受け継がれし「G」の名







「うおおおおおおっ!」



夕刻、そのまま勢いで眠ってしまい、焦りながら走って弥彦村に向かう健の姿があった。



――やべぇ、やべぇ!
なんであんな所で寝ちまったんだ!俺!
こんな遅くなっちまったら、みんなに心配掛けちまう・・・!



しばらくして村の入り口に着いた健を待ち受けていたのは、予想だにしないものだった。



「か、帰って来たぞ!」
「本当だ・・・桐城健の帰還だ!」
「うおーーーい!!」
「・・・えっ?」



それはこの弥彦村の村人達による凱旋・・・村人からの祝福だった。
今まで忌み嫌われていた人々からの歓迎に、健は驚きを隠せない。



「桐城、お前さんはこっちに向かってたゴジラを退けたんだってな!」
「あっ、ああ・・・」
「今までただの野蛮な中学生だと思ってたけど、見直したわよ!」
「そ、そうか?」
「あんちゃん、今凄くかっこいいぜ!」
「お・・・おう。」



村人達の中にはここ最近健が関わった図書館の女性やトラックのドライバー、ボールを持った女の子の姿もある。



「よう兄ちゃん!やっぱわしの目に狂いは無かった!兄ちゃんはこの村のヒーローだな!」
「そ、そうっすか?」
「桐城さん、本当に感謝してもしきれません。貴方は多くの尊い命を救って下さいました。素直に喜んでいいのですよ。」
「あっ、ありがとうございます・・・」
「お兄ちゃん!みんなを助けてくれて、ありがとう!」
「い、いや・・・」



予想だにしなかったこの歓迎にすっかり調子を狂わされている健の元に、今度は翼とみどりがやって来た。



「翼、みどり・・・」
「兄貴!無事だったんっすね!」
「お、おう。この俺が簡単にやられっかよ。」
「随分遅かったけど、本当に大丈夫なの?」
「まぁ、用事はすぐ済ませたんだけどよ、そのまま山の中で寝ちまってさ・・・」
「・・・ほんと、あんたらしいって言うか・・・何か心配して損したじゃない。あたし達がもしあんたが山に行ってる事を野次馬に知らせてなかったら、あんたの活躍なんて誰も知らなかったかもしれないのに・・・」
「お前らかよ・・・ほんとびっくりしたじゃねぇか・・・」
「まぁでも、これって村のみんなが兄貴の事を認めてくれた証っすよね。」
「えっ・・・?」
「そう。村の厄介者が村の英雄になった瞬間ね。ゴジラと何をしたかは分からないけど、どうせあんたの事だから・・・」
「と、とりあえずゴジラの面にパンチは入れてやったぜ?」
「・・・やっぱり。」
「でも最高っす!兄貴は拳と拳でゴジラと語り合ったんっすね!ほんと、痺れるっす!」
「とにかく・・・無事で良かったわ。健。」
「・・・へっ。」



「あっ、あとそんな兄貴に・・・」
「会いたい人がいるの。」
「へっ・・・?」



そう言うと翼とみどりは左右に避け、そこから現れたのは美歌だった。



「美歌・・・」
「・・・たけにぃ、ほんとごめんなさい。たけにぃがみんなの事を一番に考えてる事くらい分かってたのに・・・あんな事言っちゃって・・・」
「・・・いいんだよ。お前が言ってくれなきゃ、俺はずっと身勝手な自分に気付かなかったんだ。逆に感謝してるぜ。」
「たけにぃは、やっぱり優しいね・・・あとこれ・・・たけにぃが見付けてくれたんでしょ?」



美歌は絆創膏だらけの手でポケットから鏡を取り出し、健に差し出す。



「本当はお前を助けてくれた観光客の人が見付けたんだけどな。でも、絶対鏡を見付けるって・・・約束したからな。」
「うん!・・・たけにぃ、お帰りなさい!」
「・・・ただいま。」



美歌は健に抱き付き、健も美歌の頭を撫でてそれを受け止める。
それと同時にテンションが頂点に達した村人からは割れんばかりの歓声が上がった。





その取り巻きの外では、将治が歓声の中心にいる健を見ていた。



――・・・僕は、間違っていたのかもしれない。
今までの僕はどんな予想を立てても、それを周りに教える事は無かった。
『祖父の七光り』って思われてるからって理由を付けてたけど・・・本当は怖かったんだ。
そう思われていると言う事実を知るのが、僕の考えが間違っていると言うのが。
けれどこうして彼の動向を見てみて分かった。
僕がただの臆病者にしか過ぎない事に。
・・・僕は確かめたい。
僕が間違っているのか、何が正しいのか・・・
彼・・・桐城健の元にいれば、それが分かるかもしれない。
僕は・・・もう少しここにいる必要があるみたいだ。



将治は静かに笑みを浮かべるとノートパソコンのディスプレイを閉じて鞄に仕舞い、健達の所へと歩んで行った。
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