「G」が導く未来 ~「GODZILLA」VS of FINAL~
2009年、歴史改変を企てた人口知能「I‐E」によって復活した絶対悪魔・ガダンゾーアはゴジラ・モスラと人類、そして1人の少年の活躍によって倒された。
これによって歴史は破滅の未来から逸れ、世界は平和な未来へと向かって行った。
それから5年の月日が流れた、2014年。
新エネルギー「クリーンエネルギー」の発見によって日本は長年のエネルギー不足から解放され、驚異的な復興と発展を見せていた。
無論、人々はこの繁栄に溺れ、絶望の未来が再び訪れるのを防ぐ為、共に手を取り合い進んで行く希望の社会を保っていた。
この物語は、そんな世界にあっても昔ながらの面影を残し続ける地、新潟県・弥彦村から始まる・・・
「さて、と。今日も早く家に帰らないと・・・」
弥彦駅ホーム前、黒い制服を来た高校生は携帯画面で時間を確認するとそう呟き、目の前の道路に向かって歩き始めた。
やや旋毛寄りに束ねた、滑らかに流れる長い黒髪を揺らす、穏やかな雰囲気と大きめの目を持った、細身な青年。
彼の名は青木翼。18歳になった彼は今も弥彦村の青木家に暮らしながら、隣の町である燕市の高校に電車通勤で通っている。
「なんせ、フォレストファンタジーがもうすぐ終わりそうだし!早くレベル上げて、あそこのボスを倒さないと・・・」
「あっ、つばさーん!」
歩きながら大好きなゲームの考え事に耽る翼を呼ぶ、薄茶色のツーサイドテールの少女。
彼女は15歳になった桐城美歌であり、現在弥彦中学校に通っている。
「美歌ちゃん!こんちはっす!」
「つばさんと一緒に帰れるなんて珍しいから、声掛けちゃった。ごめんね。」
「別に良いっすよ。今日は部活も課題も無いから早く帰ろうと思ってたし、おれもこんな所で美歌ちゃんと会えて嬉しいっすから。じゃあ、行こっか。」
「うん!」
翼の隣に駆け寄り、彼と一緒に歩く美歌。
その様子からは、翼と共に帰れる事に本当に喜びを感じているのが伺えた。
「ねぇねぇ、つばさんってほんとにその髪型をずっと続ける気なんだね。プテラノドンヘアー。」
「当然!この髪型は兄貴が考えて親父が認めた、おれの魂の髪型なんっすから。」
「もぅ、たけにぃが余計な事言うから・・・つばさんまで変になっちゃった。」
「そう言わないで。でも美歌ちゃんも髪長くしたり、ちょっと化粧したりしてるし。印象が変わったのは、美歌ちゃんも同じじゃないっすか?」
「私はいいの!私の目標はみどねぇみたいな『オトナのお姉さん』になる事なんだから。別に今から練習したっていいでしょ?」
「ま、まぁ、そうっすね。頑張って。頑張るって言えば、親父の研究がいよいよ形になりそうなんっす!」
「えっ!本当に!?流石はロボット工学センターの所長も間近って言われてる事あるね!」
「もう試作品も出来て、近々セバスチャン博士と一緒にそれを最近出来たCIEL社って所に見せに行くらしいっすよ。」
「すごーい!ねぇ、それってどんな物なの?」
「なんと言うか、親父が言うには・・・」
『ロボット工学技師のはしくれとして、誰かの助けになる物が作りたくて、その研究の為にこの村に来たけど、遂にそれが実現しそうなんだ。これを背負うだけで、誰でも自在に空中に浮ける機械!みんなが、翼竜の気持ちを味わえるんだ!
その名も、「BABY」!』
「・・・BABY(ベビー)?」
「親父は背中に背負って使うから、自分の赤ん坊みたいに思って欲しいって言ってるけど、おれは多分、お袋と一緒に育てた『ベビー』ゴジラから採ったんだと思うっすね。」
「私もそう思うな。商品化、実現したらいいね!そうそう、つばさんのお母さんって最近帰って来てる?」
「お袋はG対策センターでアドノア島の観察員と、ゴジラに食べさせる食品の研究の二足わらじで忙しくて、帰って来ない事の方が多いっすね・・・アドノア島近海の使用済核燃料は殆どゴジラが始末したらしいけど、それが無くなったらエネルギー源が無くなっちゃうっすから。」
「そうなんだ・・・ゴジラのご飯なんて、考えた事も無かったなぁ。でもゴジラも生き物なんだから、ご飯は欲しいよね。」
「まぁ、ベビーの頃から携わってたお袋だからこその発想っすよね。三枝さんも中々自分の番が回って来ないって言ってるみたいだけど、お陰で新城司令官と婚約まで行けそうだって佐藤補佐官が・・・」
「み、みきてぃさんが、新城司令官さんと婚約してたのっ!?つばさん、つばさん!そこ、詳しく聞かせて~!」
――あ、あちゃ~。口を滑らせ過ぎたか・・・
最近の美歌ちゃんって、恋愛事には目が無いのに・・・まっ、これはもう仕方ないか・・・
本人の言う「オトナの女性」には遠い、体を小刻みに揺らしながら純真な眼差しを自分に向ける美歌を見ながら、翼は渋々美歌に間近に迫った新城功二と三枝未希の婚約までの道のりを、佐藤清志から聞いた限りの情報を頼りに話し始めた。
「本日もお買い上げ、ありがとうございました!」
その頃、村の中心地に建つ駄菓子店「伊久戸屋」。
先代の店長・幾実の孫である唯華の感謝の声と共に、駄菓子が売れた。
「あっ、和美さん。今日の所はもういいですよ。時間的に私だけで対処出来ますし、和美さんは早く夕食の準備をしないと。」
「あら・・・もうそんな時間ですか。ありがとうございます。」
店の奥で駄菓子を並べていた女性、桐城和美はゆっくりと唯華の方へ振り返り、笑顔でそう返した。
既に50歳手前だが、30代に間違えられる若々しいその外見は全く変わっておらず、現在この店の従業員をしている。
元々和美は研護が行方不明になってから、彼が残した貯金を極力使わないようにする為に様々な場所で仕事や手伝いをしており、この店もその場所の一つだった。
しかし、幼少の頃から通っていたこの店で、顔馴染みだった幾実の孫と一緒に仕事に励む事・・・それは彼女にとって最高の天職であり、至福の一時であった。
「ですが、もう少しだけ仕事します。だって、そろそろ・・・」
「ごめん下さーい。」
和美が言い終わる前に、店の外で大型車が警報音と共にエンジンを止め、停止する音がする。
続けて店内にやや大きめなダンボールを持った人物が入り、その気配を察した和美は駄菓子を置き、早足で入り口に向かった。
「こんばんは、いつもありがとうございます。」
「こんばんは。いえいえ、早速ご依頼の商品を持って・・・おっ、和美。」
「研護さん!」
和美にとって、二つ目の至福の時は自宅での家族との一時。
そして、三つ目は・・・いつも夕方頃になるとこの店にやって来る、愛する研護との一時。
「今日も何もなかったみたいで、良かったわ。」
「おいおい、ほんと和美は俺に対して心配し過ぎだって。もういなくなんてならないって、何回も言ってるだろ?」
「でも・・・」
「とりあえず、俺はこいつを直しに行くから、和美は仕事に戻るんだ。」
「いえ、和美さんはもう終わりですよ。ただ、研護さんが来るからって残業しようとしてただけで。」
「全く・・・仕方ない、じゃあこいつを直すのを手伝ってくれ。」
「はい♪あっ、でもその前にあの駄菓子をちゃんと置かないと・・・」
ダンボールを持って店の奥に入る研護と、慌てて途中にしたままの駄菓子を直しに行く和美。
研護は村に帰って以降、戦場ジャーナリストだった経験から様々な人々の助けになりたいと思い、ジャーナリスト兼運送業を始めた。
ジャーナリストの仕事が無い時は村中をトラックで回っての運送業を営んでいるのだが、その時は大概夕方頃に伊久戸屋に行く事になり、そのまま和美と一緒に家に帰っている。
「今日は楽しみね、研護さん。」
「ああ。久しぶりにあいつが帰って来るからな・・・美歌はもうそろそろ家に帰ってるか?」
「そうだと思うけど・・・いや、もしかしたら翼君と話してるかもしれないわね。」
「そっか。まぁ、翼君は美歌のお婿さん候補だからな。それに比べて、健の奴と来たら・・・」
「それは私もちょっと残念だけど、仕方無いと思うわ。喧嘩じゃ一等賞でも、恋愛は初心者同然なんだから。」
「俺はあの日弥彦山で和美に出会ってからずっとお前一筋で、お互い結婚出来る歳になるまでもどかしいくらいだったけどなぁ。」
「昔と今の子供の事情は違うのよ、研護さん。だから私達は見守りましょう、子供達が本当に相応しい人を見つけられるように。」
「・・・大丈夫、俺もそのつもりだ。」