「G」の去った夜に
『ここは・・・』
目が覚めると、梓は弥彦山にいた。
あの後、確かに梓は自分の部屋で寝た筈なのだが、今いるのは弥彦山の、しかも昼時だった。
目の前の崖からは果てしなく広がる日本海が見え、辺りを見渡すと全てが少し霞んで見える。
考える内、梓は今どうなっているのかに気付いた。
『これは・・・夢ね。でも、凄くはっきりとした夢・・・』
しかし、この夢の中の弥彦山にいるのは、梓だけでは無かった。
海の方から巨大なものが浮き上がって来た様な、凄まじい水渋きの音がしたかと言うと、そのまま崖から黒い何かが顔を出した。
『・・・!』
梓の前に現れたそれは、梓が昔誰よりもよく知っていたものだった。
そう、それは十数年の月日を経て姿を変われど、梓にとってはまるで子供同然の存在であったもの・・・ゴジラだ。
グルルルルルル・・・
『・・・15年振りね、ベビー。ずっと見ない間に、こんなに大きくなって。』
――・・・分かってる。これは夢。
でも・・・それでも、これだけは伝えたい。
『・・・生きていてくれて、本当によかった。』
涙を流し、梓は眼前のゴジラへ歩み寄る。
夢であっても構わない、これが彼女が十数年間心に留め続けていた、悲願であったから。
――・・・。
『・・・えっ、私に会いたかった?あっ、だから今日また村に来ようとしたのね。でも、また帰ったのって・・・』
――・・・。
『・・・村の人間に、昨日の事を怒られたのね。村を壊すなって。・・・きっと、それは健君ね。ベビー、貴方はいいお友達を持ったわ。貴方の為に叱ってくれる人がいる、それってとっても幸せな事なのよ。たとえ何があっても、その子の言う事は信じなさい。きっと健君は、貴方を正しい答えに導いてくれるわ。』
とても大きな、ゴジラの頬を優しく撫でながら、梓はまるで子を慈しむ母の表情でゴジラに語り掛ける。
ゴジラも抵抗一つせず、かつて自分を育ててくれた梓の話を黙って聞いていた。
――・・・。
『分かってくれたのね。いい子。・・・ベビー、貴方は体も心も立派になった。もう誰の手も借りなくても、貴方は一人で生きていける。でもどうしてもピンチになった時は、誰かの助けを借りなさい。その身を呈して怪獣と戦っている貴方を、拒む人なんていない。貴方には三枝さんが、健君がいるんだから。私はずっと、貴方を見守っているわ。』
話終わった梓はゴジラの頬から手を離し、ゴジラと距離を取った。
ゴジラもまた顔を上げ、天に向かって咆吼を響かせる。
それは子が親から離れる、一人立ちの証だった。
ゴガァァァァァァァオン・・・
『さようなら。ベビー・・・いや、ゴジラ。』