「G」vsディアボロス




 時差の為、出発をした日本では朝であったがアドノア島はまもなく日没を迎えようとしていた。
 多少の雲は出ているが、その程度で通信が切れることはない。メーサー照射装置とほぼ同じ構造となっている光学通信送受信器はそのアンテナを動かし、肉眼では見えない水平線の遥か彼方に浮かぶ対怪獣軌道防衛宇宙ステーションを捉える。あとは再び水平線の下へと潜るまでの約1時間、アンテナは自動でステーションを追う。

『光学通信接続開始!』

 ゴジラに装着されたGGGに繋がれたケーブル、その先にある立方体状のスーパーコンピュータ、そしてそこから延びるケーブルが繋がる睦海達の端末があるコンテナ、それらが繋がったアンテナから一筋の光線となって宇宙ステーションに向かって放たれた。

『接続完了!』
『こちら青木。“匣”周囲とバトルフィールドの同期完了。周辺のアクセス遮断を開始。……宇宙ステーション側の通信器のコントロール開始』

 弥彦村の自身の仕事スペースで、VRゴーグルをかけ、周囲に仮想キーボードと実在の有線接続されたキーボード、メモを書き出した書類とモニターで取り囲んだ大翔の姿が各自に映像として映る。

『くっ! 不味い! デルタは“匣”の分解、消滅をしている。解析でなくデータの基礎部分のプログラムを破壊している。こんな破壊プログラムが流出したら、未曾有の被害が世界を襲う!』

 珍しく大翔は焦っていた。彼の予想はデルタが“匣”を解析して突破する展開であり、その予測をデルタが上回るということを想定していた。
 しかし、現実はより一層上をいっていた。“匣”の解析すら必要ない。根本的に仮想世界のデータであれば、万物を破壊する力を得れば、“匣”は最早障壁ですらない。
 一方、つくばのGフォース環太平洋地域司令部ではアドノア島、弥彦村の大翔の映像と共に太平洋上で待機する項羽とバハムートの映像もあった。

「司令、国連安保理からの報告です。常任理事国の米露中3国発案でデルタ殲滅及び、司令のステーションの救出と破壊が失敗した場合の最終手段でデルタを物理的な破壊を実行することが決議されました。人命は優先されるべきとしつつも、即刻の撤退のみが示されている状況です」

 司令部を将治から任された副司令官が報告する。
 そもそもの発動条件がデルタを倒せず、ステーションの人質救出に失敗して破壊が実行できない状況下だ。それはデルタが解き放たれる人類の完全敗北を意味する。万が一にも物理的に破壊が間に合う可能性は、敗北確定と同時にステーションとアドノア島を消滅させる方法となる。使用するものが核兵器か通常兵器かはまだ吟味する余地があるだろう。しかし、そうなった時点で将治は勿論、アドノア島の睦海や健達は人類存続の為に犠牲となることは間違いない事実だ。
 それに、そうなった場合はあくまでもデルタを破壊できる可能性がある程度だ。その成功率と同じか、それ以上の確率でデルタは脱出して、人類は滅亡される可能性がある。
 どの道、作戦失敗の先にあるのは自分達の確実な死だ。

『わかった。安保理にはこう返しておけ。これはGフォースによるデジタル超進化怪獣ディアボロスの殲滅作戦である。怪獣のことはGフォースに任せて頂きたい。それでも安保理が何かしてくれるというのなら、自分達の抱える核兵器を使って人類を滅ぼさせないように無力化でもさせていろ!』

 将治の声が司令部に響いた。
 そして、一呼吸置いた後、将治は続けた。

『諸君、我々はGフォースだ! 怪獣による脅威から人類を守る為に結成された世界最強の“力”だ! かつてその怪獣とはゴジラであった。しかし、今我々はゴジラと共に戦っている! デルタとなったディアボロスには最早我々だけでも、勿論ゴジラの力だけでも仮想世界にいる相手には太刀打ちできない。我々人類とゴジラで一つの「G」フォースだ。即ち、この作戦は我ら「G」とディアボロスの最終決戦だ!』








 一方、仮想世界に入った白嶺達はつくばの“匣”の前にログインした。

「数時間で随分と様変わりしたなぁ」

 ハクロウのアバターになった白嶺が周囲を見回す。
 彼らがG対策センターを出発した明け方はまだ“匣”だけが被災した町の中で無機質に存在する異質な景色であった。
 しかし、今は“匣”の周囲に“匣”と同じ無機質な半球体のドームが形成されており、ハクロウの立つ“匣”の前にはドームの出入口とばかりに巨大な円状の門が開いており、ハクロウに続いてシエルもその門からログインしてきた。
 彼女もつくばの変貌ぶりに驚いている様子で周囲を見回している。

「よっと! おぉっ! すげぇ! 体が軽い!」
「えっ! お義父さん……」

 シエルに続いて健のアバターも門から出現したが、その姿は少年、否2009年当時の無敵の喧嘩番長を名乗っていた中学生の健と同じものであった。

「親父さん、わざわざそんなキャラメイクしたのかい?」
「ん? 何か適当にハイって答えていたらこうなった」
「んな、阿呆な……」
「それよか、親父と呼ばれる覚えはないのだけど!」
「親父さんだよ! その言われ方は別の意味が生まれるだろう!」
「なんだと?」

 健とハクロウが睨み合うのでシエルは嘆息して間に入ろうとするが、門からゴジラがログインがあり、仲裁の必要はなくなった。

ゴガァァァァァァァァァオオオンッ!

 ゴジラの姿は先代の意匠、バーニングゴジラの姿に既になっていた。全身を赤く燃やし、蒸気のエフェクトが常時放たれている。

「プロテクトは解除済みだよ」

 ラパサナが3人の背後に現れて声をかけた。そして、ハクロウに視線を向ける。

「尾形白嶺、君に頼みたいことがある。青木大翔がステーション側の通信のコントロールを試みているが、ハッキングに手間取っている。既に通信ルートは島の光学通信接続で確保しているので、そちらから入って中からやってほしい」
「了解だ。……シエル、すぐに戻る。囮が餌になるなよ」
「うん」

 ハクロウは門の中に入って行った。
 そして、ラパサナはシエルと健、そしてバーニングゴジラに視線を移す。

「中のデルタは活動を再開している。しかも、当初予想されていた解析による“匣”の突破でなく、“匣”を構成する基礎に当たる部分を破壊する力を得ている。今はまだ小さい範囲での破壊だから瞬時に“匣”の分厚い壁を破壊するに至っていないけど、時間の問題だ。それに、その力はこの周囲に展開した障壁も、我々を構成する体も、この仮想世界に存在するあらゆるものをまるで溶かす様に破壊してしまう」
「まるでオキシジェン・デストロイヤーだな」
「ううん。本当にオキシジェン・デストロイヤーなんだと思う。お義父さん、三神さんのこと覚えてる?」
「そりゃ挙式にも呼んだ人だからな」
「三神さんの研究データが無くなっているの。……ディアボロスが奪ってデストロイアとDO-Mの研究データからオキシジェン・デストロイヤーを仮想世界で再現したんだと思うわ」
「僕も同意見だよ」

 ラパサナは頷く。
 それは即ち、大翔が一晩かけて構築した障壁はデルタの前ではハリボテになってしまうということだ。ハリボテでも誘導ロープ程度の機能は期待できる。その期待通りの成果となるか否かはシエルとラパサナの囮にかかっている。

「お義父さんとゴジラはバトルフィールドで待機していて」
「だが……」
「ゴジラがここにいたら、デルタはここで戦闘を始める。障壁が本来の強度を保てないなら、当初作戦のようにバトルフィールドで戦闘しながら隔離するよりも一旦デルタを完全に中まで誘き寄せて外部との接続を遮断することを最優先にした方がいい」
「……わかった。行こう、ゴジラ!」

ゴガァァァ……!

 ゴジラは小さく返事し、ゆっくりと門の中へと戻っていく。
 健もその後へと続く。

「よし。スタンバイするよ、ラパサナ」
「イエス、マム」

 シエルとラパサナは“匣”を見上げた。大翔から誘導開始の合図はない。既に残り1時間のカウントダウンは始まっている。理由はまだステーション側のコントロールが奪えていないからだ。

「……尾形さん」

 作戦実行の合図が出るまで、シエルは祈るしかない。








『尾形、どうだ?』

 鈴代の声がハクロウの元に届く。ハクロウは既に光学通信接続からステーションのルートウェアに侵入していた。

「どうもこうもない。“匣”に体は捕らえているとはいえ、デルタのデータそのものはここにあるんだ。言うなれば、懐どころか体内に侵入しているようなもんだよ。予想はしていたが、まるで魔窟や怪物の巣だよ。全く異なるプログラム言語の構築物が元々のあった領域を侵食している。……通常なら破損しちまうから仮想世界のビジョンだとこう見えるものかと驚いているよ」

 ハクロウは無数の巨大な針が刺さり、入り組んだ通路を歩いていた。通路そのものは地下通路風の薄暗いものであるが、今はその壁面から棘の他、球体上のカビの胞子を模したようなポリゴングラフィックの物体などが侵食している。
 非常に進みにくい状況だが、ここを強引に破壊しながら進むとステーション側で何が起こるかわからない。空気がなくなるかもしれないし、扉が開いてしまうかもしれない。人質を取られている状況で無謀な手段は取れない。
 幸いにも通信システムそのものは特殊なセキュリティが導入されている訳でない。しかも、遮断するだけなので、場所さえ外さなければそこだけを破壊してしまうことも許される。
 既に接続回線そのものはアドノア島との光学通信接続にバイパス済みなので、他の回線が遮断されても作戦に支障がない。

「……ここか」

 目的地の扉の前にたどり着いたハクロウは扉を確認する。かなり侵食が進んでおり、網目状の凹凸を帯びた表面に変化しており、扉そのものが脈打つように動いている。

「擬似生命プログラム? いや最早これもディアボロスの一形態か? ……あまり手荒なことはしたくないが、仕方がない」

 ハクロウは懐から刀の柄を取り出すと、その手を大きく上から下に振る。カシャカシャカシャン! と軽快な音を上げ、三段式で刃が展開され、ボタンを押すと刃が青く発光した。三段式特殊メーサーブレード。使用シーンは限られるが、これも入手困難なハイエンド系装備だ。
 勿論、WFOの仕様が通用するようにしたバトルフィールドとは全く違うルートウェアではただのグラフィックにしか過ぎないが、この武器は予め白嶺が組んだプログラムを仕込んでいる。
 ハクロウはブレードを片手に構え、足を前後に広げる。そして、空いている手を宙に添えると、そこにキーボードのグラフィックが表示された。

「これが俺の戦い方だっ!」

 ハクロウが扉にブレードで斬りかかった。
 扉とブレードが接触した瞬間、ハクロウの眼前にウィンドウが出現した。
 次々に流れる文字の羅列、それを瞬時に読み解き、文字列を入力する。
 次のウィンドウが表示される。暗号解読。突破。
 次のウィンドウ、突破。突破。突破。突破……。
 ウィンドウが次々に現れては消える。それがコマ送りのアニメーションのように進み、ブレードも扉を斬っていく。

「おぉぉぉぉぉ……りゃあっ!」

 遂にハクロウは扉を切断し、扉は2枚に分かれてバタンと音を立てて倒れると、消滅した。
 そして、室内に入ったハクロウはニヤリと笑い、マンガやビデオゲームでお馴染みである導火線に火のついた黒い球体の爆弾を取り出して部屋の中央に置かれた装置に向かって放り投げた。

「任務完了!」








「……時間の問題だ」

 いよいよ“匣”の壁面に崩壊エフェクトが発生し、穴が空いた。
 穴の奥にいるデルタが動いていることを窺える。
 ラパサナがその穴を見上げて言うと、シエルはその場で準備体操を始める。

「問題ない。私達は私達の役割を全うするだけよ」

 そんなシエルの言葉を待っていたかのように、大翔の音声通信が入る。

『作戦準備ができたよ。……睦姉、いいね?』
「勿論!」

 シエルは覇気のある返事をすると、門を向いて地面に両手両膝をついた。大翔に代わって作戦総指揮を将治の代理で担う副司令官が通信を入れる。

『Gフォース環太平洋地域司令部副司令だ。作戦開始のカウントダウンを行う』

 シエルは視界の隅に項羽の映像も表示させる。既に項羽は海面に対して垂直方向へと浮き上がらせ始めている。基本的にはバハムートの母艦と四面楚歌搭載艦としての運用が主となる万能艦の項羽は、海上戦を基本的に想定している全長400メートルの超巨大航空戦艦であるが、飛行推進も可能となっている。
 これまで座礁回避の目的以外での使用機会はなかった推進システムを利用し、項羽は海面に対して垂直より若干の傾斜した角度で静止した。左舷下段にある射出口から電磁カタパルトが延長され、宇宙服を着た将治が搭乗する高機動外装を装備したバハムート・アイダがスタンバイする。
 高機動型バハムートの超電導電磁フィールドとマッハ10に達するスピードであれば多段式のロケット打ち上げをさせずともバハムートは宇宙に上がれる。
 勿論、今まで一度も試したことのないことだ。類似した実績にMOGERAのスペースゴジラ迎撃戦があるが、元々宇宙での運用も想定された設計の機体に対して、バハムートは超超音速飛行に耐える気密性から真空も耐えられる構造であるものの宇宙での運用は想定外であり、元々が遠隔操縦の無人機である。有人での宇宙への往復ミッションなど、机上計算でいくらクリアしていても成功するかは全くわからない。
 しかし、それでも限られた準備時間、限られた作戦時間内での救出及びステーションの破壊が可能な方法は、既存の高機動型バハムート以外にはなかった。また、ある程度は地上からの制御が可能である為、将治が気絶をした場合も最悪ステーション近くまでの誘導は可能である。
 いずれにしてもシエル達同様、将治がこの作戦の要である。

『6、5……』

 カウントがいよいよ迫る。
 シエルは腰を浮かせ、クラウチングスタートのフォームをする。

「!」

 シエルの隣でラパサナが彼女の真似をするように、同じくクラウチングスタートの構えをする。
 シエルは口角を上げ、真っ直ぐ門へ視線を戻した。

『3、2、1……作戦開始!』
「「!」」

グオォォォォォォォォオォンッ!

 二人が門に走り出したと同時に“匣”が消滅し、デルタが咆哮を上げ、二人を喰らおうと大きな口を開いてその姿を現した。

「っ!」

 シエルの視界にはアバター自身の視点以外に二つの景色が映っていた。
 一つは太平洋上で垂直に立つ項羽の射出口から宇宙に向って発射された高機動型バハムート・アイダの姿。
 そして、もう一つがシエルとラパサナのいるつくばの景色。即ち、振り向く猶予も許されない為に彼女自身の目では確認のできない後ろから迫るデルタの姿だ。
 それは予想通り、ポリゴングラフィックであった第三形態までのディアボロスとは全く異なる姿であった。先端が鋭利に尖る枝分かれした背鰭が頭部から尾の先端まで幾重にも連なり、凹凸のある表皮に全身を包む爬虫類に似て非なる怪獣という名称がもっとも適したその特徴はまさにゴジラであった。
 しかし、ゴジラとは全く異なる特徴も有していた。それこそ、大きく発達した前後の鰭だ。鰭は明確に指の骨の凹凸が見て取れ、先端からは鋭い爪も生えている。もう一つがゴジラよりも首と顎が太く、大きい。太古の水棲爬虫類モササウルスを彷彿とさせる。
 まさに水棲形態へと変貌したゴジラと言うべき姿をした怪獣となったデルタは、水中でなく空中を泳ぐようにシエルとラパサナを追いかけてくる。

グオォォォォォォォォオォンッ!

 デルタは咆哮を上げて二人を追いかける。周囲に全く目もくれず牙の並んだ大きな口を開き、一飲みにしようと迫る。それは、囮の成功を意味していた。

「「……っ!」」

 そして、二人は門の中に入り、デルタもその後に続いた。








 広大な立方体の白い空間、その各面には1メートル四方の灰色のグリッド線が引かれている。その中央部に門の出口はあり、シエルとラパサナが飛び出すと眼前にはバーニングゴジラと健、ハクロウが待機していた。

「行くぞ!」

ゴガァァァァァァァァァオオオンッ!

「最初から飛ばすぞ! 獣ぅぅぅぅぅー……神化ぁっ!」

 健が拳を打ち鳴らして走り抜けるシエルと交差する。同時にゴジラは咆哮を上げて紅蓮の閃光を全身から放ち、ハクロウも蒼炎を纏う巨大な白狼の姿に変身した。
 そして、門からディアボロス第四形態デルタが海岸の獲物を襲うシャチの如く、巨大な口を開けて空間を泳ぎ迫る。

グオォォォォォォォォオォンッ!

 門をデルタが抜けた瞬間、門は消滅。
 アドノア島のスーパーコンピュータと宇宙ステーションは光学通信で繋がった互い以外の外部接続を失ったスタンドアローン状態となった。
 作戦第一段階のネットワークからの隔離は成功した。しかし、それは健達にとっても大翔達のサポートを受けられないということだ。スーパーコンピュータに仕込んだこのバトルフィールドをはじめとしたリソースだけで戦い抜くということを意味している。
 しかし、その一方でここからの作戦内容は至ってシンプルだ。デルタを完膚なきまでに倒すか、予めこのバトルフィールドに仕込んだ“匣”にデルタを押し込んで、デルタがこの空間から逃げる前に宇宙ステーションとアドノア島のコンピュータを物理的に破壊すればよい。

ゴガァッ!

 最初の迎撃はバーニングゴジラの紅蓮の熱線であった。デルタは熱線を受けて火花を散らし、煙を胴体から上げる。
 更に飛び上がった蒼炎の白狼が、怯んだデルタの頭部へ踵落としを加える。

グォッ!

「よしっ! かかってこいっ!」
「「「『!』」」」

 落下してくるデルタに対して健は勝ち気な笑みを浮かべて拳を引いて構える。一同が思わず驚くが、目を疑う光景はその次であった。
 迫り来るデルタに向かって地面を蹴り、飛び上がった健はそのまま拳をその巨大な顎にむけて打ち込んだ。

グォォォ……

 デルタは健の一撃に吹き飛び、地面へと倒れるように落下した。

「しゃあっ!」
「なんなんだ? あんなアバター、あり得ない」
「あり得なくても存在するんだからあり得るのよ。それがお義父さん。……ううん、無敵の喧嘩番長桐城健よ」

 驚愕するラパサナにシエルは告げる。
 そして、シエルはしゃがみ込んで地面のグリッド線をなぞり、表示されたウィンドウを操作する。大翔がこの空間に仕込んだリソースだ。健という例外が存在してしまったが、本来のアバタースペックでバーニングゴジラと蒼炎の白狼以外に単体でデルタのような巨大な存在に対抗することは如何に仮想世界であっても困難だ。
 その為、デルスティア等の兵器のデータを仕込んでもらっていた。

グォォォォ……ッ!

「シエル、まだ僕達を諦めていないみたいだ」
「でしょうね」

 それは囮としての役割が期待された時点で予想していた展開だ。それならば、シエル達はデルスティアやメカゴジラなどであえて戦闘する必要はない。ゴジラ達が戦いやすい様に囮としてデルタを引きつければいい。
 逃げることに徹するならば、小回りの効く機体、そして汎用性とシエルにとっての操作性の良い機体が最適となる。
 即ち、最適解は愛機、三八式可変装甲戦闘車ガンヘッドである。出現した三八式は彼女のリクエストで即応特派の迷彩色に塗装されている。

「やっぱりこのカラーリングね。……ラパサナ、乗って!」

 操縦席へ向かうシエルが呼びかけ、ラパサナは機体の右横によじ登る。
 一方、デルタは二人に視線を向けたまま、体を起こし、再び空間を泳ぐように浮上する。

ゴガァァァァァァオンッ!
グォォォォッ!

 デルタに咆哮を上げてバーニングゴジラは紅蓮の熱線を放つ。
 しかし、デルタも背鰭が白く発光し、黄色い稲妻が迸ると口から白銀の光線を放って応戦する。

『!』
「ゴジラっ!」

 光線はバーニングゴジラの肩を撃ち抜く。辛うじて回避した蒼炎の白狼はその威力に目を見張り、健も叫ぶ。一度はデルタに命中したバーニングゴジラの紅蓮の超放射熱線もダメージの衝撃ですぐに逸れてしまった。
 光線はたった一撃を受けただけで、その光線を受けたバーニングゴジラの肩は貫かれて穴が空き、エフェクトが発生している。
 かつてこのゴジラは先代の脅威となり、その前の初代ゴジラを倒したオキシジェン・デストロイヤーを耐え抜いた過去があるが、それは現実世界の話だ。この仮想世界でのデルタが使うのは、概念、システムプログラムとしてのオキシジェン・デストロイヤーであり、バーニングゴジラもゴジラが操るアバターに過ぎない。仮想世界の万物を構成する上での酸素に相当するコード、基礎を破壊する光線、万物破壊光線と呼称すべき脅威の力といえる。

グオォォォォォォォォオォンッ!

 この隙をデルタは逃さず、咆哮をあげて一気に高度を上げ、上空から再び万物破壊光線を放つ。

『ぐはっ!』
「ハクロウ!」

 無差別に放たれる万物破壊光線は蒼炎の白狼の左脚を撃ち抜き、左脚が地面に落下し、ガラスが割れる様に消滅する。
 タンクモードとなった三八式で走り続けるシエルは叫ぶ。蒼炎の白狼は地面に伏し、蒼炎が吹き消える様に消滅し、ハクロウのアバターに戻る。
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