受け継がれし「G」の名




突如として現れ、村を混乱の渦に巻き込んだマジロスを倒したゴジラにまるで英雄の様な感覚を覚える健。
だが、この後彼が見たものはあまりにも衝撃的な光景であった。



「・・・!?」



そう、それはゴジラが何の躊躇いも無く村の土産屋を踏み潰す姿だった。
ゴジラの事をこの村を救いに来てくれたと思っていた健にとって、自分の考えと矛盾するゴジラの行為はとても理解出来るものでは無かった。



「嘘、だろ・・・?」



希望から一気に絶望に叩き落とされた健をよそにゴジラは瓦礫の山を破壊し、お構い無しとばかりに村の被害を広めていく。
業火に飲まれる村を見るしか出来ない健はただ、力無く左手を伸ばした。



「・・・止めろ・・・止めろ・・・止めて・・・くれ・・・!」



微かな声を搾り出し、健はゴジラに懇願する。
その小さな声を聞いてか聞かずか、ゴジラは一瞬立ち止まって後ろに振り向いた。
だがすぐに前を向くと再び歩き始め、健の視界から消えて行った。



――なんで、だよ・・・
お前は、この村を守る為に来たんじゃねぇのか・・・?
あのデカブツみたいに、村を壊す為に来たってのか・・・?
お前なら・・・人間に育てられたお前ならきっと助けてくれるって、信じてた俺が馬鹿だったのかよ・・・!





その頃、瓦礫の下から声を聞いたみどりは瓦礫を必死に掻き分けていた。
純白の手が黒くなろうとも、みどりは声を掛けながら中にいるであろう誰かを助け出す為に瓦礫を除け続ける。



「待っていて下さい!必ず助けます!」



そうしている内、瓦礫の中からジュースなどの商品を置く棚が見えた。
それと同時にさっきから聞こえる声もより強く聞こえて来る。



「・・・ません・・・!」
「頑張って下さい!あと少しの我慢です!」



みどりは棚の見えている側が後ろ側である事から棚の位置を見抜き、そこから横側に回り込むとまた瓦礫を除け始めた。
するとまた違う棚が見え、その棚は先程の棚の下敷きになっている事に気付いた。



――・・・この下に、きっと人がいる!



棚と棚の下に人がいる事を確信し、更に瓦礫除けを早めるみどり。
そして瓦礫の中から差しのべられた手を、みどりは素早く掴んだ。



「もう、大丈夫ですよ!」






「あっ、ありがとうございます。本当に助かりました・・・」



みどりが助け出したのは観光客と思われる、長い黒髪をした高校生程の少女だった。
首から十字架に似たペンダントを掛けているこの観光客は、何かを気にしている様子だ。



「いいえ、あんな地震の中無事でよかったわ。」
「地震の時、倒れて来た棚が私と・・・あの子を守ってくれました。」
「あの子?」
「はい。私と一緒にいた小学生くらいの女の子なんですが、今も瓦礫の中に・・・」
「・・・まさか!」



観光客の言葉を聞くや否や、みどりは急いで瓦礫の中を覗き込んだ。
中には棚から落ちた沢山のジュースとパンなどの商品があり、その奥には確かに小学生と思われる女の子・・・いや、みどりが探していた女の子がそこにいた。



「み、美歌ちゃん!」





一方、健は今だコンクリートの道に倒れたままだった。
ゴジラへの絶望もあったが、そもそもコンクリートに強く叩き付けられた健の体はもはや自力で動かす事は困難であり、更にゴジラが起こした二次災害による炎が徐々に健へ迫っていた。
スーパーX3も動かせない今、直ちに火災を止められる術は無い。



「くそっ、炎が迫って来やがる・・・!」



炎から逃れる為、みどりの所に帰って美歌を助ける為にこの場から離れようとする健だが、体は意思に反して思った通りに動いてくれない。



「ぐっ・・・!動けよ、俺の体・・・!」



何とか踏ん張って健はようやくうつ伏せの体勢になれたものの、それだけで健の息は堪えだえになる。
しかしそれでも健は必死に這って動き、みどりの元に戻ろうとする。



「こんな所で・・・くたばってられねぇんだ・・・!まだ・・・美歌を助けねぇと・・・!」



少しずつ、僅かながらも健は進んで行くが、無情にも炎は健へと魔の手を伸ばし、二酸化炭素と煙は健の体力を奪う。
それでも、健が動きを止める事は無かった。



「まだ・・・俺は・・・」






「・・・にきー!」
「・・・!」



と、その時健の耳に聞こえて来た声は遠のきかけていた健の意識を呼び戻した。
声のする方向に目を向けると、そこには何かに乗って空を飛びながら手を振る健の一番弟子、翼の姿があった。



「あーにーきー!」
「つ・・・ばさ・・・」



ゆっくりと健の左横に着地した翼はその翼竜を思わせる型をした薄緑色の乗り物から降り、健の手を取る。



「兄貴、助けに来たっすよ。」
「何で・・・こんなとこに・・・」
「地震の後、急いで兄貴の家に行ったんっすけど留守だったのが気になって・・・」
「すまねぇな・・・こんなだせぇ姿見せちまって・・・」
「そんな事、無いっすよっと・・・」



翼は健の右手を自分の肩に乗せ、健の体を乗り物に運ぼうとした。
だが、どちらかと言えば非力である翼の力では健を引き摺って運ぶのが精一杯であり、健の足はコンクリートに擦れて赤く腫れる。



「っ・・・!」
「あっ、兄貴の足が!申し訳無いっす・・・おれっちが兄貴みたいに力が無いから・・・」
「気にすんなって。今のお前、一番頼もしく見えるぜ。」
「そ、そんな事言って貰って・・・サンキューっす。」



どうにか健を乗り物の後部席に乗せた翼は前の席に乗ると足元に付いた操縦捍を操作し、乗り物を空に浮かせる。



「うおっ、浮いた!」
「しっかり掴まってて下さいっすよ!」



慣れた手付きで操縦捍を操作し、翼は健の目的地であるみどりの元へ機体を進ませる。
決して早くは無いが機体のバランスが非常に安定しており、健はまるで観覧車に乗っているかの様な快適さを感じていた。



「それで翼、この翼竜みたいなやつは何なんだ?お前の家でこんなの見なかったけどよ・・・」
「えっと、これは昔親父が趣味で作った翼竜型の乗り物で、おれっちも子供の時によく乗せて貰ってたっす。兄貴が知らないのは兄貴と知り合った頃にはもう乗る人がいないからって、奥の倉庫に仕舞ってたからっすね。」
「へぇ・・・結構年季入ってんだな。」
「そうっすね・・・あっ、そういえば兄貴、おれっちの耳に間違いが無いならさっきまで村にいたのって・・・?」
「・・・ああ。13年振りのゴジラだ。」
「・・・やっぱり、来てたんっすね・・・」


――・・・あいつ、何の為に・・・



柔らかく吹く風を感じながら、健の心は揺れていた。
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