受け継がれし「G」の名







翌日、弥彦村の図書館では学校の休みを利用した健がパソコンを使い、ゴジラについて調べていた。
弥彦村では村を挙げて約50箇所の施設にパソコンが設置されており、至る施設でパソコンを無料で使えるのだ。
健はどちらかと言えばこういった類は苦手であるが、困っていた所を職員の女性に助けられ、こうして普通に操作出来ている。



「1994年、ゴジラは自分の同族である恐竜・ゴジラザウルスの卵を求めてベーリング海にあるアドノア島に上陸。その頃Gフォースはメカキングギドラのテクノロジーを利用し・・・翼が言ってたのはこれか・・・」
「桐城さん、調子は如何ですか?」



と、そこに前述の職員が健の元に来た。
実は彼女、丁寧な説明と端正な美貌からこの図書館の隠れた人気者であり、その証拠に今まで黙って本を見ていた人々が一斉に彼女の方を向く。



「はい、まぁ何とか。」
「学校の課題ですか?」
「一応。ほんとは凄く面倒臭いんですけど、ちょっと事情があってこれだけは絶対にやるって決めてるんです。」
「そうですか・・・私の弟が見たら、どう思うんでしょうね。」
「弟?」
「はい。何でも一度桐城さんに助けて貰った事があるらしくて、それ以来ずっと桐城さんに憧れてますよ。」
「・・・とりあえず、俺に憧れるなら50m走を6秒で走れてからって言っといて下さい。じゃあそろそろ用事があるんで帰ります。手伝ってくれてサンキューでした。」
「分かりました、そうお伝えしておきますね。ご利用、ありがとうございました。」






同刻、桐城家の前に訪問者が来ていた。
成人過ぎと思われる、茶色いツインテールの女性だ。
女性は誰かいるか確かめる様に家を見ていたが、やがてドア横のチャイムを鳴らした。



「御免下さーい!」






「さて、と・・・!」



自分の家に訪問者が来た事なんて露知らず、図書館を出た健は一伸びして縮みっぱなしだった体の筋肉を伸ばす。
そうして筋肉の調子を戻した健は突如図書館の前でクラウチングスタートの体勢を取ったかと思うと、そのまま真っ直ぐ走り去って行った。



「目指すは・・・あそこだ!」



まるでレースゲームでプロのプレイヤーが簡単に先頭のマシンを抜かして行くかの如く、人をかわしながら走り続ける健は学校の帰りに通る十字路を左に曲がり、住宅地の一軒家の前で急停止した。
翼竜の形をした表札には「青木」と書かれており、健は呼吸を整えてから表札の下にあるこれまた翼竜の頭部に似た形のチャイムを鳴らす。
そう、ここは翼の家だ。



「はい・・・って、あっ・・・兄貴!?」



玄関から出てきた翼はその予想外の訪問者にすっかり面喰らった様子だったが、それでも健は門を開いて翼に近付くと、両手で翼の肩を持った。



「えっ!?あっ、あに・・・」
「・・・翼、本当にすまねぇ!」
「へっ・・・?」
「昨日の帰り、俺に怒ってたんだろ?お前にとって特別なゴジラを馬鹿にされて、作文まで押し付けられて・・・俺は自分の事ばっかで、お前の気持ちなんかこれっぽっちも考えてなかった・・・これじゃあ、兄貴失格だ・・・!」
「・・・」
「もう作文はお前に押し付けねぇ。俺がちゃんと書く。だから、こんな俺を許してくれ・・・!」
「・・・いきなり来たからびっくりしたっすけど、そんな事っすか。」
「えっ・・・?」
「おれっちは別に兄貴に失望なんてしてないっすよ。確かに嫌じゃなかったかって言われると嘘になるっすけど、おれっちだって勝手な理由で困ってる兄貴を見捨てたっす。それにもうおれっちは怒ってなんてないっすから、兄貴も気にしないで下さいっす。」



肩に添えられた健の手をそっと持ち、翼は笑顔でそう答えた。
健の方はと言うと体を震わせながら頭を下げ、今にも泣かん勢いだ。



「ほんと・・・いつでもお前は言ってくれるぜ・・・」
「おれっちこそ、兄貴を見捨てて本当に申し訳無いっす。もうおれっち、何があっても兄貴の味方っすよ。」



――そうっす。
あの日、兄貴に助けて貰った時からおれっちはずっと・・・






翼は数年前、両親と共に都会からこの村に引っ越して来た。
父・一馬がのどかな自然が広がる所で研究がしたいと言う理由からここに越して来たのだが、翼自身もこういった環境で暮らしたいと内心思っていた所であり、この生活も順調に行くと翼は信じていた。
だが、その頃村では観光客ばかりを狙った連続恐喝事件が発生しており、不幸にもその魔の手は翼にも伸びた。



『おい坊っちゃん、お金持ってんだろ?俺達に貸してくれよ。』
『最近小遣い少なくて、やりてぇゲームも買えないんだよ~。』
『う・・・うっ・・・』
『頼むよ~、一万ちょっと貸してくれればいいからさぁ~。』
『なっ、貸してくれるよなぁ?』
『う、ううっ・・・』


――親父・・・!お袋・・・!
誰か、助けて・・・!


『おい、子供1人に大人5人がたかってんじゃねぇよ。』
『あん?誰だてめぇ?』
『俺は最近ここらで有名な喧嘩好きだ。お前ら見てたら何かむしゃくしゃしてきた、相手しろ。』
『中坊如きが調子乗りやがって・・・おい、やっちまうぞ!』
『俺達に喧嘩売った事、後悔しやがれ!』









『おらぁ!これで、終わりだぁ!!』
『ごふっ・・・!!』
『す・・・すごい・・・!』
『ぐっ・・・う・・・』
『お・・・おっ・・・』
『ったく、いい大人が情けねぇ事すんじゃねぇよ・・・おい、大丈夫か?』
『はっ、はい・・・』
『この公園は夜になるとたまにこういう奴らが溜まってる。今度からは気をつけろ。』
『わっ、分かりました・・・』
『この事はあんまり言いふらすんじゃねぇぞ。じゃあな。』
『あっ・・・まっ、待って下さい!せめて、名前だけでも・・・』
『俺か?俺は無敵の喧嘩中学生、桐城健だ。』






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