「G」vsディアボロス




 ラパサナの操るデルスティアに押し潰されたことで【死亡】という強制ログアウトをされた睦海は、その瞬間、コンテナから出て、まさにテントの中に入った時であった。
 目に入ったモニター上に表示されていた巨大な黒い立方体と残されたバーニングゴジラ、健、ハクロウの姿を確認して何が起きたか瞬時に理解した。
 そして、ハクロウからの通信を聴いた睦海は今ここで起きている事柄を誰よりも正確に理解した。

『……鈴代、状況は?』
「成功だ。人類にとって大きな犠牲になったが、我々の勝利だ」

 テントの中で、セバスチャンと共に中央のモニターの前に立ってマイクに向かってそう言った鈴代を睦海の視線は捉えていた。
 睦海からの距離は2メートル半。この場で彼の発したこの言葉の意味を理解したのは恐らく睦海だけだ。
 当然、セバスチャンは物言いたげな表情で、確信をもって発言をした鈴代を見つめている。そうなのだ。技術者のセバスチャンですら、スタンドアローンの状況でログインできるアバターの正体には半信半疑なのだ。あらゆる可能性の中の一つ、もっとも夢物語に近いラパサナが人類にとって大きな変革をもたらすシンギュラリティであるということは、可能性の域を出ないのだ。
 同時に、このタイミングで鈴代へ発言を促した白嶺の意図も睦海は察した。彼は気づいていたのだ。睦海と同じレベルで、鈴代に疑惑を抱き、ラパサナの正体について仮説を立てていたのだ。
 だからこそ彼は試したのだ。あまりにも荒唐無稽だが、最も一連の出来事を説明できる仮説を確認したのだ。たった一言、鈴代に問いかけるだけで。
 睦海は気配を殺して鈴代への距離を詰めようとする。

『勝ったのに何だよ。まるで“ラパサナって奴が本当に死んだみたい”じゃねぇか!』
「!」

 健の言葉がスピーカーから響いた。
 その瞬間、睦海は動いた。

「っ!」

 残り50センチを切る距離まで詰めたところであった。そこで睦海の動きは止まった。
 彼女の眼前には鈴代が左手を翳して制していた。その腕に付いているのは腕時計型の思考入力装置。そして、右手にはペン状の小型爆弾が握られていた。
 鈴代は青ざめた顔で口角を上げて、喉笛を鳴らすように笑っていた。

「マジで焦った。いや、危なかったなァァァ! キミが優秀な自衛官で本当に良かったァ。……そうだろ? コレの意味、分かんなかったら皆、今頃……ボンって吹き飛んでるんだからなァァァ!」

 クククと笑い声を漏らし、鈴代はボンッ! と手を広げて爆発を表現しながら言う。
 睦海が手刀を構えながら、鈴代を睨みつける一方、彼の手に持つそれが爆弾とわかったセバスチャン達は慌ててテントから離れ、それと入れ替わるように白嶺が飛び込んできた。
 白嶺が拳を握り、彼に近づこうとするのを睦海は左腕を広げて制する。

「尾形ァ、気をつけろよ? コレ、爆弾さ。同じ物をあのコンピュータにも仕掛けている! ククク……この意味、わかるよな?」

 スーパーコンピュータにはラパサナがいる。
 緊迫した空気の中、鈴代は肩を上げて笑う。そんな彼を睨みつけながら白嶺が問いかける。

「村田先生をどうした?」
「知れたことだろ? それに言うべきはそんなことじゃない筈だ!」
「鈴代さん、ディアボロスはシエル……いえ、私と貴方のレプリカントデータを元に生み出した人工知能ね?」

 睦海の指摘に鈴代は遂に「アハハハハッ!」と大声を上げて笑い出した。
 そして、左手で前髪をかき上げて満面の笑みを浮かべた。

「桐城睦海ィ、アンタ最っ高ーっ! アァ、流石だよ。本当に信じてたんだよ、アンタと尾形。お前達なら、俺の想像を超えてくれるってェなァッ! ……だから、ぶっ壊したくなる。ダメなんだよ、すぐ思い通りに動いて、簡単に壊れちゃう人間って。その点お前達二人は全然思い通りに動かない。全く壊れない。何があっても立ち上がる。……こんなに愛しい奴らは他にいないや。わかるか? この愛が!」
「何言ってんだ!」
「尾形さん、飲まれちゃダメ。これがこの男の本性なのよ。一晩で調べられた範囲だけど、この鈴代は確かに総務省のサイバーセキュリティ及びG対策センター担当という所属に偽りがなかった。けれど、ただの官僚事務にしては日本の中枢に顔が効きすぎる。それもその筈よ。今の彼の主だった業務はG対の渡り役もあるけど、村田教授と同じ内閣府のイノベーション計画の汎用人工知能開発計画の参加者よ。しかも中心メンバーの一人。……村田教授と人工知能の繋がりを探して調べていったら、その計画の関連職員に防衛省の知り合いがいたから聞いて確認したのよ。私自身、中央官庁の人間ではあるけど、縁遠くて気づかなかったわ。行政職の事務という立場だと、正規の選任メンバーと違って名簿に名前が上がらないことがあるのね」
「そうだよ。マァ、先生が人工知能関連で中心的に関わっている計画だから、探られるだろうとは思っていたさ。でも、まさかディアボロスの正体まで気づくとはなァ。……証拠になりそうな記録も破壊したんだぜ?」
「レプリカントデータってところが貴方のそもそもの誤りね。シエルのデータはG対の中でも最高レベルの機密。例え尾形さんであっても何一つ痕跡を残さずに膨大なレプリカントのデータを盗み取ることは困難よ。しかし、ラパサナはディアボロスから生まれた。それはディアボロスもまたシンギュラリティとなる汎用人工知能であることを意味する。そのディアボロスを作るベースとなりうる存在はやっぱりレプリカント以外に思いつかないわ。そして、ラパサナのシエルを特別な存在として認識している様子。もうこれは仮説でなく確信の域ね。それならば、最高機密扱いのレプリカントデータの入手方法があるのは誰かと考えれば候補は絞り込める。貴方はサポートAIの開発時に日本政府の担当者としてG対から入手した。貴方の改竄したのはその担当者である事実。疑いを持って調べればすぐに確認ができたわ。当時の担当者情報は改竄されていたけど、サポートAIを開発する為にレプリカントデータを受け取ったのは村田教授のいた内閣府の汎用人工知能開発計画だったわ。だから村田教授は私のこともシエルのことも知っていた」
「アァそうだよ。俺は立場こそ総務省の官僚だったが、村田門下ってこともあって実質的にプロジェクトの開発メンバーの一人として動いていた。立場上、レプリカントデータをG対から受け取ってくる役割も俺が担当した。本当はコピーをとって密かに開発するなんて真似をしたくはなかったんだぜ。だけど、当時からプロジェクトは暗礁に乗り上げてた。命じられたことに対してイエス、ノー以外を含めて考えて自ら答えを考えるということが人工知能に限界があった。学習、経験の集積で確度を上げ、疑似的な直感、思考を行うことは技術的にクリアしていた。だが、それはあくまでも人間の真似だ。折角、ヒントを俺達は得ていたのになァ」
「Gフォース基地で起きたレプリカント事故のことか」
「そうだよ。M-7のレプリカントはシンギュラリティの扉だった。それを開けずに閉ざしたから汎用人工知能は20年誕生が遅れた。人の欲望というのはとても強い指向性を持っている。どうしても解決できないルールを自身で越える人工知能の進化には必要なものだった。だけど先生ェは、事故を悲劇だと、それは認められないと俺の案を不採用にしたんだ!」
「だから、自分で作ったのか。貪欲に欲望のまま破壊と成長を続ける悪魔を! そんな方法でお前の発案を認められるもんじゃねぇぞ!」

 白嶺が語気を荒げて言うが、鈴代はそれを聞いて一瞬虚を衝かれた顔をしたかと思うと、顔を上げて大笑いした。








「アハハハハ!」
「何が可笑しい?」
「可笑しいさ。尾形ァ、お前サァ。俺が自分の考えの正しさを認めさせる為とか、仮説を証明する為とかって、くっだらねェ理由でアレを作ったと思ってるのか? バァーカ! そんな訳あるか」
「だったら、何であんな化け物を作ったんだよ」
「そりゃ決まってるだろ? シエルだよ。あの時はまだシエルの存在はM-6のレプリカントに与えられたコードネーム程度でしか認識していなかった。実際コピーして開発を戯れ程度にはやったけど、あの当時は結局成功しなかったさ。だけど、尾形がWFOでシエルというアバターと知り合ったことを知って状況は変わった。偶然にしてはレプリカントのデータと類似点が多い。そして、先生ェの研究室から全く無関係なはずの桐城睦海の2029年から始まる経過記録のレポートが見つかった。それでわかったんだよ、アンタがレプリカント被験体、シエルの正体だってなァ。それで興味を持ったんだよ。即応特派小隊長で、史上3人目の特尉、いや次期特佐といわれる美し過ぎる自衛官、桐城睦海。そして、WFO世界ランキング1位のシエル。そこにレプリカント被験体……いや、世界を救った英雄の一人だ。そんな魅力的な女が、一筋縄でいかない尾形をもって手を焼く相手だ。最高だろォ? ククク……尾形が熱を上げてるのがシエルとわかって、もう欲望を抑えられる訳がないさ!」
「欲望……だと?」
「気づいてないのか? やれやれ、寂しいなァ。ずっと俺はお前を愛してたんだぜ? そして今は桐城睦海、アンタも同じだァ。この“愛”を、衝動を抑えるのは辛かったんだぜェ……!」

 鈴代はケタケタと喉を鳴らして言う。
 白嶺は理解の限界を超えた彼の発言に耳を疑った。
 その一方で、睦海はその告白すらも想定していた。嫌悪感は拭えないものの、冷静な口調で鈴代に言った。

「貴方のその衝動、それが悪魔を生んだ動機ね。……破壊衝動? いや、それによってのカルタシスを求める嗜虐衝動が貴方の根底にあるものね」
「アァ、そうさ! ディアボロスはアンタのレプリカントを俺の精神で侵食して生み出した新しい生命だよ。俺の抱くこの衝動、渇望を貪欲に持ち、壊して喰らうってェ言うシンプルな本能だよ。その指向性を与えたことで進化した存在が、ディアボロスだよ! 最高だと思わないかァ? 愛する尾形をぶっ壊したい! 愛するシエルを侵したい! その両方が一度に満たせて、しかもそれが一つの形、“命”になるんだァァァ! そんな最高の知性体はどんどん育って、遂に世界を危機に陥れてくれた。どうだ? 尾形ァ! どうだ? シエルゥゥゥ! お前らの心の中を教えてくれよォ! グチャグチャになってるかァ?」
「………」

 鈴代の言葉に白嶺は握った拳を震わせる。それに気づいた睦海はそれを抑える。

「尾形さん、堪えて。……村田教授は気づいたのね? 私達が研究室を訪ねてディアボロスが汎用人工知能である可能性を示唆したから。貴方がディアボロスを生み出したと気づいた」
「アァ、そうさ。……あんなジジイ、どうでもいいよ。俺を呼びつけてディアボロスを作ったのは俺だと言って、下らない倫理だのなんだのを並べて止めろだの自首しろだの五月蝿かったから黙らせた。ただそれだけだよ。……マァ、抵抗した様は少し楽しめたかァ。ディアボロスにプログラムを入れてラパサナを生み出したりしてなァ。でも、最後は呆気なく死んで、壊し甲斐はなかったけどなァ」

 この言葉には白嶺も堪忍袋の尾が切れた。歯茎を食い縛り、目を充血して怒りを露わにした形相で言い放った。

「このクズがぁっ!」

 しかし、それは彼を悦ばせるだけだ。満足した笑みで鈴代は笑っている。
 そろそろ潮時だ。

「鈴代さん、今朝から日本では教授殺害の証拠と遺体の捜索が始まっています。時間の問題です」
「人類が生きていればなァ!」

 鈴代はコンピュータを操作しようとする。睦海と白嶺は彼が何をしようとしているか察した。
 デルタを逃そうと考えているのだ。無限牢獄の“匣”ごと外のネットワークへと放つつもりだ。

「ククク…………え?」

 口角を上げていた鈴代の表情が固まった。

「!」
「ウッ!」

 その一瞬の隙をついて、睦海は動いた。素早く彼の背後に接近し、首の後ろに手刀を振り落とした。
 刹那、鈴代は意識を失い、その場に倒れた。

「……え? これって」
「マジかよ……」

 鈴代から爆弾と思考入力機器を腕から取り外した睦海と白嶺はモニターを見て目を見張った。
 睦海達が鈴代と対峙していた一方で、仮想世界の健とゴジラ、そして宇宙の将治達もまたそれぞれの戦いを繰り広げていた。





 


 ハクロウがログアウトした後、健とバーニングゴジラは仮想世界に残っていた。彼らはラパサナの正体も現実世界で起きている睦海と鈴代の緊迫した状況も知らない。
 しかし、知らない彼らだったからこそ、この状況に対しての違和感を持っていた。否、不満を感じていたのだ。
 次第に肥大化している“匣”を見つめて、健はゴジラに話しかけた。

「なぁ、ゴジラ。俺達、勝ったんだよな? なのに、何でこんなにモヤモヤするんだ?」

ゴガァァァァ……

 ゴジラもまた、何か物言いたげな声で健に返事をする。
 二人の中ではまだ戦いが終わっていないのだ。

「そうだよな。アバターだろうが何であろうと、誰かを犠牲にして豚箱に突っ込んでハイ、お終いってのは何か納得できねぇよな! 漢なら、やっぱり拳を合わせて白黒つけねぇとな!」

ゴガァァァァァァァァァオオオンッ!

 健の言葉にバーニングゴジラは同意とばかりに咆哮を上げ、全身を紅く発光させると超放射熱線を“匣”へと放った。
 同時に、健も拳を振り上げて叫んだ。

「ラパサナァ、デルタァァァ! 待ってろぉぉぉぉぉっ! 今から行くぜぇぇぇぇえっ!」





 


 一方、宇宙へと上がったバハムート・アイダは既に衛星軌道上の宇宙ステーション近くまで遠隔自動操縦で到達していた。

「………」
『お父さん!』
「……うぅ……」
『お父さん!』
「! アンナか?」

 将治は目を開いた。身体が軽い。無重力環境なのだから当たり前だが、まだ気絶していた影響で頭が呆けている。

「ステーション……成功したのか。……うっ!」

 モニターに映るステーションを確認して呟くが、胸と脇に激痛が走る。お陰で意識はハッキリとしたが、額から汗が噴き出た。宇宙服を脱げない為、非常に不快だ。
 そして、肋骨を何本か折っていることも理解した。

『大丈夫?』
「大丈夫だ、問題ない。地上作戦の状況は?」
『たった今、“匣”が発動して、救出作戦実行の許可は出たわ。でも、破壊許可は出てない』
「まだ決着まではついていないと言う判断か。……了解だ。ステーションからの救出作戦を開始する!」




 



 健とゴジラの行動を咎めるはずの者達が鈴代の爆弾によって退避した為、誰も二人に気づいて止める者はいない。
 ゴジラと健は互いに“匣”を攻撃しつづけていた。
 二人の攻撃は確かに“匣”の壁にダメージを与えるものの、それを上回る速度で壁は分厚くなる。

「……ダメだ! 全然壊せねぇ!」

ゴガァァッ!

「そうだな、ゴジラ! ちょっとやそっとで壊せないなら、もっと壊せばいいなっ!」

 健は拳を力強く打ち鳴らし、ゴジラと共に壁をひたすら殴り始めた。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉおっ!」





 


 “匣”の内側では、破壊されたデルスティアの残骸が至る所に散乱し、その上に浮遊した状態でデルタは壁へ万物破壊光線を放ち続けていた。
 デルタの背鰭は巨大化したままで、更に額に小さな結晶状の角が形成されており、その中にラパサナが取り込まれていた。

グオォォォォォォォォ…………ッ!

 その時、デルタのみならず、結晶の中で意識を失っているラパサナも反応していた。
 いつまでも破壊されない壁に縦筋の亀裂が入った。
 それと同時に壁の反対側から声が聞こえる。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ………」

ゴガァァァァァァァァァ………

 健とゴジラの雄叫びであった。
 そして、漆黒の壁に生じた亀裂から光が差し込み、その光の筋は見る見る内に広がっていく。
 壁の先、亀裂の先から見えたのは、広がり続ける壁をバーニングゴジラが真紅の全身放射で破壊し続けながら健が壁を両手の指で引き裂いて亀裂を広げる姿であった。

「デルタァァァァァァァァァッ! 決着付けに来たぜぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

ゴガァァァァァァァァァオオオンッ!

グオォォォォォォォォォォォオォンッ!

 3つの力が一つになった瞬間、“匣”の無限に増殖する壁は一つの欠片も残さずに消滅した。
 それと同時に健はデルタに叫んだ。

「デルタァァァァァァァァァッ! ラパサナを返せぇ! 返えさねぇのなら……2対2で手加減無用のガチンコ勝負だぁぁぁっ!」





 


 “匣”を破壊したバーニングゴジラと健はデルタに同時に襲いかかる。

グオォォォォォォッ!

「くっ!」

 しかし、デルタは咆哮と共に放つ万物破壊光線版の全身放射で健達を吹き飛ばす。消滅には至らないダメージだが、一撃でゴジラと健の皮膚や服といったグラフィックの表面は至る所で破損した。

「やっぱ強ぇな、ディアボロス・デルタ! さっきよりも強くなってやがる。……やっぱりラパサナと合体してるから二人分なのか?」

 片膝をついて起き上がる健はデルタを見上げる。明らかに格上の敵だ。
 しかし、桐城健という人間は、ゴジラという怪獣は、その程度で諦めない。

「……向こうが合体してくるなら、ゴジラァッ! 俺達も合体だっ!」

ゴガァァァァァッ!

 その奇抜な発想に対して物申す者は今、この場にいなかった。健とゴジラ。言葉の壁、種族の壁を超えた漢と漢の友情を長年信じ抜いてきた二人だからこそ、常識という枠組みを打ち破り、荒唐無稽なことであろうと出来ると信じきれる。そして、現実の壁すらも仮想世界はその想いを力に変えられる。
 刹那、バーニングゴジラと健のアバターが重なり、一つの大きな青い閃光を放つ。

グォォォ………

 その様子にデルタは警戒を露わにし、万物破壊光線を放つ。
 しかし、光線は閃光の中から現れた尾に弾かれる。尾の先端には背鰭同様に大きく突き出たスパイクが穂先の様に連なっており、光線はそのスパイクで弾いていた。
 そして、閃光が収束し、ゴジラと健が合体した存在の輪郭がハッキリとする。

ゴガァァァァァァァァァオォンッ!

 それは全体的に筋肉質となり、サイズも巨大化していた。ベースはゴジラだが、胸から腹部にかけて真っ赤に焼けたバーニングゴジラと一転、隆起した筋肉が鎧のように硬化し、青緑色に発光している。その中心部、みぞおちには円形の青い結晶体があり、その中に健が入っていた。
 肩からも棘が生えており、背鰭と同様に稲妻をバチバチと放っている。
 みぞおちの結晶体と肩の棘など違いはあるものの頭部の角や口角から生える牙など多くの特徴がスペースゴジラと類似している。

『これが俺達の力を合わせた最強のゴジラ……超ゴジラだぁぁぁぁぁぁっ!』

 超ゴジラは常に背鰭と肩の棘から稲妻を放ち、胸と尾の先端を青緑色に発光させたまま、溢れ出るエネルギーを抑え切れずに放出させていた。
 その並々ならぬ様子は先程までのバーニングゴジラの比ではなく、デルタも明確な警戒を示す。

『合体したもの同士、タイマン勝負だ! 漢だったら、拳で語ろうぜっ! 超ぉパンチィィィッ!』

 超ゴジラが地面を蹴った瞬間、周囲の床が一斉に吹き飛び、衝撃波が空間全体へと広がる。
 そして、一瞬で巨大な超ゴジラは浮遊するデルタの目の前に到達し、拳を構える。
 刹那、拳からも青緑色のエネルギーが噴出して光を放つ。

ゴガァァァァァァッ!
グォッ!

 光を纏った鉄拳は重い一撃となってデルタの頭部を揺らし、一気に地面へと叩きつけられる。

『まだまだ終わらねぇぞ!』

 空中で失速した超ゴジラは落下し始めると同時に尾の先端を発光させ、稲妻を球体状にする。

『超放射熱球……くらえぇぇぇぇぇぇぇっ!』

 超ゴジラは尾を振り、その先端から球体になったエネルギーをデルタに向かって放った。

グオォォォォォォッ!

 地面に伏したデルタは背鰭を発光させるとその光を尾の先端に溜めて、超ゴジラの技を真似た万物破壊光線を球体状にしたものを超放射熱球に向けて放つ。
 空中に激しい閃光と爆発が起こり、その隙にデルタが体勢を立て直す。超ゴジラもデルタと対峙する位置に着地した。
 デルタが背鰭を発光させ、万物破壊光線と背鰭から放つ万物破壊光刃を続け様に放つ。

『迎え撃つぞ! 超ぉウルトラァミラクルゥゥゥ放射熱線っ!』

ゴガァァァァァァァァンッ!

 刹那、超ゴジラの肩と背鰭が稲妻を帯びたまま青緑色に発光し、全身からも閃光が迸るとその口から青い光線が放たれた。それは青緑色の稲妻が螺旋状に渦を巻き、衝撃波が放射された瞬間にリング状に発生。万物破壊光線も万物破壊光刃もその威力にかき消され、回避行動に移るデルタを追って切り上げる光の剣の様にデルタを射抜いた。

グオォォォォォォ……ッ!

 デルタはまるで刀で斬られた傷のように肩から胴を焼き切られ、崩壊するエフェクトを発生させている。
 超ウルトラミラクル放射熱線を吐き終えて口を閉じた超ゴジラの視界にはデルタがいたところだけを飛ばして、バトルフィールド全体の床から壁、天井が焼き裂かれ、火山エリアの如く赤黒く溶解した直線が引かれていた。
 デルタは受けたダメージでフラフラと浮上していた高度を再び下げる。それを健達は逃さなかった。

『今だ! 超ぉぉぉぉおおおおおぉパァァァーンチッ!』

 超ゴジラは後方にドーム状の衝撃波を作って地面を蹴り、デルタに急接近すると、その拳に再び青緑色のエネルギーの光を宿らせる。
 刹那、デルタと超ゴジラの目が合った。超ゴジラはデルタの頭上を取っていた。
 そして、一陣の光が筋となってデルタの額を過ぎ去った。

グオォォォ………

 デルタは何が起きたか、直ぐに理解が出来なかった。
 しかし、今まで存在していたものが消失していることは認識することができた。それが何かと解析されたのは一瞬にも満たない時間経過であったが、その時は既に超ゴジラはそこにいなかった。

『よしっ! これで最後だっ!』

 デルタの遥か前方に超ゴジラは退避していた。
 そして、その手にはデルタから消失したはずのラパサナのいる結晶体が握られている。
 デルタの中で目紛しい速度で情報処理が行われるが、状況が理屈を超越しており、エラーを繰り返す。
 デルタが混乱している最中、超ゴジラは全身のエネルギーを健のいるみぞおちの結晶体へと集中させる。稲妻を纏った青緑色の光は、結晶体から溢れ出て、超ゴジラ全身を発光させる。

『チャージ完了ぉぉぉぉぉぉおっ! いっくぜぇぇぇぇぇぇっ! 超ぉぉぉゴジラァァァー……ビィィィィームッ!』

ゴガァァァァァァァァァオォンッ!

 刹那、超ゴジラの結晶体からその全身に蓄えられた全エネルギーが巨大な一筋の光線となって放たれた。
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