「G」の去った夜に







「ふっふんふん~♪」



その頃、青木家では夕食も終わり、後片付けをしている所だった。
いつもなら梓が皿などを洗い、それを一馬と翼が手伝うのだが、何故か今日は一馬が自分から洗うと申し出て来たのだ。



「一馬さん、珍しいわね・・・」
「親父、いつも以上に上機嫌っすよね。何かあったんっすか?」
「うーん・・・特別無かったと思うけど・・・」
「そうっすか・・・」
「あっ、そういえば翼、その・・・」
「んっ、何っすか?」
「・・・ゴジラはどうだった・・・?」



少しためらいながらも、ずっと梓が気になっていたであろうこの質問は、まるで我が子を心配する親の問いだった。
一馬も皿洗いをしつつ、後ろの2人に目を向ける。



「ああ、ゴジラっすか。おれっちは直接会えなかったっすけど、健の兄貴が認めた存在っすから、多分大丈夫っすよ。」
「そう・・・それならよかったわ。」
「お袋はやっぱり自分の手で育ててたゴジラが、ベビーが気になるんっすね。」
「ええ。私・・・いや、私達にとって、あの子は我が子同然の存在だから・・・昨日ゴジラが現れたって聞いて、今もそれは変わってない事を再確認したわ。昨日も今日もずっとその事ばかり考えてて、今日テレビでゴジラが来るって聞いた時、家を飛び出したいくらいだった。でもそれを止めてくれたのは、一馬さんだった。」
「親父が・・・?」
「ちょうど翼が家を出て行った後よ。ニュースを見てすぐ家を出ようとした私の手を取って、一馬さんは言ってくれた。『今は翼に任せよう。俺達はこの家を、翼が帰る所を守らないと。』って。」
「親父・・・」
「いやぁ、あっちゃんの口から聞くと、何だか恥ずかしいなぁ。でも俺達が本当に守りたいのは、あっちゃんがお腹を痛めて俺達に授けてくれた、翼なんだ。」
「ごめんなさい、翼。私はベビーの事を気にするあまり、一番大切なものを疎かにしていた。私達にとってかけがえのない大切なもの、それは翼なのに・・・」



「・・・親父、お袋。おれっちは幸せ者っす。だってこんなに色々なものを大切にしてくれる、最高の人達の元に生まれて来れたんすから。そんな親父とお袋の事を悪く疑うなんて、出来るわけ無いっすよ。」
「翼・・・」
「・・・ありがとう。」



そっと翼の手を握り、歓喜の涙を流す梓。
梓の顔は、ずっと引っ掛かっていたものが取れた・・・そんな顔付きだった。



「そういえばベビーが親父とお袋の子供みたいって事は、今のゴジラはおれっちの兄さんみたいな感じっすよね。」
「ふふっ、そうね。とっても大きなお兄さんだけどね・・・」



一馬もその光景を見て安堵の表情を浮かべると、皿洗いの作業に戻る。
どうやら、これが一馬が皿洗いを申し出た理由の様だ。





それからしばらくして、夕食の後片付けを済ませた3人は椅子に座り、何かの話をしようとしていた。
それは翼がリクエストした2人の昔話の続き、2人の結婚秘話だ。



「まさか、あの話の続きを話す事になるなんてな。」
「でも翼が私達のなれ初めを知りたいって言ってるんですから、別にいいわよね。」
「そうだなぁ。ちょうど今日は俺にとって忘れられない日だし・・・」
「えっ、なんでしたっけ・・・私達誰かの誕生日でも無いし、結婚記念日もまだ先よね・・・?」
「ふっ、答えは俺があっちゃんに明日プロポーズしようと決めた日。」
「もう!そんな事分からないわよ!」



困った顔をしながら、梓は一馬の肩を軽く叩く。
だが一方で一馬は上機嫌のままであり、一馬が今日ずっと上機嫌だった理由はこれだった。



「やだなぁ、俺にとっては忘れられない日なんだよ?される側には分かりずらいかもしれないけど、これは一世一代の決意なんだ。」
「もう、思い出したわ。確かにプロポーズの日はいきなり呼び出されて、言われたんだった。」
「あの・・・プロポーズってあれっすよね・・・」
「えっと・・・そう、好きな者同士が夫婦になろうって誓う事。俺は14年前、あっちゃんをあの場所に呼び出した。」
「私達がベビーを育ててた、あの場所に。」





『どうしたの?私をここに呼び出して・・・?』
『あ、あっ、あっちゃん。き・・・聞いて欲しい事があっ、あるんだ。』
『聞いて欲しい事?』
『あ、あっ、青木一馬は・・・!五条梓を・・・みっ、未来永劫幸せにすると!ちっ、ち・・・誓います!』
『・・・!』
『・・・い、一応、プロポーズのつもり・・・なんだけど・・・』
『・・・ほんと、貴方っていつもこうなんだから・・・』
『あっ・・・ちゃん?』
『・・・これからも未来永劫、宜しくお願いします。』
『・・・やっ・・・たぁーーーっ!!』





「そんな事があったんっすね・・・」
「そう。今となっては良い思い出さ。ちょっとだけ恥ずかしくもあるけど・・・ね。」
「その後私達はすぐ結婚して、そして翼が私達の元へやって来た。」
「翼の産まれた96年がちょうどゴジラが死んだ年だった事を考えると、タイミング的には良かったのかもしれないな。あっちゃんは強い女性だけど、これは流石に辛すぎると思うから。」
「凄い偶然ね。でも、やっぱりそんな一馬さんを選んでよかったって、本当に思うわ。」
「俺もだよ。あっちゃん・・・おっと、結婚記念日でも無いのに息子の前でいつまでもいちゃついてたら駄目だな。」
「いいっすよ。親父とお袋には、いつまでも仲良しでいて欲しいっす!」
「ありがとう・・・翼。」




それからも青木家の3人は仲睦まじく尽きぬ話題を語り合っていたが、それを中断させたのは突如鳴った玄関のチャイムだった。



「あれ、誰か来たっすよ・・・?」
「こんな時間に、誰でしょう・・・」
「分からないけど・・・でも出ないわけにもいかないし、俺が出るよ。」



一馬は立ち上がり、玄関の方へ向かう。
扉の先の人物に軽く応答し、ゆっくり扉を開けてみると、そこには軍服を来た見知らぬ男がいた。



「・・・!」



確かに現在村には自衛隊が駐在しているが、一馬が驚いていたのは別の事だった。
男が頭に被っている帽子に付いていた紋章、それは自衛隊の紋章では無く、Gフォースの隊員である事を示す翼状の紋章だったのだ。



「Gフォース隊員の、阪田二尉と申します。本日は青木一馬氏に本部までご足労願いたく、参りました。」
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