受け継がれし「G」の名






中心地から去った健が目指していたのは、勿論目の前に聳える弥彦山だった。
人がいても倒木が邪魔をしても、健はそれを避けながらがむしゃらに走り続ける。



――あの日、父さんがいなくなってから母さんは時折悲しげな表情を浮かべる様になった。
母さんはああ見えて逞しいから、俺達の前じゃいつも通りにしてたけど、腹の底で父さんがいなくなった事、絶対に悲しんでた。
だから、俺は母さんと約束した。
間違った事に拳は使わない。
学校は絶対サボらない。
夜9時まで外をうろつかない。
礼儀は忘れない。
そして・・・何があっても、家族を見捨てない。
俺は今、一番大切な約束を破ろうとしてる。見捨ててはねぇけど、美歌に見捨てられちまったのはもっと駄目な事だ。
だから、俺は美歌と・・・間違いを気付かせてくれたみどりを助けに行く。
もう、俺は迷わねぇ!
俺は、2人を助ける!



そうして走り続け、村の外まで来た健は近くにあった公衆電話へ向かい、ポケットから取り出した小銭を急いで投入口に入れると何処かへ電話を掛ける。
電話の相手は、青木家の電話だった。



「はい、もしもし・・・」
「翼か?」
「あっ、兄貴!?」
「お前に少し頼みがあるんだ、聞いてくれ!」
「えっ、は、はいっす・・・」
「すまねぇ。それで頼みだけどよ、今から弥彦山の前に来てくれ。」
「弥彦山の前っすか?弥彦山・・・あっ、まさか兄貴!」
「ああ、そのまさかだ。さっき山に変な霧が出てるってテレビでやってたろ?あれは怪獣の仕業で、って事は美歌とみどりが危ねぇんだ。俺は2人を助けに行くから、お前は待っててくれ。」
「でも兄貴、相手は怪獣っすよ?兄貴だって敵わなかったのに・・・」
「へっ、無敵の喧嘩中学生にそんなの関係ねぇよ。探し物も手に入れた。お前の兄貴として情けねぇ事ばっかしてたんだ、挽回させてくれ。」
「・・・分かったっす。兄貴はやっぱ、最高の男っす!」
「ほんと、いつでもお前は言ってくれるぜ。じゃあな。」
「あいっす!」



満足気な表情で受話器を置いた健は、また弥彦山へ向かって走り出した。
美歌とみどりを助ける為・・・約束を守る為。






ゴオオオオオオオォォォォォ・・・


キィアアアアアア・・・



佐渡海峡ではプレシオルが青い光線の一撃を見舞っていた。
光線は海の中へ逃げようとしたプレシオルの背を捉え、左側の突起を2つ破壊する。



ゴガァァァァァァァオン・・・



光線を放ったのは先程海を割って現れた黒い怪獣・・・ゴジラだ。
ゴジラは熱線を受けてもなお海の中へ姿を消したプレシオルを慎重に探すが、やはりこの悪天候では影を追う事は困難なのか、何度も辺りを見渡している。



キィィィィィィィ・・・



そんなゴジラを襲ったのは、プレシオルが海中から発した超音波ブレスだった。
人類の機械を簡単にショートさせてしまう程の威力である超音波の波動はゴジラにも通じ、ゴジラは苦しそうに耳を塞ぐ。



キェルルルルルルルルルルルルル・・・



更に隙が出来たゴジラを海の中に引き摺り込もうとプレシオルはゴジラの足に噛み付き、勢い良く引っ張る。
ゴジラも負けじと足を動かし必死に抵抗するも、より有利な体勢から引き摺り込んでいるプレシオルに抗う事は出来ず、そのまま海に沈んだ。



「隊長、ゴジラが海に!」
「怪獣に引き摺り込まれたか・・・」



ゴジラの乱入に攻撃の手を止めていた部隊も、二体の闘いを傍観する。



「どうしますか?」
「わざわざ闘いに水を差す必要は無い。ここはどちらかが倒れるまで、見させてもらうとしよう。」





グルルルルルル・・・



その一方、プレシオルの領域である海の中に引き摺り込まれたゴジラはすぐにプレシオルの鰭の一撃を受けた。
海上の何倍もの早さで動くプレシオルはゴジラを翻弄しながら鰭で攻撃を加え、逆にゴジラには反撃の余地を与えない。



ジュゴォォォォ・・・



埒が明かないと感じたゴジラは背鰭を光らせ、熱線を放つ準備をする。
しかし、それを見抜いたプレシオルは超音波ブレスを発してゴジラの邪魔をし、ゴジラもエネルギーのチャージに集中出来ない。
再び海上へ逃れようにもプレシオルは尾でゴジラの足を掴み、引き戻して海中からの脱出も許さない。
まさに「八方塞がり」の状態だ。



キェルルルルルルルルルルルルル・・・



勝利を確信したプレシオルは、額の角を点滅させながらゴジラに迫った。
海中では使えないマグニチューム光線をゴジラをいきなり海上へ押し出す事で使い、ゴジラを消滅させようと企てたのだ。
再生能力の強い特殊な細胞「G細胞」で全身を構成されたゴジラでも、マグニチューム光線をまともに受ければ大ダメージは避けられない。



ピィイィィィ・・・



だが、ゴジラにはこの状況を打破する一つの方法があった。
それに気付いたゴジラは背鰭では無く、全身を薄く青色に光らせる。
ゴジラの変化に気付かないプレシオルはもう勝てるものとそのままゴジラへ突っ込んで行くが、それが仇となった。



ディイィィィィィ・・・



ゴジラの体から閃光が瞬き、放たれた青い波動が寸前まで迫るプレシオルを打ち払った。
体内のエネルギーを全身の皮膚から放つゴジラの秘技「放射波動」だ。



キィアアアアアア・・・



プレシオルは波動を回避する事も出来ずに自らが海上へ引き上げられる形となり、ゴジラもそれに追随して海上に浮上する。



「怪獣とゴジラ、急浮上しました!」
「・・・そろそろ決着が付くな。」



海上に戻るや否やゴジラは背鰭を光らせ、プレシオルへ熱線を発射する。
しかしプレシオルもまた極超音波の準備を済ませ、マグニチューム光線を発射した。



ゴオオオオオオオォォォォォ・・・



オレンジの極光は青い熱線をも分子レベルへ分解して行くが、それ以上の勢いを持つ熱線は決して押し負ける事なく、激しい押し合いの後爆発を起こした。
極超音波を一旦停止させたプレシオルは爆炎の向こう側を警戒するが、そこから向かって来たのはゴジラでは無く、ゴジラの熱線だった。



キィアアアアア・・・!



成す術も無くプレシオルは胴体に熱線を受けながら海の彼方へと押し進められ、やがて大爆発を遂げた。



ゴガァァァァァァァオン・・・



ゴジラが勝利の雄叫びを上げると共に、暗い雲に包まれていた空は元に戻った。
目的を達成したゴジラは部隊のいる背後に振り返ると、今度は部隊の方へと向かって行った。



「た、隊長!ゴジラがこちらへ!」
「すぐに攻撃を・・・」
「待て!・・・俺達の目的は、銀色の怪獣の駆逐だ。」



瞬の一存でゴジラへの攻撃は行われず、駆逐艦もゴジラを避ける形で移動した。
一部復旧が済んでいなかった駆逐艦の先端が破壊されたり、甲板の隊員が多量の水渋きを受けて作業を中断せざるを得なかったなどはあったが、ゴジラは最後まで意図的に駆逐艦を破壊する事は無く、何処かに去って行った。



「ゴジラの目標予想地点は?」
「・・・弥彦山です。」
「弥彦山と言えば先程巨大な怪鳥を目撃したとの情報が入っている。今のゴジラの行動パターンを考えれば、怪鳥を倒しに行ったと考えるのが妥当か・・・」
「ですが隊長、我々はゴジラの上陸を意図的に許した事になります。それで宜しいのですか・・・?」
「責任は俺が全て取る。それに俺は間違った判断を下したとは思っていない・・・今のゴジラは、昔のゴジラでは無い。」
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