「G」vsディアボロス




 一方、ハクロウは障害物走こと最初の市街地エリアを連続コンボを駆使して移動していた。

「っ! ハッ!」

 ハクロウは正面の道を塞ぐ倒壊したビルを前に路肩に倒れるトラックへ【気功】を放ち、軌道を90度変更。着地することなくコンボを繋いで次々とジグザグになった通路を進む。
 衝撃ダメージの蓄積がそろそろ無視できなくなってきた。回復をするには一度コンボを切る必要がある。

「ちっ! ここまでか!」

 ハクロウは舌打ちをすると、【縮地】の効果切れのタイミングで【気功】のコンボを使わず、着地と同時に伸ばした両足を揃え、両腕を組んだポーズのまま滑走する。これで着地時の硬直時間はモーションによりキャンセルされ、【縮地】使用後の硬直時間が滑走によって僅かであってもロスを減らせる。
 白嶺は目を閉じて時間を計る。「……今だ!」と、滑走の勢いが無くなるのと【縮地】使用後に発生する硬直時間が解除されるのはほぼ同タイミングだった。
 長羽織を翻し、腰のベルトに装備させているアイテムスロットに手を回す。言わずもがな、シビアなWFOの中でこれはチート級の装備であり、通常のアイテム収納機能の名称が『ストレージ』であるのに対して、『アイテムボックス』と呼ばれている。勿論、公式大会ではレギュレーションの対象となっている。そしてクラフト品限定かつ素材はエンドコンテンツのレア素材が必要となるハイエンド装備だ。
 ハクロウは回復アンプルを『アイテムボックス』こと腰ベルトから取り出すと、走りながら使用する。回復したが、ここからは連続コンボでの移動時間短縮はリスクが高すぎる為、使用できない。
 目の前でビルを貫通させて巨人が大通りに仰向けで倒れた。毛並みの色は茶色、サンダだ。
 サンダの身長は約30メートル。未実装のバーニングゴジラや別のハイエンドコンテンツで色々な意味で『ラスボス』と呼ばれている女神像のゾグといったサイズ設定がずば抜けた超大型エネミーもいる中では小さい方であるが、人の視点からすれば十分に大きい。
 そして、ビルに空いた大穴の先には肩を上下させて荒々しく息を吸うもう一体の巨人がいた。緑色の体毛と一部が鱗になっており、一部からは『鱗の巨人』と呼ばれているガイラだ。
 連続コンボが使えない理由はこれだ。前兆なく取っ組み合いをする巨大なエネミーに潰されないように回避しながらの移動となる。【技】を発動させてしまうと、基本的に発動モーションから発動終了までは自力でのキャンセルができない。
 ハクロウはこのタイミングでサンダとガイラに遭遇した場合の展開パターンを瞬時に思い出す。「よし、3パターンだ!」と、呟くとサンダが身を起こす前にサンダの足元をハクロウは駆け抜ける。
 ハクロウの後ろで上半身を上げたサンダにガイラが大穴の空いたビルを巻き込んで飛びかかり、土煙が巻き上がる中、マウントポジションをとってサンダにラッシュをしている。
 ここでガイラを攻撃するとサンダの加勢をしている構図となり、共闘ルートに入ってしまう。
 それよりも最短ルートでのシナリオ分岐点へ移行させられるようにハクロウは動く。

「よし、2パターン!」

 区画を一つ超えた所で、ハクロウは叫んだ。3パターン中2パターンで発生するエネミーがハクロウの前の通りに現れた。
 端的に言えば、5メートル大の小型ガイラだ。設定上は、サンダの細胞が海に流出して誕生したのがガイラであり、ガイラの細胞もまた増殖することで新たなガイラを生み出す為、分裂したガイラの小型クローンとされている。しかし、そもそもガイラのイメージ自体がZの集合体である『鱗の巨人』と呼ばれる怪獣だと噂されており、どんなに運営側が否定していてもこの設定を見る限り、Zの存在が影響しているのは明白であった。
 そして、目の前に次々と出現する小型ガイラの挙動は呻き声を上げながら足を引き摺るように歩いている。WFOオリジナルデザインのピストルを取り出したハクロウは、小型ガイラにむけてそれを構える。それはまさにゾンビホラー系FPSゲームの様相となっており、開発者は明らかにこの雰囲気を狙っている。

「あと2分で相手をしてやらぁ!」

 スタートから5分以内。それが現在のリアルタイムアタック攻略に求められるシナリオ分岐点までの時間である。それ以上を要してしまうと、サンダとガイラの誘導と撃破までの時間が絶対的に足らなくなる。
 ハクロウは銃を思いっきり振りながら叫んだ。
 その弾道は直線でなく、大きく弧を描き、小型ガイラ3体の首を貫いた。
 これもWFOの中でチート級のハイエンド装備の一つ。最早魔法のレベルだと言われているが、必要なパークも極めて特殊で、射撃など銃の取り扱いに関する補正は全くといって必要ない。専用の弾をカートリッジに入れて引き金を引くというモデルガンでも修得可能な技術といえないものを身につけていればいいのだ。必要なのは【マーキング】【誘導ミサイル】【管制システム】という所謂、地対空ミサイルやドローン兵器などを制御する為のパークだ。
 拳銃のカテゴリーには分類されているが、名称は『9ミリEXACTOハンドガン』で使用する弾丸は『9ミリARH(アクティブ・レーダー・ホーミング)弾』というどちらもWFOオリジナルの武器だ。六六式メーザー殺獣光線車同様、幻となった装備の一つだ。米軍が開発し、NATO弾サイズのライフル銃型のEXACTO (Extreme Accuracy Tasked Ordnance)と呼ばれる小口径誘導弾は、2030年代には狙撃用の武装として実戦投入されており、高コストながら死角からの狙撃を可能とする為、2046年現在も各国で使用されている。
 そして、更なる小口径誘導弾開発として、ハンドガンの9ミリ口径の話が上がったが、技術的な問題をクリアした段階で頓挫して幻の武器となった。理由は簡単だ。ハンドガンである必要性がないのと、元々狙撃の切り札として存在した高額の超小型ミサイルが更に小口径化するならば、その一発のコストは9ミリ口径弾の比ではない。馬鹿らしくて商品にならなかったのだ。結果、都市伝説的に殺しのライセンスを持つ諜報部員の暗殺武器として使用されていると、まことしやかに囁かれている。
 その様なハイエンド装備である弾も含めて全てクラフトでしか入手できず、素材集めもエンドコンテンツとされている。つまり、人によってはこの装備を作ることがWFOのゴールにしている場合もあるのだ。ハクロウも今回用意した9ミリARH弾を作るのに要した素材集めの時間だけで100時間は要している。大盤振る舞いも甚だしい。

「これで失敗したら洒落にならないな」

 小型ガイラを次々と超希少な弾で射抜いていく中、ハクロウは苦笑した。








「うおっ!」

 目標までのリミットは約30秒。ハクロウの頭上をビルの看板が飛んでいき、進行方向の道に落下。進行の障害となっていた小型ガイラを巻き込んでくれたのは幸いだが、最短経路の道を塞がれてしまった。

「ちっ! Bの方か……」

 ここまでで最短分岐のルートは2パターンであった。仮称パターンAであれば小型ガイラは面倒であるが、一度のスポーン上限がある為、確実に複数体を同時に倒しながら前進すれば問題なく、ここは突破できる。しかし、今回はもう一方のパターンBであった。
 ハクロウは舌打ちして地面を踏み込むと、腰のベルトから信号弾を出現させ、頭上に打ち上げる。
 パターンBの場合、迂回が必要になる。この後の誘導パートを考えると大した時間のロスにはならないが、サンダとガイラの取っ組み合いのバトルがより激化し、ストーリー上はサンダを攻撃対象とするというNPCの軍隊と共に2体の怪獣を山へと誘導するという展開に繋がる。NPCにはサンダへのヘイト値が設定されており、恐らくシエル側の六六式メーザー殺獣光線車を奪取する行動とこれまでのハクロウとシエルの行動の累積で最もNPCを含めた人類側対サンダとガイラという構図が色濃くなるパターンBの分岐に至ったのだろう。
 有志の攻略検証グループの公開した情報では、このパターンBに入ると既にサンダのヘイト値はこれから何をしてもプラスに転じない程までになっている。リアルタイムアタックにおいて、分岐に入れないという一番避けたい事態は免れた。

ガァァァッ!
「っ!」

 サンダの咆哮が聞こえた。ハクロウが振り返ると、既にサンダとガイラは建物を破壊しながら道一本隣まで迫っていた。ガイラを直立させたサンダは咆哮と同時に周囲に音を響かせてその頬に強烈な張り手を打ち込んでいた。
 ビンタを受けたガイラは、フラッと立ち眩み、ハクロウのいる通りを塞ぐようにうつ伏せで倒れ込んだ。
 サンダは倒れたガイラに大股で近づくと、その左脚を曲げて両脚で挟み固定。自身も左向きに覆い被さるとガイラの顔面を自身の腕で抱えて締め上げる。ガイラの足首、膝、顔面を極めるステップオーバー・トーホールド・ウィズ・フェイスロックだ。

「早くもフィニッシュか? ……いや、まだか」

 ガイラはダウンしかけるも、サンダのSTFから逃れようと手を踠き、隙を作る。僅かに顔面の締め付けが緩んだ。その隙をガイラは逃さず、首を捻るとサンダの顔に自身の顔を向け、ガイラは頬を膨らませる。
 刹那、ガイラの口から緑色の液体が噴霧された。

デェェェムッ!

 サンダは叫び、ホールドを解く。すかさず距離を取ったガイラは両手の中指人差し指を親指と付け、狐の形にしたアピールポーズを取る。
 一方、その隙を突いてサンダはガイラの脇に飛び込んだ。
 サンダは脇にガイラを抱えてDDTに持ち込む。しかし、このままサンダは技に入らず、ガイラを持ち上げ、脳天砕きのようにガイラを地上へ垂直に落とす。別クエストに登場するオリジナルにあたる怪獣フランケンシュタインが地底怪獣に使った必殺技、垂直落下式DDTの再現だ。
 元ネタから取られたその名もフランケンシュタインの怪獣三銃士の技が揃うルートに入る確率は1割を切ると言われている。巨大エネミー同士の繰り広げる戦闘はWFOの見所の一つとなっており、中でもこのサンダとガイラはハイエンドコンテンツとしてだけでなく、怪獣プロレスの代名詞としても高く評価されている。
 開発側に定年間際のプロレス好きがいただけだろうが。
 その様子を観戦しつつもハクロウは刻々と時を刻む視界の端に表示されているカウンターを確認する。既に5分20秒。時間をかなり押しているが、迂回路はまさに技の応酬をしている二大怪獣の戦場で通行困難であった。

「まずいな……。頼む、シエル」

 ハクロウが奥歯を噛み締めて突破可能な隙を探していると、先の通路を塞いでいた看板が真っ赤に燃え、ドロドロと鉄骨が溶けながら消滅エフェクトが発生し、まもなく通路が通行可能になった。

「お待たせ!」

 通路の先に姿を現した六六式メーザー殺獣光線車の台車にある砲座から顔を出したシエルが叫んだ。
 それを見て、ハクロウは思わず笑顔で返した。
 まだ、時間は取り戻せる。








 六六式メーザー殺獣光線車はメーサー兵器の象徴でもあるパラボラ状の照射装置を有する台車と牽引車で構成されている点がメーサー戦車とは異なる。牽引車に侵入したシエルは運転席に潜り込むと、カバーを剥がし、操縦席のキーとエンジンの配線を直結させてエンジンを始動させる。リアリティを追求しているWFOにおいて、ハッキングやイモビライザーキーのコピーのような能力、システム補正を使えるようにしていない状態でこのような古典的な車泥棒の方法が通用する車両はほとんどない。
 何故ならほとんどの車両がその様な古典的な方法での盗難に対しての対策が施された実車がベースになっているからだ。一方で、盗難対策が不十分な車両であれば可能というのもまたWFOの目指すリアリティであった。
 メーサー兵器史において制式化されたモデルは九二式メーサー戦車であり、その前身はハイパワーレーザービーム車である。しかし、自衛隊兵器開発の歴史においては原点にあたる存在がある。それがこの六六式メーザー殺獣光線車だ。もっとも六六式というのは後年に実在したら付いていたであろう呼称であり、実在はしていない幻の兵器である。
 実在しなくても80年前、しかも開発段階で流用される車両となれば当時でも型落ちの中古車を使用していたのだろう。それを六六式としてWFOでは実装させた為、専門職でない睦海の技術でも車泥棒が可能な数少ない車両であった。

「よし! 思った通り」

 運転席内とクラッチ、アクセル、ブレーキの反発を確認し、サイドブレーキレバーを戻し、解除する。構造はわざわざ古い牽引車を恐らく資料から再現したのだろうが、操作性そのものは他のマニュアル牽引車と同じだ。
 シエルはギアを変えつつ、自身の両腕程あるハンドルを操り、六六式を発進させた。
 手元でナビ代わりに表示させたマップウィンドウ上ではハクロウが順調に移動していた。3分後には合流地点へ六六式を運ぶ必要がある。
 六六式は牽引車と照射装置車を合わせた全幅が最大3.5メートル、全長は20.5メートルのフルトレーラーサイズに設定されている。そして牽引車は無限軌道を採用しているが、照射装置車は装輪式。つまりタイヤだ。
 睦海の愛機である三八式可変式装甲戦闘車も同じ装輪式であるが、あちらの場合荒業ながらも多脚立への可変機構を利用しての『歩く』ことでタイヤでの通行が困難な瓦礫の上を移動することもできる。しかし、この場合は牽引車の無限軌道で引っ張りあげるには限界がある為、瓦礫を登って走行するようなルートは選択できない。
 交差点を建物の外壁を擦り、歩道を装置車が乗り上げてガタガタと左右に大きく車体を揺らしながらも左折させ、また右折させて先に進める。多少の迂回は覚悟しなくてはいけない。
 目的地は誘導路のゴールである山に続く道、二手に分かれる道である交差点だ。

「後2分半! 行けェェェェッ!」

 シエルは叫び、Y字となった交差点に車両を停車させた。
 すぐさま牽引車から飛び降りると、後ろにある照射装置車の砲座へ移動する。流石に実在しない兵器なので内蔵されているエネルギー炉のセーフティーロックや電圧操作盤の解除といった機構は既存のものを利用しており、既に睦海が三八式のマニュアル操作を覚える段階で習得している方法で起動できた。
 照射台から唸りを上げて砲身部が動き、パラボラ状の照射器が分岐点に建つビルに向けられた。砲身部が黄色く発光する。

「照射!」

 シエルは細かい角度、出力調整の確認をゲームだから許される全て経験値に任せた割愛によって時間を短縮させて実行する。
 刹那、照射器から実在のメーサー砲と異なる黄色い光線が放たれ、建物に命中。建物は火花を散らし、爆発して倒壊する。
 そのままシエルは砲身を調整し、次々と立ち並ぶ建物を破壊していく。手前の崩壊した建物は一部で消滅エフェクトを発生させ、瓦礫のオブジェクトも大きな壁面から小さな瓦礫の山に変化する。
 残り1分、シエルの視線の先にはYの字の二つに別れた分岐でなく、その中央に新たに小さな瓦礫が残る道が作られた三つ又の分岐となっていた。

「よし」

 シエルは照射器をそのままの状態で運転席に移動する。時間がない。最悪の場合、ここまで来れば牽引車だけ切り離しても構わないとすら考えていた。
 それでもそれをしないのは単に時間を短縮したいだけでもあるが、まだハクロウの状況がわからないからだ。マップ上ではハクロウは目標地点の一つの近くまで来ている。この位置であればパターンは限られ、シエルの取る行動も必然的に決まってくる。
 導き出された目標合流地点へ車両を移動させている最中に、ハクロウのいる位置から信号弾が打ち上がった。
 それを認識したシエルは舌打ちをすることもなく、シュミレーションに入っていた。唯一の感想は、運が悪かったというものだった。
 そして、運が悪く、悪運だけは良いというのは、睦海にとっては今更のことだ。どの世界線でも怪獣によって家族を失ったことも、絶望の中で健に出会ったことも、こんな人生を選んでしまうところも、それでもこうして誰かのために踏ん張ってしまうことも全て、今更のことだった。

「待ってて! 今、行く……!」

 シエルはハクロウに向けて呟き、ギアをトップに切り替えた。





 


 六六式メーザー殺獣光線車は牽引車がブレーキ音を上げて停車し、後続の照射装置車は慣性に従って勢いを残して地面を滑り、円を描くように回り、電灯のオブジェクトに後部をぶつけて止まった。電灯は消滅エフェクトを残して消えていた。
 それを尻目にシエルは運転席から降車し、照射装置車に移動する。
 視線の先には、通りを塞ぐ巨大な看板とその先で戦っているサンダとガイラの姿があり、手前にある建物や瓦礫からは小型ガイラが出現していた。
 まだ距離がある。焦る必要はない。シエルは砲座へ移動し、再び照射器を起動させ、看板に向けて光線を放った。
 刹那、光線の当たった看板は火花を散らした直後に真っ赤に燃えだし、ドロドロと鉄骨が溶けながら消滅エフェクトが発生した。
 看板はまもなく消滅し、その先に立つハクロウの姿がシエルの目にもはっきりと見えた。
 次の瞬間、シエルは砲座から顔を出して叫んでいた。

「お待たせ!」

 不思議な感覚であった。ハクロウとの間でピンと張った糸で繋がったような感覚。僅か数分の間であったはずだが、やっと会えたという思い。
 只々、嬉しかったのだ。

アァァァァァァッ!

「「!」」

 小型ガイラが通りの両側から二人に向かって歩いてくる。互いの間の道を塞ぐように瓦礫から小型ガイラは排出され続けている。
 ハクロウは9ミリEXACTOハンドガンの残弾を確認すると同時に【縮地】を発動させ、シエルとの距離を詰める。
 一方シエルも目の前の小型ガイラの中に飛び込む。5メートル大のエネミーは初心者向けコンテンツではボスとして出現する相手であり、シエルの身長の3倍近くある。
 しかし、シエルが最も得意とする人型のエネミーでもある。シエル本来のビルドによるスペックを発揮する相手こそ、睦海が実戦経験の乏しい対人戦闘であった。高い俊敏性を活かした素早い身のこなしと筋力値、パークと装備などのアイテムによる補正による単身の攻撃力の高さ、それらシエルのビルドを活かしやすい相手こそ、人型に対しての肉弾戦だった。
 勿論、彼我のサイズ差、2体多数と時間の少なさを考えれば純粋な格闘戦には持ち込めない。スパイクが小型ドリルとなっているドリルスパイクナックルグローブ、メーサーブレードの超小型版のメーサーナイフを走りながら装備、一体目の懐に入ると飛び上がり、その首を切り落とす。
 一撃必殺。

「いける!」

 シエルは一体目が消滅する前にその背中を踏み台に二体目の顔に飛び込み、ドリルスパイクによるストレートパンチがその頬を抉る。
 更に二体目が仰向けに倒れる前にその胸を蹴り、三体目へと飛ぶ。
 三体目はその頭上を取り、落下すると同時にそのコメカミにメーサーナイフを突き刺す。

アァァァァァ……

 呻き声だけを残し、膝を折って膝立ちになった状態で消滅エフェクトを発生させ始める三体目の頭上にいるシエルに小型ガイラ二体が左右それぞれから両手を伸ばして襲い掛かってくる。
 しかし、それをシエルは三体目の消えつつある頭の上に両手をのせて逆立ちするとそのまま足を回転させ、左右から来た小型ガイラを蹴り飛ばす。

「っ!」

 手元の三体目が消滅し、シエルの体が落下する。
 蹴られた小型ガイラと入れ代わって三体の小型ガイラがシエルに向かって襲い掛かってくる。

「……」

 シエルが地面に着地すると同時に、三体の小型ガイラは頭を吹き飛ばして倒れる。ハクロウの放った9ミリARH弾が弧を描いて三体同時に撃ち抜く援護をしていたのだった。
 シエルはその援護をさも当然というような澄ました顔で受け、立ち上がると同時にその手のメーサーナイフをアンダースローで投擲した。

「ナイス!」
 
 彼女の目前にまで来ていたハクロウが言った直後、彼の後ろに迫っていた小型ガイラが額にメーサーナイフを突き刺された状態で倒れた。

「一気に済ませよう! パス!」
「了解! 小隊長!」

 シエルの言葉にハクロウは軽口を叩きながら、アイテムボックスこと腰ベルトのストレージに仕込んでいたサブマシンガン2丁を出現させ、両手に持ったそれをシエルに投げた。

「今その呼び方は、やめてぇぇぇぇえええぇいっ!」

 両手でキャッチしたシエルはそのままグリップを握り、両手を広げ、その身を回転させて周囲に一斉掃射させる。サブマシンガンは通称エムナインと呼ばれる9ミリ機関けん銃であり、彼女自身の触れる機会が最も多い陸上自衛隊で採用されている武器だ。勿論、両手で構える武器であり、この様なベトナム戦争上がりの戦士を彷彿させる二丁で使うものではなく、そんな訓練もしていない。
 しかし、シエルの放った弾幕は的確に周囲の小型ガイラを一掃する。
 シエルが左右にマシンガンを構え、その背後に回ったハクロウはハンドガンを振り上げて誘導弾を頭上に向けて撃ち放った。
 この瞬間、二人の呼吸は完全に一致し、まるでダンスを踊る様に息の合ったコンビネーションで次々と小型ガイラを倒していった。
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