受け継がれし「G」の名
「ど・・・どうした?」
「あっ、別に何でも無いっす。それよりゴジラの事ならおれっちの両親に話を聞いた方がいいっすよ。さっ、早く早く。」
「お、おう。」
翼に手を引かれるまま、健は青木家に入った。
青木家の玄関は至る所に翼竜の模型が靴箱の上や廊下に吊るされているなどの形で置かれており、廊下の先の空いている扉からは翼竜がプリントされたポスターが見える。
「親父~!お袋~!健の兄貴上げるっすよ~!」
「お邪魔しまーす。」
2人が靴を脱いでいると半空きだった扉が開き、そこから四十路過ぎの男が現れた。
彼こそが翼の父親、一馬である。
「いらっしゃい、健君。今日も翼とゲームしに来たのかな?」
「いや、ちょっと別の用で・・・」
「別の用?」
「それはおれっちが話すっす。お袋にも関わる話だから、台所へ行っていいっすか?」
「別にいいけど、あっちゃんなら今手が離せない状態だよ?」
「とりあえず、話を聞いてくれればいいんっす。」
そう言うと翼は健を連れて台所へ移動した。
台所には先程扉から見えていたポスターが壁一面に貼られており、その横のシンクに向かって洗い物をしている女性が翼の母親の梓だ。
「あら健君、いらっしゃい。ごめんね、忙しくしてて。」
「いえ、大丈夫です。」
「あっちゃん、なんか健君が俺達に話があるらしいよ。」
「もう一馬さん、健君の前なんだからその呼び方はやめてちょうだい。それで健君、話って?」
「・・・ゴジラについて教えて下さい。」
健が投げ掛けたその質問に梓は手を止め、一馬も驚きの表情を見せる。
「親父、お袋、この事を兄貴に教えたのはおれっちっす。昨日兄貴がゴジラについての作文を出されたって聞いたんで、つい・・・」
「・・・そっか。まぁ、別に秘密にしたいわけでもなかったし、大丈夫だよね?あっちゃん。」
「そうね。むしろ健君が普通なら信じられない事を信じてくれた事の方が驚き。」
「えっ、怒らない・・・んっすか?」
「何言ってるんだ。翼にしか話していないってだけで、家族だけの秘密ってわけじゃないさ。」
「だから翼、別に気にしないでちょうだい。」
「・・・よ、よかったっす・・・」
「じゃあ、ゴジラの事を俺に・・・?」
「もちろん教えてあげるよ。健君のお役に立てるか分からないけどね。」
「・・・すみません。」
「とりあえず、まずは座りましょうか。話はそれからよ。」
それから4人は椅子に座り、健は一馬と梓の話を聞き始めた。
「いやぁ、この話をするのも久々だなぁ・・・」
「いつ思い出しても懐かしい・・・一体、どれだけ昔の話なのかしらね・・・」
一馬と梓は十数年前の出来事を思い出し、それを健に伝える。
一馬はG対策センターで対ゴジラ兵器・ガルーダを開発し、それが戦闘力不足でメカゴジラに取って代わられてもガルーダのメンテナンスを欠かす事が無かった事。
梓はアドノア島で恐竜の卵を見つけ、それを聞いた一馬が研究所に押し掛けて来たのが2人が出会ったきっかけである事。
卵から生まれた恐竜の子供に「ベビー」と名付け、G対策センターの地下で育てていた事。
ゴジラを誘い出す為にベビーが離島に運ばれる時も梓はベビーと共に着いて行き、ベビーを兄弟と思う怪獣・ラドンに拐われてしまった事。
メカゴジラと合体する形でガルーダが活用されたのにも関わらず、最後は梓を助けに一馬はガルーダを降りた事。
そしてベビーの為、涙を呑んでベビーをゴジラの元へ行かせた事・・・
「・・・とまぁ、こんな事があったんだ。」
「それから私と一馬さんは結婚して、その2年後に翼が生まれたの。」
「いや~、いつ聞いても感動物っす!」
「・・・」
この話が何度も家族団欒の場に出されているであろう3人は至って普通に感想を語り合っているが、健はそのあまりに凄まじい内容にただ呆然とするしかなかった。
「んっ、どうした健君?」
「具合でも悪いの?」
「い、いや・・・」
「やっぱり、信じられないっすか?」
「いや、そう言うわけじゃねぇけど・・・何と言うか、スケールが凄過ぎて・・・」
「まぁ翼も最初はそんな反応だったし、別に無理ないさ。」
「まるで映画の様な話ですものね。けれど、これは一応ノンフィクションよ。」
「兄貴、参考になったっすか?」
「あ、ああ。これで作文なんてすらすら書けそうだぜ。」
「それはよかったっす!これで兄貴もフォレストファンタジーに熱中出来るっすね!」
「そ、そうだな。じゃあ俺はここらで。」
「あら、そう?もう少しゆっくりしていってもいいのよ。」
「本当なら翼にちょっと用があっただけなんで。お話、ありがとうございました。」
「いやいや、こちらこそこんなありえない話を真面目に聞いてくれて何よりさ。また聞きたいならいつでもおいで。」
「はい。それじゃあ失礼しました・・・」
「また来るっすよ~!」