受け継がれし「G」の名




一方、つくばG対策センターの管制室前通路では先程会議を終えた新城と佐藤が話をしていた。



「そういえば昨日スーパーⅢで出動した『特自』の黒木特将の部隊、本日ご無事に本部に帰れたそうですぜ。」
「そうか。黒木特将とはあの件の事もあるし、無事で何よりだ。」
「その件に関してなんすけど、スーパーXⅢの回収が終わるまで待ってくれないかと伝言をお預かりしておりますけれど。」
「分かった。後で黒木特将に連絡を取っておく。・・・それで佐藤、何だその変な敬語は。」
「いやぁ・・・やっぱし功二と敬語で話すなんて俺には出来ないわ。って事で、今度からはタメで話すんで宜しく~。」
「キヨ・・・いや佐藤、何を言って・・・」
「ほら、功二だって本当はタメで話しがってんじゃんか!隠すなって!」


――・・・はぁ、キヨは昔からこうなると手が付けられないし、仕方ないか・・・


「それでちょっと提案があるんだけどさ、昨日現れたあの怪獣の名前、『マジロス』って名前にしようぜ。」
「マジロス?」
「確か『マジラルロス』って言う昔のアルマジロが怪獣になったんだろ?だったら怪獣っぽく『マジロス』!って良くねぇか?」
「・・・考えとこう。」
「よっし!んで功二、最近三枝とはどうなってんだよ。」
「なっ、なん・・・!」
「しらばっくれんなよ。ダチに隠し事なんて出来ると思ったか?いい感じだったのに彼女が忙しくなった、とかで13年前に別れたと思ったらここ2、3年でちゃっかり元サヤに戻りやがって。」



佐藤の言う「三枝」とはかつて幾度と無くゴジラの闘いを見つめ続けた超能力者、三枝未希の事である。
かつて所属していた精神科学開発センターの超能力者の中で一番の超能力を持っていた彼女は90年、満17歳ながらゴジラの大阪上陸を食い止めると言う偉業を成し遂げ、以降ゴジラとの関わりを持つようになった。
Gフォースに出向するようになってからはゴジラを駆逐する目的でメカゴジラに搭乗する事を命じられたり、ゴジラを操って世界の破壊を目論むテロリスト集団にその超能力を求められて拉致されたりもしたが、ベビーゴジラとの出会いがゴジラを倒す事が自分の使命であると思っていた彼女の考えを変え、それからはゴジラとベビーの行く末を最後まで見守り続けた。
その後、彼女は再び精神科学開発センターに戻ってセンターの所長になり、今だ現れ続ける怪獣の動向を監視している。
ちなみに新城と三枝は95年の対スペースゴジラ戦時に知り合い、最初こそ考えの相違がありながらも最終的には互いを分かり合う事が出来た。
それから2人は同じG対策センターに所属していると言う事もあって会う機会が多くなり、佐藤はもちろん他の隊員も2人は絶対に交際すると信じてやまなかった。
だがそんな折にバース島の爆発が起こり、三枝がゴジラとベビーの行方を追う事に専念した為、新城と会う事も無くなっていった。
そして自然消滅の型で2人は交際まで進展する事無く、また只の知り合いに戻っていた筈・・・となって今に至る。



「か、彼女は別に・・・そ、それに付き合ってもないんだから、そもそも元サヤなんて言わないぞ・・・!」
「またまたぁ、あん時はお前と三枝は絶対にくっつくってみんな信じて疑わなか・・・」



するとその時、2人の会話を遮る様に突如ブザーが辺りに響き渡った。
佐藤は疑惑の追求が出来なかった事に対する不服の、新城はうやむやになった事への安堵の表情をしながら管制室へ入る。



「どうした?」
「司令官!日本海北東の方角に未確認巨大生物が出現しました!」
「つまりは怪獣か?昨日も出たってのに・・・」
「画面に出します!」



素早い手付きで隊員は手元のキーボードを動かし、怪獣が現れた地点の衛星映像をメインスクリーンに出す。
スクリーンに映っていたのは長い首を持った銀色の怪獣が海を渡る姿だった。



「何だ?こんな奴今まで出て来てないよな?」
「確かに出現報告には無い怪獣だ・・・怪獣の予想進路は?」
「外見から判断すると海悽の様なので最終的な目的地までは分かりませんが・・・このままだと佐渡海峡に向かうと思われます。」
「よし、至急海上部隊を怪獣に向かわせろ。また付近の弥彦村に駐屯している自衛隊の特殊部隊も合流させるよう、総理官邸にも連絡を頼む。」






怪獣発見から数十分後、弥彦村の中心地の前では連絡を受けた自衛隊員が海上部隊と合流する為の準備をしていた。
手慣れた動きで迷彩色の4WDに素早く弾薬や大砲を積んでいくその姿は、いかに隊員達が訓練を重ねて来たかが分かる。
しかし、その様子を彼らの更に後ろから驚愕の顔で見つめる影があった。



「あれ・・・何してんだ・・・?」



そう、健だ。
あの後彼は今度こそ美歌の鏡を見付ける為にまずは自衛隊のキャンプを訪れようとしていたが、今さっき到着した時には既に自衛隊が合流の準備をしていた、と言うわけだった。



「撤退にしちゃ早過ぎるよな・・・犯罪者が人質取って立て籠ってるにしても警察が全然いねぇし・・・」


――・・・待てよ。
まさか・・・また怪獣が来てんのか・・・!?



それを悟った時、健の顔は一気に不安の表情へと変わった。
無意識の内に拳を握り、健は昨日の惨劇を思い出す。



――また、あんな事が起こるってのか・・・?
俺達の村が、大切なみんなが、また・・・
けど、俺には・・・!



迷いに覆われた健の心は、これから健がどうするべきかも包み隠した。
何をすればいいかも分からず、ただ立ち尽くす事しか出来ない健。
しかしそんな彼の前に落ちて来たのは、一枚の白い紙だった。



「んっ、何だ・・・?」



拾い上げてみるとそれは今日の朝に志真から貰い、そのままポケットに入れっぱなしにしていた名刺だった。
名刺は裏を向いて落ちており、よく見ると何か書いてある。



「『物事の本質を見極める、それこそが大切。』・・・いつの間にこんなの・・・?」


――・・・物事の、本質・・・・・・そうだ、俺がやるべき事は・・・!



健の体はすぐに準備を終わろうとしていた自衛隊の元へと向かっていた。
殴り掛かるわけでも強行突破するわけでも無い、ただ真実を確かめる為に。





「もう一度確認するが、A・B斑は隊長の指示に従って海上部隊と合流。C斑はここに待機して救援活動の続行。以上を持って・・・」
「待って下さい!」



準備も終わり、確認作業に入っていた所に突如乱入した少年・健は部隊に混乱を生んだ。
特にC斑の隊員達は数時間前に中心地で見掛けた不審者がまたここに戻って来た、と言う事もあって混乱は大きい。



「な、何だ君は!」
「忙しい所すみません!ですがちょっと聞きたい事が・・・」
「君!確か朝に中心地を彷徨いていた不審者だろう!」
「そうだ、この少年を捕らえないと!」
「ま、待って下さい!俺はただ・・・!」
「話はキャンプでゆっくり聞く!来なさい!」



朝に逃げられてしまった事で更に躍起になっているC斑の隊員達は健を捕らえようと、急ぎ足で歩み寄る。
だが、それを左手一つで止めたのは自衛隊高位隊員の軍服を着た、落ち着きのある男だった。



「しゅ、瞬隊長!?」
「お前達は早く持ち場に付け。A・B斑も黙って見ている暇があるなら早く部隊と合流しろ。」
「し、しかし・・・」
「指示は伝えた。お前達は俺がいなければ動く事すら出来ないのか。」
「り、了解・・・」



瞬と名乗る男が命令を下すや否や、隊員達はすぐに行動を開始した。
どうやら瞬がこの部隊の隊長であるのは確かだ。



「あ、あんた・・・」
「話は手短に頼む。」
「・・・じゃあ聞きます。あんた達はこれから何をしに行くんですか?」
「・・・守る為に闘う。」
「えっ・・・?」
「俺達は自衛隊。この国の民を守る事こそが使命だからだ。」
「使命・・・」
「あと探し物がしたいなら、まずキャンプへ行く事だな。では、俺はそろそろ失礼する。」



そう言うと瞬は振り返って部隊の4WDに乗り、中心地を去って行った。
目的地はもちろん、海上部隊との合流地点だ。



「守る為に闘う・・・」


――やっぱし、怪獣が来るのか・・・
でもあの人がいるんだったら、なんか大丈夫な気がするな。
そうだ、俺にはまだ美歌の鏡を見付けるって言う「使命」があるじゃねぇか。
今はそれを果たすんだ!



健は瞬が残した言葉を噛み締めながら自分の本来の目的だった鏡探しを続けようと、自衛隊のキャンプに向かった。
朝の逃避行劇の後ろめたさから出入口の前で足が止まりそうになったが、すぐ自分を奮い立たせて出入口を潜る。



「し、失礼します!ちょっと話を・・・」
「ああ、君?」
「へっ?」



もはや隊員に捕まる覚悟でキャンプ内に入った健にとって、中の隊員の淡々とした対応には驚きを隠せなかった。
無論、隊員は健を捕まる素振りすら見せない。



「今さっき瞬隊長から聞いたんだけど、探し物をしてたんだって?だったら最初からここに来れば良かったのに。」
「え・・・えっと、俺を捕まえ・・・?」
「理由があるなら別に無理して拘束する必要も無いからね~。それに面倒臭い!これ重要。」


――おいおい、自衛隊の隊員がそれでいいのかよ・・・


「とりあえず遺失物ならそこに置いてあるから、ぱっぱと見付けてぱっぱと帰ってくれ。」
「は、はい・・・」



微妙な気分になりながらも健は机の上にある遺失物を確認し、美歌の鏡を探す。
しかし、どれだけ見渡してみても遺失物の中に探し物の鏡は無かった。



「うーん・・・ここにはねぇか・・・すみません、これ以外に落とし物ってあります?」
「今見付かってるのはそれだけだけど。何なら探してみる?」
「いいんですか!?」
「うん。だけど一応僕と・・・」
「ありがとうございます!それじゃあ!」



隊員が何か言い終わる前にはもう、健はキャンプを飛び出していた。



「付き添い・・・あ~あ、行っちゃったよ。まぁ僕の手間が省けたからいいか。あれだけ頑丈そうなら1人でも行けそうだし・・・ね。うん、そういう事にしておこう。」
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