受け継がれし「G」の名







翌日、G対策センターによってゴジラは日本海に向かった事が確認され、13年の年月を経て姿を見せたゴジラと約4年越しに現れた怪獣、マジロスに対する緊急会議が国会で行われていた。



「これは再び訪れた日本の危機です!怪獣だけならまだしも、ゴジラまでも同時に現れた事は近年例にありません!」
「しかし今回のゴジラはゴジラジュニアが成体になったもの、再び人類の脅威になるとは・・・」
「それでゴジラが都市破壊をしない保証がありますか!現にゴジラは村の建物を破壊し、二次災害を起こしている!」
「まぁゴジラはG対策センターが監視しているのですから、対策は大丈夫でしょう。問題はいつ現れるかが分からない、未知の怪獣です。」
「その未知の怪獣の事に関してですが、昨日弥彦村に現れたあの怪獣はかつて存在した古代種のアルマジロである『マジラルロス』が突然変異を起こしたものであるそうです。ですがその誕生過程については、全く分かっていないのが現状です。」
「突然変異とはやはり、2005年の原発事故が関わっていると考えるべきですか。」
「だとするなら、原発の管理者にも困ったものですな!改めてその責任問題を追求するべきだ!」
「小西議員、静粛に。その原発事故であっても、はっきりとした原因は分かっていない。責任追求はそれが判明してから考えるとしましょう。」
「・・・ふん。」
「しかし例の怪獣の誕生過程が分からなければ、対策も取りずらいでしょう。ここは調査員を現場に派遣して、原因を調査するのが第一かと。」
「それもそうですね。その事も視野に入れ、今後の対策を考えましょう。」



そうして会議は続けられたが、議論を重ねても納得の行く対策が出る事は無く、会議は難航していた。






ところ変わって、ここは弥彦村。
火災は黒木達が用意した鎮火弾によって鎮火され、被害は中心地のみで済んだものの、マジロスによる破壊活動だけでなく、ゴジラが起こした二次災害が加わって結局は壊滅状態になり、中心地及び付近は自衛隊によって立入禁止となった。
中心地の撤去作業も村人への救援活動があって満足に進んでおらず、スーパーX3も今だ回収されていない。
また、村の病院は中心地から救助された怪我人で溢れ、それでなくとも人手が少なかった村の病院では全国的な医師不足も手伝い、手のつけようの無い状況に追い込まれていた。
満員の病室からは患者の呻き声が聞こえ、その誰もが痛みからの苦痛だけで無く、記憶に植え付けられていた地震への恐怖、根底にあった「怪獣」と言う脅威に対して恐れおおのいていた。
そんな病院の受付に、翼の姿があった。



「すみません、あに・・・桐城健さんの病室は何処ですか?」
「桐城健さん?桐城さんは・・・はい、24号室にいらっしゃいます。」
「サンキ・・・あ、ありがとうございます。それじゃあ。」
「あの、面会許可はとって・・・」



受付の看護師が言い終わる前に翼は健のいる24号室へ走ってしまっていた。
途中何度も患者や看護師とぶつかりそうになりながら、翼は廊下の右端にある24号室に滑り込む。



「あーにー・・・き?」



しかし部屋には何故か健らしき人物はおらず、上部に『桐城 健』と書かれたネームプレートがある布団が豪快に捲られたベッドの横にみどりがいるだけだった。



「あら、翼君。」
「みどりの姐さんじゃないっすか。兄貴は何処にいるんすか?」
「健なら手紙置いて勝手にどっか行ったわよ。」
「へえっ!?」



みどりが指差したテーブルには確かにメモ用紙が置かれており、翼はそれを手に取って読んでみた。



「『ちょっと妹の落とし物を探しに行ってきます。昼には帰るので探さないで下さい。』・・・落とし物?」
「そう、美歌ちゃんが昔お父さんから貰った鏡を昨日のどさくさに紛れて落としちゃったみたいでね、それをあいつは多分美歌ちゃんのうわ言か何かで知って、ご丁寧に窓から中心地へ行ったみたい。」



そんな事とは露知らず、美歌は健の隣のベッドですやすやと寝息を立てている。
医師の話によると、あの場所にいたのが幸いして骨折などは全く無いらしく、もし他の場所にいたらそれも免れ無かったとの事だった。
また和美には健が心配を掛けたくない、としてみどりの携帯電話から直接帰らなくても良い事を伝えていた。
和美の方も4年前の原発事故の影響から起こる電力不足による新幹線の遅れに引っ掛かり、寺沢の所には中々行けないようだ。



「そうだったんっすか。いやぁ、兄貴は本当に家族思いっすねぇ・・・」
「そういう問題じゃ無いでしょ!あいつだって、本当なら全身骨折の重体になっててもおかしくなかったのよ!ほんと無駄な運動神経が役に立ったと言うか、馬鹿なんだから・・・」
「まぁまぁ姐さん。兄貴は家族を思う、不死身の喧嘩番長っすから。」
「って言うか翼君、その『姐(あね)さん』って呼ぶのは止めてくれないかな・・・」
「いやぁ、みどりの姐さんって唯一兄貴が敵わさそうな感じっすし・・・」
「う・・・んっ・・・」



と、その時眠っていた美歌が目を覚ました。
両手で眠気眼を擦ると、改めて自身の状況を確認する。



「おお、起きたっすか!」
「みどねぇ・・・それにつばさん・・・」
「ここは病院。美歌ちゃんは助けられてから、ずっとここで寝てたの。」
「あっ、そうだ・・・昨日コンビニに入ったらいきなりぐらぐらって揺れて・・・色んなものが落ちて来て・・・知らないお姉ちゃんが来て・・・それで・・・」
「大丈夫。そのお姉さんが安全な所に美歌ちゃんを避難させたから、怪我も無かったのよ。」
「そう・・・後でお礼しなきゃ・・・あれ?たけにぃ・・・は?」
「あっ、兄貴は・・・その・・・」
「つばさん、慌ててどうしたの?」
「あいつはね・・・」






「ふぇっくしょい!」



一方、今は誰もいない村の中心地でその男、健は大きなくしゃみをしていた。
誰かに聞こえていないか慌てて周りを確認し、健は胸を撫で下ろす。



「ったく、どっかの不良が俺の噂でもしてやがんのか・・・?」



そう推察しつつ、健は何度も忙しそうに辺りを見渡した。
勿論目的は美歌の鏡探しであり、健のいる正確な位置は昨日美歌がいたコンビニ付近である。



「やっぱ、見える所には落ちてねぇか・・・」



そうして暫くの間周囲の確認をしていた健だったが、やがて近くに鏡が落ちていない事を察すると瓦礫の下に座り込み、今度は瓦礫を除けようと瓦礫に手を伸ばした。
しかし何故か健はすぐにその手を止め、また辺りを見渡す。



――誰か・・・いる。



健が手を止めたのは、何者かの足音が聞こえたからだった。
聞こえた足音は1人分だったので自衛隊では無い様子だが、それでも不審感を拭えなかった健は誰とも知れない相手に気付かれぬように瓦礫の山に体を隠し、瓦礫の上から頭だけを出して辺りを覗き込む。



「・・・んっ、あいつか・・・?」



健が見付けたのは、何やら慎重に周囲を探索している40代前半の男だった。
何処か荒々しい雰囲気を受けつつも、黒い礼服の様なスーツを着ている事から男が高位の役職員である事が分かる。



「とりあえず自衛隊じゃ無かったな・・・しかしあのおっさん、あんな所で何してんだ?」



健の視線を知ってか知らずか男は探索を続いていたが、突然足を止めると膝を付き、地面に落ちていた何かを拾う。
少し距離があったので健からは男が何を拾ったか見えなかったが、男は何か銀色の物体を拾った様に見えた。



「ありゃ・・・金属?」
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