受け継がれし「G」の名







その頃、弥彦山の山頂では美歌とみどりが果てしなく広がる海を眺めていた。
ここ弥彦山は海岸からいきなり山が突き出した格好となっており、山頂からは日本海や越後平野が見渡せるのだ。



「みどねぇ、あそこにカモメさんがいるよ!」
「あっ、結構いるわね。ほんと、いつ来てもここは凄いわね~。」
「うん!でも、登ったり降りたりするのはちょっときついけど・・・」
「じゃあ、帰りはロープウェイを使いましょ。」
「えっ、いいの!?お金かかっちゃうよ?」
「だーいじょうぶ!これくらいあたしなら問題ないから、任せて。」
「みどねぇ、本当にありがとう!やっぱりみどねぇって大人ね~。」
「ふふっ、褒めたって何にも出ないわよ?じゃあ、行きましょっか。」
「うん!」



2人は地面に置いていた鞄を手に持つと、ロープウェイのある駅へと向かった。



「あっ、そうだ美歌ちゃん、いい話聞かせてあげよっか?」
「いい話?なになに、聞きたい!」
「えっとね・・・美歌ちゃんは、モスラって怪獣を知ってる?」
「モスラ?えっと、結構昔に出てきた怪獣だったっけ・・・」
「そう。1993年、今から16年前。」
「16年前・・・私、生まれてもいないね。」
「あたしもまだ幼稚園児だったくらいよ。だけどあたしは今でもはっきり覚えてる。あたし・・・モスラと会った事があるの。」
「ええっ!?」



みどりは少し懐かしげな表情を浮かべ、話を続ける。



「その時あたしはお母さんに連れられて、ビルにいたの。モスラは大昔に住んでたコスモスっていう妖精の神様みたいな怪獣で、インファント島って島でそのコスモスの生き残りと暮らしてたんだけど、悪い人がコスモスをお金儲けに使おうとコスモスを連れ去ってしまったの。モスラはコスモスを取り返す為に日本へ来て、あたしがいたビルに来たってわけ。」
「うんうん!それで、どうなったの?」
「ビルにはお父さんもいて、お父さんは悪い人からコスモスを取り返してたんだけど、お父さんもコスモスを研究所に売り渡そうとしていたの。お父さんはあたしとお母さんと一緒にやり直して、ずっと一緒に暮らしていけるお金が欲しかったから、こんな事したみたい。だけどお母さんはそれを断って、お父さんが謝った所にモスラが来たの。
モスラは怒ってた。小さい頃のあたしにはそれが分かったのかな、コスモスにモスラを止めてって頼んだわ。そしたらコスモスがモスラの所へ行って、私達はここにいるから大丈夫よ、って伝えたの。モスラはそれを分かってくれて、使命を果たす為にビルから離れて行ったの。」
「何だか、みどねぇって凄いね・・・それで使命って?」
「モスラには、やるべき事があったの。地球に大きな隕石が迫って来ていて、それを止めるって言う使命が。本当ならそれはバトラって怪獣がする筈だったんだけど、バトラはモスラと一緒にゴジラを追い払って、死んじゃったの。」
「えっ・・・!」
「だからモスラが代わりに隕石を止めに行く事になって、モスラは宇宙へ行った。モスラと一緒に行ったコスモスはこう言ったわ。『無事、この地球に21世紀が訪れたら・・・その時はモスラの事、思い出して下さい。』って。」
「じゃあ、こうやってみんな平和に暮らせるのはモスラと・・・バトラのお陰なんだね。」
「うん。モスラとコスモス、今どうしてるんだろうなぁ・・・」



空を見上げ、遥か彼方の宇宙へ去って行ったモスラを想うみどり。
その様子を見る美歌も、この話が嘘であるとは全く思わなかった。



「さっ、それじゃあ行きましょっか。」
「うん!みどねぇ、ありがとう!」
「どういたしまして。」



話をしている間に、丁度ロープウェイの駅に到着した。
片道料金を払って駅の中に入るとまだロープウェイは来ていないが、2人の他に乗る人はいないようだ。



「あと美歌ちゃん、健の事なんだけど・・・」
「・・・知らない。たけにぃの事なんて。」



ロープウェイが来るや否や、美歌は話を遮る様にすぐロープウェイに乗り込んだ。
不味い話をしたか・・・と思いつつ、みどりもロープウェイに乗り、窓を見ている美歌の肩をそっと持つ。



「みど・・・ねぇ?」
「ごめん、美歌ちゃん。でも聞き流してもいいから、ちょっと付き合ってちょうだい。」



みどりの真剣な表情に、美歌は彼女の発言とは裏腹に絶対に無視するべきでは無いと感じた。
扉が閉まり、ロープウェイはゆっくりと発進したが、美歌に外の景色を眺める余裕は無かった。



「・・・話ってなに?」
「昨日の地震が怪獣の仕業なのは知ってると思うけど、あの後怪獣は美歌ちゃんがいたコンビニへ向かってたの。」
「・・・!」
「その時あいつとあたしは美歌ちゃんを助けようとしてたんだけど、怪獣が来た時にあいつ、何したと思う?・・・怪獣に立ち向かったの。」
「・・・バカよ。絶対勝てるわけないのに・・・」
「そうね。それはあたしもその場で言ったわ。だけどあいつは出来る出来ないの問題じゃなくて、大切なものが奪われるのを黙って見ていられないって言って、怪獣に向かった。」
「・・・」
「結果は怪獣の一発KOだったけど、その時のあいつの思いは本気だったと思う。あたしもさっき健に偉そうな事言ったけど、あたしだって健が勝手にどっか行った事に腹立って本当は窓からこっそり出てたのに嘘付いちゃったし。ほんと、あたしも大人げないわね。」
「みどねぇ・・・」
「だからこんなあたしが言うのも何だけど、そろそろ健の事を許してみない?確かに勝手なバカ兄貴だけど、美歌ちゃんが大切なのは本当の・・・」
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