受け継がれし「G」の名






グルルルルルル・・・



フォライドに勝利したゴジラは山を下り、何処かへと向かっていた。
その眼前に見えるのは、弥彦村だ。
このまま進めば、弥彦村はまた火に包まれてしまうだろう。
しかしながら、ゴジラの目には先代のゴジラが持っていた人類への憎悪の念は宿っていなかった。
それはこのゴジラ・・・ジュニアが人間に育てられたからであり、やはりゴジラには人間に対する敵意は無かった。
ただ、体は成熟しても精神が未熟である故に自身が起こす事が人間に被害を与えている事に気付いていないだけなのだ。
無論、ゴジラの気持ちが分かるであろう人々はこの場にいないのでそれを教える術も無かった。



「・・・てよ・・・!」



そんなゴジラの進行を許さない、小さな1つの影があった。
影はゴジラより高い所へ登り、鑽立った崖から一気に飛び上がると降下しながらゴジラへ向かった。
こんな無謀過ぎる事をするのは、この辺りで1人しかいない。



「ゴジラァァァァァァァァァァァァ!!」



拳を振り上げゴジラの顔面にパンチを入れる少年・・・そう、健だ。
健はすぐ後ろに下がって上手く大木へ落ちると、枝葉を折りながら大怪我をする事も無く着地し、ゴジラの前に立つ。



「っ・・・!これは、てめぇが俺達の村を壊してった分だぁ!」



迫る90mの巨体にも全く怖じけ付く事無く、健はゴジラを見上げて睨んだ。
ゴジラも健に興味を示したのか、立ち止まって遥か下の健を見下ろす。



「お前、また俺達の村を壊しに来たのか?今度は・・・俺達から居場所を奪うってのか?ふざけんじゃねぇ!お前にとってはちっぽけな所かもしれねぇけどな、俺達にとっちゃ失いたくない、大切な居場所なんだ!」



目の前の相手に通じているのかも分からない。今この時にも踏み潰されるかもしれない。
それでも健は、ゴジラに懇願し続けた。
ほんの僅かだけでいい、自分の言葉が届く様に。



「俺、学校の課題でお前の事知って!ただの化け物だって思ってたお前の事見直したんだ!怪獣だって、思いはあるんだって!だから昨日お前が来た時!俺はお前が助けに来たって信じてたんだ!だから・・・だから俺に信じさせてくれよ!お前は、今のゴジラはみんなを救った英雄なんだってよ・・・!」



ゴジラは動きも答えもせず、ただ訴え続ける健を見つめていた。



「頼む・・・!俺達の、俺達から居場所を奪わないでくれ!居場所を無くした悲しみは・・・お前が一番分かるはずだろ!お前が!同じ事したらいけねぇだろうがよ!お前が行くのはこっちじゃねぇ・・・あっちだ!」



精一杯叫び続け、絶え耐えの息で中腰になりながら健が左の指で指したのは、弥彦山の向こうに広がる日本海だった。



――・・・もう、殴る気力も出ねぇや・・・
・・・でも、俺のやれる事はやった。
これが、俺の全力だ・・・!



ゴガァァァァァァァオン・・・



暫しの間の後、ゴジラは一つ咆吼を上げた。
そして一瞬健を見ると体を翻し、海の方へと去って行った。



「・・・った・・・!」



緊張の糸が切れた健は地面に倒れ込み、大の字になって空を見上げた。
その表情は、何かをやり切ったとても爽やかなものだった。



「俺・・・やったんだよな・・・みんなを・・・守れたんだよな・・・!」



健は右手を上げ、約束の証であるブレスレットを見つめる。
そして再び右手を地面に付けると、そのまま深く目を閉じた。
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