受け継がれし「G」の名







同刻、果てしなく広がる平原の上空を弥彦村へ向かって飛ぶ一つの機影があった。
緑色の機体は一見戦闘機に似た型をしているが、どちらかと言えば両翼の付いた小型要塞と言った感じであり、機体には「SX‐Ⅲ」と書かれている。
そう、この機体は通称「ヤングエリート」と称される防衛省・自衛隊特殊機関組織「特殊戦略室」が運用し、96年の対デストロイア戦にてデストロイアの撃破に成功した多目的大型戦闘機・スーパーXⅢである。



「現在マッハ1で順調に飛行中。あと3分で目的地に到着します。」
「そうか、報告ご苦労。」



機内コクピットには2人の操縦員がおり、左側のメインコクピットに座っているのは40過ぎの男だった。
彼の名前は黒木翔。特殊戦略室の室長であり、96年のゴジラ対策以前の90年にも対ゴジラ作戦の指揮を執った事がある自衛隊屈指の実力者だ。



「しかし、室長は20年に渡って特自の室長を務めていますよね。」
「どうも後継になる器を持った者が見つからない・・・と言うのは表向きで、本当は私が勝手に特自にいたいだけなんだがな。『ヤングエリート』と呼ばれていたのが懐かしい。」
「そういえば室長、怪獣が現れたのって・・・」
「・・・4年振りだ。」



するとコクピットのメインディスプレイに弥彦村が写し出された。
村の中央では火災による煙が発生しており、そこを巨大な生物が歩いている。



「あれですね・・・」
「まずは怪獣の進行を食い止めるのが最優先だ。冷凍ミサイルの発射準備及び、機体の加速。」
「ラジャー。」



スーパーXⅢはスピードを上げ、村の中心地へと向かって行った。






「美歌!美歌!」



その頃、健は倒壊したコンビニの前で必死に呼びかけながら瓦礫を取り除いていた。
その後ろからようやくみどりが追い付き、健の横に並ぶ。



「ふう、やっと追い付いた・・・」
「みどり、お前逃げてろって・・・」
「・・・仮にもあたしはあんたと美歌ちゃんの保護者なんだから、1人で逃げ出すわけにはいかないでしょ。」
「・・・ったく。」



健とみどりは地道に瓦礫を取り除いて行くが、その間にもマジロスは2人に近付いて来る。



「健、怪獣が!」
「ちくしょう、その穴ん中戻りやがれ!」



健は迫るマジロスを退けさせるかの様に大きめの瓦礫を掴み、マジロスに向かって投げる。
瓦礫は見事マジロスの顔に当たるもマジロスは全く動じず、黒い瞳を朱に光らせグリッド・バイラを発射しようとする。



「たっ、健!」
「ぐっ・・・!」



と、その時空から突如飛んで来たミサイルがマジロスの背中に直撃した。
通常ならミサイルが被弾した所は爆発するが、このミサイルは何故か爆発を起こさず、マジロスの背中は若干凍り付いていた。



グヴァウウウ・・・



ミサイルに気を取られたマジロスは光弾を発射せず、ミサイルが飛んで来た背後に向きを変える。
そこにいたのは、スーパーXⅢだった。



「はぁ・・・あたし達、助かったのね・・・」
「ああ・・・んっ?」
「どうしたの?」
「あれ、なんかどっかで見た事が・・・」
「あの戦闘機を?あたし達が知ってる戦闘機とは全然違うけど・・・」
「・・・あっ!思い出した!スーパーXⅢだ!」
「ス、スーパーX?」
「学校の宿題でゴジラについて調べてた時に書いてあったんだよ。かつて唯一怪獣を撃破した、自衛隊の兵器だ!」





間一髪でマジロスを止めたスーパーXⅢのコクピットでは、操縦員が健達を発見していた。



「室長、怪獣の近くに逃げ遅れた人がいます。」
「そうか・・・ならば超低温レーザーを最低出力で発射。怪獣をこちらに誘導する。」
「ラジャー。」



黒木の指示を受けた搭乗員はコクピットの白いレバーを一番下まで下げ、また別の搭乗員は手元のレバーに付いた青いボタンを押す。
するとスーパーXⅢの先端部が左右に開き、そこからパラボラアンテナ状のレーザー発射口が出てきた。



「超低温レーザー発射。」



黒木の言葉と共に、発射口の中央から擦れた様な音を立てて稲妻状の青い光線が発射された。
光線はマジロスの右前足に当たり、そのまま放射状に氷で覆っていく。
この光線の脅威に気付いたマジロスは右前足を大きく振って光線を払うが、スーパーXⅢはすぐに隙が出来た首元を光線で攻撃する。
本来この超低温レーザーは-200℃まで瞬間冷凍出来るが、あえて最低出力で照射しているのはマジロスの近くにいる健達に冷気の影響が出ないよう考慮した、黒木の冷静な判断である。



グヴァアアアアアアアウウウン・・・



しかしマジロスが黙って光線を受け続けてくれるわけは無く、すぐに光線を振り払うとその場にうずくまり、体を小刻みに振動させ始めた。
すると全身に生えた体毛が呼応して動めいたかと思うと、瞬時に硬質化して鋭い棘の様になった。
それと同時に凍っていた足の氷が溶け、背中と首元の氷も砕けてしまう。
そう、これはマジロスの全身に流れる血液を特殊な構造をした体毛に流し込む事による硬質化、及びその時の発熱現象を利用したマジロスの解凍戦術だった。



「怪獣は全身の毛を逆立て、冷却部を解凍しています。」
「今の目的は怪獣の誘導、特別支障は無い。今の状態をキープしながらレーザーの照射を続行。」
「ラジャー。」



スーパーXⅢはマジロスの解凍にも動じずに低温レーザーをマジロスへ発射するが、著しく体温が上昇しているマジロスは左前足で軽くレーザーを受け止めると目を光らせ、グリッド・バイラをスーパーXⅢへ発射する。
スーパーXⅢは瞬時に方向転換して光弾を回避するが、再び発射された光弾の第二波は避ける事は出来ず、数発機体に受けてしまった。



「くっ・・・」



機体バランスを少し失いながらも、スーパーXⅢはマジロスを誘導する為郊外へ向かって行った。
マジロスもまたスーパーX3を追い、健達から離れて行く。



「健、怪獣が離れていくわ・・・」
「とりあえずは一安心だな。よし、今の内に早く美歌を助けるぞ。」
「うん。しっかし寒いわね・・・へっくしゅ!」





一方、スーパーXⅢは旋回を繰り返しながらマジロスの注意を引いていた。
地上から飛んで来るマジロスの光弾を回避しつつ、超低温レーザーをマジロスへ照射していく。



「怪獣、順調にこちらへ向かっています。」
「よし、超低温レーザーを発射しながら郊外まで誘導。」
「ラジャー。」



と、空中から飛んで来る低温の光線を右前足の棘で止めたマジロスはそのままグリッド・バイラを発射し、スーパーXⅢに一発命中させる。
しかし、高い強度を誇る人工ダイヤモンドでコーティングされたスーパーXⅢにとって決定打にはならず、スーパーXⅢはレーザーの照射を続けながら旋回して常にマジロスの視線に入り続ける。



「もうそろそろ大丈夫だな。冷凍ミサイル発射用意。」



スーパーXⅢの両翼部にある発射口が開き、ミサイルが装填された。
先程一発だけマジロスに発射した、冷凍ミサイルだ。
あの時は健達がいた都合で一発しか発射しなかったが、もう既にマジロスは健達からだいぶ離れている。



「冷凍ミサイル、発射。」



その言葉と共に、発射口から無数のミサイルがマジロスへ向けて発射された。
ミサイルは一つも狙いを外す事無く正確にマジロスに直撃し、氷結されたマジロスの全身は冷気の塊によって拘束される。



「よし、仕上げだ。超低温レーザー最大出力。」
「ラジャー。」



隊員はレバーを最大まで引き上げ、超低温レーザー発射ボタンを押す。
スーパーXⅢの先端から再び発射口が現れ、今度は太く青いレーザーが発射された。
レーザーは動きが取れないマジロスの全身を捉えながら更なる氷結を促進し、マジロスは完全にその動きを止めた。



「・・・怪獣、動かなくなりました。」
「これで一安心、と言った所か。あとは増援の陸上部隊に任せよう。私達はこれから逃げ遅れた住民の避難に移る。」
「ラジャー。」
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