「G」が導く未来 ~「GODZILLA」VS of FINAL~







「それでね、さくらちゃんはバラン様と一緒に福岡に行って、真ちゃんと再会出来たの!」
「マ、マジっすか?」



弥彦競輪場付近の道では、美歌が5年前のマジロス出現時に自分を助けてくれた京都の観光客・妃羽菜遥の知り合いで、彼女の紹介で美歌のメール友達になった京都の少女・さくらが約一年前に体験した、「バラガミ伝説」と言う話に話題が移っていた。
「さくらが京都でバランなる神獣と出会い、幼馴染みで想い人の男の子・真(まこと)がいる福岡に連れて行って貰う」・・・と言う現代のおとぎ話のような内容に、半信半疑ながら翼は熱心に話す美歌から語られる驚愕のエピソードの数々を聞く。



――これ、おれより寺沢さんに話した方がいいんじゃないかなぁ・・・?
この話、一応ノンフィクションみたいだし・・・



「ちっ!また負けた!」
「なんでオレ達が賭けた時だけチンタラ走んだよ!あの駄馬が!」
「でも金がもうねぇし・・・おっ、ちょうど良さそうなカモ発見!」
「おい、坊ちゃんに嬢ちゃん!俺達に一万貸してくれよ~?」
「えっ、ちょっと・・・」
「・・・おれと美歌ちゃんに用ですか?レッド・バンブーの皆さん?」
「あ、ああっ!!お、お前いつの間にか桐城健の一番弟子とかになってやがった、あの時の野郎かぁ!!」



と、競輪場で大敗を喫し、更なる賭博の為の軍資金を求めて翼と美歌を恫喝しようとした五人組の不良達は翼に気付くや、更に怒りの沸点が上がった。
彼ら「レッド・バンブー」は10年程前に弥彦村一帯を縄張りにして観光客などから金品を強奪し、一帯の住民から恐れられていた札付きの不良グループなのだが、村に来たばかりの翼を恫喝していた所を村一番の「喧嘩番長」によって叩きのめされ、以降も彼に一度も勝てないまま、いつしか名前を聞かなくなっていた集団だった。



「兄貴に散々やられて、もう懲りたのかと思ってたっすけど、まだこんな事をやってたんっすか?」
「うるせぇ!俺達はあいつがやっとこの村からいなくなったって聞いて、そろそろまた復活しようと思ってたんだよ!」
「あいつから味わった、あの屈辱・・・一生忘れねぇ!」
「だからよ、あの時のお返しとしてお前に落とし前を付けさせてもらおうかぁ?あの時ぶんどり損ねた、金と一緒にな!」
「・・・なによ、それ。結局あんた達はたけにぃに負けるのが怖くて、今まで逃げてただけじゃない。それでたけにぃがいなくなったから、今度はつばさんに落とし前をつけるとか、男の風上にもおけないって思わないの?ほんっと、サイテーな連中ね!」
「み、美歌ちゃん!?」
「んだと、この・・・あん?よく見たらこの女、桐城の妹じゃねぇか・・・よし、オレ達の復活記念にこいつらを盛大に血祭りに上げてやろうぜぇ!!」
「おら、ちょっと顔貸せやぁ!!」



激昂した不良の1人が翼の胸倉を掴み、そのまま持ち上げようとする・・・が、その前に翼が両手で不良の手を掴み、それを阻止した。



「なっ・・・!」
「・・・兄貴が村から離れて、いい喧嘩相手がいなくなったからってこの村を離れた不良も多かったのに・・・これじゃあ、兄貴の言ってた通りって事っすか。
でも、だからこそ・・・この村は、おれが守るっ!!」



そして翼は不良の手を胸倉から離したかと思うと、そのまま一回転して不良を遠心力と共に勢い良く投げ飛ばし、金網の壁に叩き付けた。



「「「!?」」」
「う・・・ぐ・・・!」
「・・・終わりっすか?」
「ふ・・・ふざけんなぁ!!やれ、お前らぁ!!」
「「「んのやろぉぉぉぉぉぉ!!」」」
「やっちゃえ~!つばさ~ん!」



仲間の1人が翼の柔術であっさりとダウンさせられ、不良達は一瞬動揺と驚愕によって硬直するが、すぐにノーガードの翼に殴り掛かる。
しかし、翼はノーガード体勢からまず1人目のパンチを寸前で体を捻らせてかわし、その場で跳躍して放ったキックで相手の脇腹を蹴り飛ばす。
続けての2人目の連続パンチは両手で全ていなし、ジャンプして両足で相手の腹部を掴むや後ろに放り投げる。
3人目のパンチも難なくかわし、拳を振るって隙だらけの腕をすかさず両手で掴むとそこから一本背負いを繰り出し、地面に叩き付けた。



「お・・・ご・・・!」
「ばわ・・・」
「ぐおおっ・・・」
「な・・・なんだと・・・!?」



無論、3人全員すっかり再起不能となり、残るはリーダー格の1人だけとなった。



「逃げるなら、今の内っすよ?」
「だ、黙れえぇ!!誰がてめぇなんか・・・てめぇなんか怖かねぇ!!
野郎、ぶっ殺してやらぁぁぁぁぁ!!」



リーダー格の不良はバタフライナイフを取り出し、刃を出すと目の前の翼に目掛けて突き付け、叫びながら翼へ切りかからんと猛進して来る。
だが、翼はナイフに怯える様子も無く再びノーガード体勢になって、迫る相手の動作を冷静に観察する。



ーー・・・良かった。
武器に頼りきりで、体中が隙だらけだ・・・
これで、勝てる!



完全に相手の動きを見切った翼は、ふるわれたナイフの刃が頭に刺さる寸前にジャンプし、ナイフをかわしながら不良の頭上を取る。
そしてジャンプの勢いを保ったまま旋回し、強烈な回し蹴りを不良の後頭部に浴びせた。



「ぐがあっ・・・!?」



回し蹴りの衝撃で激しい昏倒を起こした不良は力無く地面に伏し、一方で翼は綺麗に地面に着地。
わずか1分前の一方的な立場はどこへやら、かつては人々から恐れられたレッド・バンブー達は今、翼の前に情けなく倒れるしか出来なかった。



「やったぁ!つばさんの勝ち!」
「とりあえず、お巡りさんには通報しておくっす。いい加減、こんな事はやめた方がいいっすよ?」
「い、いつか必ず・・・ドデカイ事をしてやる・・・!覚えてろ・・・!」
「・・・行こう、美歌ちゃん。」
「ふんだ!おととい来なさい!」



最後まで哀れみと、僅かな侮蔑の眼差しをレッド・バンブー達に向けたまま、翼は美歌を連れて帰路に戻った。
それからしばらくして翼の通報を受けた警察が駆け付け、レッド・バンブー達は連行されたが、彼らはもう姿も見えない翼の事を睨み続けていた。






「もう、美歌ちゃんったらあんな事言ったら駄目っすよ。」
「だって、ああいうの見てると超ムカつくんだもん!今ならたけにぃの気持ちがちょっと分かるし、つばさんがいなくても私はあいつらにビシっと言ってたよ?」
「でも、美歌ちゃんは普通の女の子なんだから、もしあいつらがキレて暴力でも振るって来たら危険っすよ。美歌ちゃんが大ケガしたら、兄貴にも立つ顔が無いし・・・」
「だから、つばさんが私をこの村ごと守ってくれるんでしょ?その為にたけにぃの『剛』!なやり方と対になる、柔術を取り込んだキック中心の喧嘩作法も身に着けたんだし。」
「まぁ、確かにそうっすけど・・・でも、柔術は本当はああ言う話し合いにならない連中に使う為のもので、おれはなるべく話し合いで解決したい派っす。
それに兄貴は5年前は余裕で12人抜きをしてた人で、あいつらの事も兄貴は中学生になったばかりの喧嘩番長デビューの頃に倒してた人っすから・・・それに比べたら、まだまだおれは敵わないっすよ。」
「えっ、『柔よく剛を制す』って言うじゃない。それでも勝てないの?」
「それは実力がある程度同じ場合だったら、の話。今のおれの付け焼刃の柔術くらいじゃ、圧倒的な『剛』の力で押し切られる・・・それくらい凄いんっすよ。兄貴の拳は。
だからせめて、今はこの村と美歌ちゃんを守れるくらいの力は欲しいかなって、思うっす。」


――・・・だっておれ、兄貴が高校を卒業して村を出て行った時に・・・兄貴と約束したから。






『・・・翼、お前に約束して欲しい事がある。
これからは、お前が美歌とこの村を守るんだ。
出来るな?いや、お前ならきっと出来るって俺は信じてる。
俺の一番弟子なら、な・・・』






「だから早く、そんな兄貴に会う為に早く家に・・・」
「・・・つばさんはまだまだって思ってても、私はそんなつばさん・・・すごくかっこいいって、思うよ。」
「えっ?」
「だって、私・・・つ、つばさんが・・・」
「み、美歌ちゃん・・・?」



顔を赤らめ、口をつぐみながら翼へ何かを言おうとする美歌。
翼も美歌が言わんとしている事を察し、先程レッド・バンブー達と対峙した時以上に緊張しながら、美歌の言葉の続きを待つ。



ーーこ、これってもしかしなくても・・・っ!?
おれが先に言うべきかな・・・いや、美歌ちゃんが言おうとしてるのに、それを邪魔するわけには・・・
ど、どうしたら・・・



「どうした?あいつらぶっ飛ばせるくらい強くなったのに、何悩んでんだ?翼!」
「「!?」」



・・・と、そこに聞こえて来た声。
それは、翼と美歌が久々に聞いた声であり、
美歌がかつて、毎日のように聞いていた声であり、
翼が今も心から憧れる・・・聞くだけで勇気が貰える、あの声であり。



「たけ、にぃ?」
「あ、兄貴・・・!」



これから2人が会おうとしていた、「兄貴」の声であった。






「よっ、美歌!翼!元気にしてたか?」
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