したと思ったら・・・」
「そう言うなよ、みどり。これは兄にとって可愛い妹を弟子へ嫁に出すって言う、一大事なんだぞ?これくらいはしないと駄目だろ。」
「あんたはお兄さんってだけで、お父さんじゃ無いでしょ?全く、変に親バカな所は変わらないのに・・・美歌ちゃんも、そう思わな・・・・」
「・・・みどり姉さんの言う通り。昔も今も健兄さんはみんなに心配掛けてばかりで、反省もしない大馬鹿人間よ・・・!」
「あれ?どうしたの、み・・・・!?」



するとその時、今まで沈黙を保っていた美歌が何か一言呟くや、健に駆け足で歩み寄って行き・・・



「こんの、バカ兄貴ーーーーー!!」



健の頬に、アドノア島全域に響かんばかりの音のする強烈な平手打ちを食らわせた。



「「「!?」」」
「美歌・・・ちゃん?」
「あちゃ~、やっぱりやっちゃったか・・・」



グルルルルルル・・・



その衝撃的な光景に、覚えのある翼以外は驚愕。
あのゴジラでさえも動揺している様子が伺える点が、この光景の壮絶さを物語っている。



「・・・いっ、てえぇぇっ!!」



一方、健の苦悶の表情と共に発せられた悲鳴が、先程の美歌の絶叫に続いてアドノア島一帯に響く・・・が、よろめきながらも健は体勢を立て直し、美歌を睨む。
しかし、その目に怒りの感情はあまり感じず、むしろこうなる事が分かっていたかのような、ギラギラとした眼差しであった。



「・・・相変わらず、いいビンタだな。美歌。」
「いいビンタだな、じゃないわよ!ほんっと、兄さんはいつまでも恋愛ってのが分かって無いんだから・・・!何で妹の結婚式に、そんな勝手な理由付けて来ないのよ!どうせみどり姉さんと今更付き合い始めたのを言われるのが恥ずかしいとか、ウジウジしてる間に私と翼が先に結婚したのが悔しいとか、そんな理由でしょ?兄としてありえないくらい、非常識よ・・・!」
「・・・それもちょっとあるけど、でも俺とみどりがお前より先に結婚してようと、俺は翼とお前をここに呼んだ。それは本当だ。」
「まっ、あたしもそう思うわ。だから今はそんなバカ兄貴を許してあげて、美歌ちゃん。」
「義兄さんはおれと5年前にした『約束』を果たしたかったんだとも思うし・・・それに、本気で義兄さんの事を嫌いになってはいないよね。美歌。」
「・・・当たり前、じゃない。ただ、兄さんに言いたい事が山ほどあっただけで・・・」
「・・・改めて、結婚おめでとう。美歌。翼といつまでも、一緒にいてくれよな。」
「・・・ありがとう・・・兄さん、やっぱり大好き!!」



ありのままの本心を全てさらけ出し、大粒の涙を流しながら健に全ての思いをぶつけた美歌は、その全てを受け止めてくれた健に抱き付いた。
健も美歌の頭を優しく撫で、その光景はまるで10年前に健が弥彦山でゴジラを止めた後、2人が仲直りした時の事を彷彿とさせた。



「・・・健兄さんこそ、みどり姉さんと早く結婚してよ・・・!私も兄さんの奥さんになる人はみどり姉さんしかいないって、この10年ずっと思ってたんだから・・・!」
「あぁ・・・」


――あたしと健の事で、美歌ちゃんにもこの10年間心配させてたのね・・・
やっぱりあたしも健の方から告白して欲しかったから、待ってたけど・・・責任感じちゃうな。
でも、だからこそ代わりにあいつと、うんと幸せになるから・・・夫婦の先輩として、あたしと健の事、見守っててね。美歌ちゃん。






美歌の涙が一段落し、今度は健と翼が交わしたと言う「約束」についての話になる。



「ところで、さっき翼君が言ってた『約束』ってなに?」
「ああ、それは俺が5年前に一回弥彦村に帰省した時に翼と交わしたんだけど・・・そういや、あの時も美歌に思いっきりビンタされたっけなぁ・・・」





『よっ、美歌!翼!元気にしてたか?
今帰ってき・・・』
『・・・たけにぃったら、ほんっと恋心とか恋愛とかタイミングとか、全然分かって無いんだから!!
この、バカ兄貴~!!』
『み・・・美歌ちゃん!?』
『・・・いっ、てえぇぇぇぇぇっ!!』






「だって、私が勇気振り絞って翼に告白しようとしたら、勿体ぶって乱入して来るんだもん。そりゃ、ビンタしたくもなるわよ。」
「正直、おれもこれはまずいって内心思ってました・・・あの頃から美歌って義兄さんに似て、アクティブさが増してましたし。」
「ははっ・・・でも、だから俺は恋愛で翼に完敗したんだろうな。」
「当然よ。翼はその後、ちゃんと私に告白してくれたし。」
「流石は翼君ね。やっぱり今時の男は優しく、でもしっかり女を引っ張ってくれて、自分から告白してくれる人じゃないとね~。」
「おい。それ、お前の理想だろ?」
「まぁまぁ。みどり姐さんも美歌も、もうそろそろ義兄さんを責めるのは止めましょう・・・でも、おれの圧勝って言うなら『約束』、守って貰いますよ。義兄さん。」
「勿論だぜ、翼・・・!」



と、突然闘志を剥き出しにした健と翼はマイナスを軽く下回るこの寒空の元でコートを脱ぎ、お互いにタンクトップ姿になっての睨み合いを始めた。
小学生の頃からトレーニングを行い、大学卒業後も警察官になり、つい先日辞職した後もアドノア島とつくばを行き交う生活を続けている事によって、未だに衰えない「剛」を体現した健の逞しい肉体。
10年前のガダンゾーア事件に図らずも巻き込まれた影響と、いつかは来る「健が村を去った日」の後の為に、10年間密かに身体能力と柔術を鍛え続けた、無駄無く締まった「柔」を体現する翼の身体。
方向性は違えど、それぞれの強さが形になった己が体と共に2人は無言の対話を続け、2人のやろうとしている事を悟ったゴジラもまた、2人を静かに見つめる。



「な、何やってんの?健も翼君も・・・」
「兄さんね、5年前に弥彦村に帰って来て私にビンタされた後、翼にこう言ったの・・・」






『・・・何でもいい。
もし、お前が一つでも俺が完敗したって思う事、俺に圧勝したってお前が誇れる事をやり遂げたら・・・俺と本気で、ケンカしようぜ!』






「・・・それで、健は翼君と美歌ちゃんが先に結婚した事が自分が完敗して、翼君が健に圧勝した事だと判断してこうなった・・・つまり、男と男のケンカの約束ってわけね。女には理解しにくい世界の話だけど、翼君が健より恋愛面では圧勝なのは確かね。」
「私も正直・・・でも、そういう所も含めて私は翼を好きになったから・・・」
「そこはあたしも分かるかな・・・だから、今は見守っておきましょうか。バカな男2人の、決着の時を。」






――・・・立派になったな、翼。
もうお前には、俺なんていなくても大丈夫だ。
だからこそ・・・お前の本気、俺に見せてみろ!!






――・・・おれは今日、二人の兄に認められた。
目標を、夢を・・・自力で叶えた。
だからこそ・・・もう貴方に敵わないなんて言わない。
おれは、貴方を越える!!






ゴガァァァァァァァオン・・・!



「翼ぁ!!」
「にいさぁん!!」
「「いくぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」



そしてゴジラの咆哮をゴング代わりに、健と翼は「約束」の拳を熱くぶつけ合った・・・
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