受け継がれし「G」の名







翌日、健は学校が休みと言う事でみどりと美歌の買い物に付き合わされ、村の中心地に来ていた。
この辺りはコンビニやお土産屋が多く集まっており、村で一番賑わいのある所である。



「たけにぃ、早く~!」
「分かった分かった!そう急かすなって!」



美歌とみどりの後ろをゆっくり歩いていた健は美歌に急かされ、小走りして2人の隣に並ぶ。
今日は寝て過ごす予定だった健にとってこの付き添いはさほど乗る気では無く、それ以上にみどりと出掛けると言う事が健は嫌であった。



「健、そんな顔されたら折角の買い物も楽しくないじゃないの。」
「誰のせいだよ・・・」
「たけにぃ、やっぱり楽しくない・・・?」
「いっ、いや、そんな事ねぇぞ。お兄ちゃんはちょっと眠いだけだ。」
「ほんと、健ってあたしと美歌ちゃんとじゃ態度が全然違うわよね。何か不平等な感じ~。」
「へっ、日頃の態度じゃねぇのかよ。」
「たけにぃもみどねぇも喧嘩ばっかりしちゃ駄目よ。それとも昨日テレビで言ってた『けんかするほどなかがいい』?」
「「違う!」」



美歌のその一言に同時に突っ込む健とみどり。
しかし、その光景は美歌にとって余計に自分の意見を証明する物だった。



――やっぱり、たけにぃとみどねぇって喧嘩する程仲がいいのね。
ことわざって凄いね~。



「ったく・・・あっ、そういやみどりはしばらく俺ん家にいるみたいだけどよ、学校は大丈夫なのか?」
「大丈夫よ。学校には父方の親戚が入院したって言ってるし。」
「おいおい・・・」





そうしてしばらく会話を交わしながら歩いていると、曲がり角にコンビニが見えて来た。
コンビニの横に置いてある旗には「スイーツキャンペーン」と称した商品の割引きに関する事が書かれており、それはすぐに美歌の視線を釘付けにした。



「あっ、スイーツキャンペーンやってる!たけにぃ、みどねぇ、入ろ!」



ついついスイーツの文字に惹かれた美歌は健とみどりを置いて1人、コンビニの中へと走り去ってしまった。



「スイーツか・・・健、あたし達も行きましょ。」
「ほんと女ってこう言うの好きだよな・・・おい美歌、ちょっと待・・・」



と、その時地面が突如として揺れ、それに足元を掬われたみどりは体のバランスを崩してしまう。



「あっ・・・」



更にみどりはそのまま転倒しそうになってしまうが、間一髪の所で健がみどりの手を取り、転倒は免れた。



「・・・!」
「ふう、あんまり油断してんじゃねぇよ。」
「あ、ありがと・・・」



健に手を引っ張られながらみどりは再び立ち上がるが、やはり足元は若干おぼつか無い感じであり、つい健の肩に両手を添えた。



「ちょっと・・・肩貸して。」
「お・・・おう。」


――ったく、いきなり掴まんなよな・・・
・・・びっくりするじゃねぇか。



健の周りでは人々が必死に振動に耐えていたが、その表情はどれもとても怯えた顔付きだった。
しかしながらそれも過去に「中越地震」と言う悪夢を経験している新潟の人々にとっては当然の事であり、未だに中越地震が人々の心から消えていない事の証でもあった。



「みんな・・・やっぱり怖いのかな・・・」
「そりゃあな。あんな悲惨な事件を忘れる事なんて出来ねぇよ。」
「そう、だよね・・・」
「それより、コンビニにいる美歌が心配だ。早く助けに行かねぇと・・・」



健はみどりを庇いつつも美歌が入ったコンビニへ行こうとしたが、そこへ聞こえて来た「何か」は健や人々を戦慄させる物だった。



・・・ヴァウウン・・・



それは今なお揺れる地面の下から響く、巨大な獣の叫び声。
その直後に少し向こうの方角からコンクリートで覆われた道路が割れて行く音が聞こえ、人々の恐怖は掻き立てられる。
そしてその刹那、大きな何かが地面から現れた凄まじい轟音が辺りにこだました。



「な、何・・・!」
「分かんねぇ・・・でもデカいのが来たのは確かだぜ・・・!」



グヴァアアアアアアアウウウン・・・



「それ」が現れた周囲一帯には土煙が立ち昇り、幾つもの亀裂が地面に走っていた。
大振動に巻き込まれた建物は崩れ去り、中にいた人々は無惨にも建物の下敷きとなった。
やがて土煙が晴れ、煙の中で動めいていた「それ」は人々の前に姿を現した。



「あ、あれは・・・」



土が染み込んだ様な茶色の身体、黄色い背中と前足・首元に生える無数の白く太い体毛。
小さめの頭部の上にも体毛は生えており、四つん這いの体勢で動く姿はアルマジロを思わせる。
そう、この怪獣はかつて古代の時代に生息していたアルマジロ「マジラルロス」の生き残りが突然変異を起こした古代アルマジロ変異獣・マジロスであった。



「か、怪獣だぁーっ!」
「にっ、に・・・逃げろぉぉぉぉぉ!!」
「うわぁぁぁぁっ!」



異形の生物を目の当たりにした人々は悲鳴にも近い叫びを上げ、無我夢中でその場を逃げ出す。
だが、そんな人々の叫び声に気付いたマジロスはその体の向きを変えて叫びが聞こえた方向・・・そう、健達がいる方向へと歩き始めた。



「た、健!あいつこっちに来るわよ!早く逃げないと!」
「・・・みどりは先に逃げてろ。」
「えっ?」
「俺は逃げるわけにはいかねぇ。まだ美歌を助けてねぇからな!」



そう言うと健はみどりの手をゆっくりと払い、マジロスが迫って来るのもお構い無しに美歌が入ったコンビニへと走って行った。



「ちょっと健!あたし達だって危険な事は変わりないって・・・もう、健の馬鹿!」



みどりもまた足を庇いながら渋々健を追うも、走る事においては誰にも負けない健はあっという間にみどりと何倍もの距離を取っていく。



「美歌!待ってろ!俺が絶対助け・・・」



グヴァアアアアアアアウウウン・・・



と、その時マジロスは目から速射性のある朱色の光弾「グリッド・バイラ」を撃った。
発射された複数の光弾は地面に直撃して大きな穴を作り、それは健とみどりにも襲いかかる。



「うおっ・・・!」
「きゃあっ!」



迫る光弾に健は瞬時に飛び上がって回避し、みどりもその場に立ち止まって何とか光弾の直撃は防いだ。
だが、そんな2人の目に飛び込んで来たのは光弾が壁に命中し、脆くも崩れ去ってしまうコンビニであった。



「あっ・・・!」
「みっ・・・美歌!!」
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