「G」が導く未来 ~「GODZILLA」VS of FINAL~











「ところで麻生さん、おれに何か聞きたいことがあって電話してくれたんじゃないんですか?」
『んあ、ああ。そうだ・・・』



それから5年が経った、2019年・12月。
23歳になり、弥彦村を出て上京した翼は千葉の仕事先のホテルの一室で、突然かかって来た意外な人物からの電話に出ていた。
電話相手は今や、Gフォース特務遊撃隊隊長補佐となった麻生将治。
一週間前にオリハルコン悪用を目論む宝石強盗密輸組織の潜伏先に潜入した際、警察官になっていた桐城健と出会った将治は、健があれから結局交際に発展する事なく数年来疎遠となってしまっていた手塚みどりと偶然再会したはいいが、彼女が近々縁談をすると聞いて動揺し、どうすれば良いか相談された。
しかし将治もまた恋愛関係の経験は無いに等しく、自分1人だけでは解決しないと考えた彼が参考にと翼を頼って来た、と言うわけであった。



「ならばおれたちの到達点は、兄貴に姐さんへ抱いている好意を自覚させることではなく、姐さんを1人の異性として認識させることなのかもしれませんね。」
『・・・君がそういう知的ぶった話し方をするとは思わなかった。』
「そうっすか?」



翼は前々から、健がみどりに対して「姉」のような認識を持っていると思っており、その認識がある限りは恋愛に発展する事は無いと思っていたのだが、それが未だに続いていた事に相手が健ながら呆れつつ、まずその認識を変える事を将治に提案。
同じ意見の将治もそれを受け入れ、話は終息した・・・かと思われたが、ここで翼はもう一つ、将治に伝えなければならない事があった。






『貴方が桐城健の一番弟子の、青木翼君ね?私の事、覚えてる?』
『えっ・・・貴女ってあの時、睦海ちゃんと一緒に来た未来人・・・ですよね?』



そう、少し前に翼は10年前のガダンゾーア事件時に現れた未来人・遠野亜弥香と遭遇。
彼女から「健がこのまま誰かと結ばれなかった場合の破滅の未来」について入れ知恵され、この事を自分の発言である点は隠しつつ、必ず近日中に2人両方の関係者に話して欲しいと言われていたのだ。
そんな中で両方の関係者である将治からの電話が来て、またと無いチャンスだと思った翼はすかさず、亜弥香からの話に話題をシフトさせた。



「つまり兄貴からすれば、自分が結婚して家庭を築くことは歴史の流れからして必然のことのはずなのに、未だにその気配がない事に焦りを感じざるを得ない、と。そうなると、これはちょっと問題ですね・・・」
『え?』
「じゃあちょっとシミュレートしてみましょう・・・」



翼は亜弥香に言われた通りの事・・・このまま健と誰かが結ばれなくては、「あの少女」が過去に行く事実が無くなり、再び絶望の未来が訪れる・・・を将治に話し、将治もまた予想外過ぎる現状に動揺している事が、度々会話を中断して行われる将治の水分補給が物語っていた。



「・・・十年前の一連の事件は何れも、睦海さんがいたから上手く行ったようなものだというのが正直な印象です。確かに弥彦での出来事を聞けば、兄貴だけでもどうにかなりそうな場面は幾つか挙げられます。けど、兄貴だけでは絶対にどうにもならない事が一つあります。」
『・・・ガダンゾーアか。』
「そう。睦海さんがいなければデルスティアは現れない。デルスティアがいなければゴジラは勝てなかった。ゴジラが負けた後で世界がどうなるかは、未来世界での事を聞けば語るべくもない。それと同じ状況に世界の歴史が成り代わろうとしているとしたら?」
『あまり怖いことを言わないで貰えるかな・・・』
「とにかく、期せずして兄貴の結婚には世界の命運がかかっている事が証明されたんです。麻生さん、一刻も早く兄貴に結婚して貰わなきゃ。」
『うーん・・・』







結局、健の結婚相手はみどりしかいないと翼も将治も思っていた事で、ある一つの対策を打つ事になって電話は終了。
その対策とは、現在諸事情で謹慎処分となっていた健を将治の計らいでG対策センターでの大規模会議に召集していて、みどりもまた現在はG対策センターに勤務しており、会議終了後に健をアドノア島に連れて行く話をしている所である状況を活用。
みどりも健と一緒にアドノア島へ同行させつつ、母親の梓と三枝未希の密かな願望であった、健のアドノア島観察員への勤務も叶える為に、三人で様々な根回しをする・・・と言うものだった。



「はぁ~っ、ふーうっ・・・」



一世一代の電話会議を終え、集中力が切れた翼は大きく息を吸って吐き、電話中ずっと高鳴り続けていた心臓の鼓動を抑える。



「大丈夫、おれが出来る事は全てやり切った・・・あとは、麻生さんと三枝さんとお袋に任せよう・・・確かに恋愛関係は全くからっきしな兄貴だけど、やる時はやる男なのは、おれが一番知ってる事じゃないか・・・
だから兄貴、絶対にみどり姐さんと結ばれて下さいよ・・・兄貴の側にいつまでもいるのは、睦海ちゃんのお母さんになるのは、みどり姐さんしかいない。おれはそう信じてるから。
それと・・・君もだよね、美歌。」
「うぅん・・・つば、さ・・・」



翼のベッドの隣には、シーツに包まれながら寝息を立てて眠る、かつて憧れていた「オトナ」の女性になった20歳の美歌の姿があり、満足げな表情で眠る彼女を愛おしげな眼差しで見ながら、翼は美歌の髪を撫でる。
美歌と翼の左手の薬指に光る銀の指環と、傍らの机に置かれた中身の無い紺色の指環ケースは、2人が今日恋人を越えた「夫婦(めおと)」として結ばれた事を意味していた。



「・・・どちらにしても、恋愛ならおれの方が先になりましたね。兄貴。
次会ったら5年前の約束、果たして貰いますよ・・・」
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