Z -「G」own path-




「劉は?」
「拘束しています。まだ気絶しています。骨折箇所は多いですが、命に別状はありません」

 ブリッジに戻った瞬はマリクに報告した。
 そして、「それはそうと」と言い、瞬はアイダを見て問いかける。

「あれは一体?」
「まぁ……本人と司令の希望でな。通信障害もあるから遠隔操縦よりも直接操縦のが確実なのも事実だ」
「それで高機動型の有人操縦を許可したんですか?」
「実際、劉以外でアレができる奴がいたことには驚きだ」
「確かに。……彼は優秀なパイロットなんですか?」
「いや。本人曰く、デルスティアと同じならいける…と」
「え……」
「ただ、本当に同じらしいから彼の言うのも間違いはないんだ」
「というと?」
「アイダの最新の操縦ユニットの人工知能は昨年の…というか、先程庚が会ったシエルというM-6のレプリカントを解析して構築したもので、将治曰く、元々桐城でセットアップされたものを使っているのだから使えない方がおかしいだと」

 つまり、今健は特別なことをしている訳でも高い操縦テクニックを有している訳ではない。未来の技術を使い、健に完璧に合わせてシエルが機械との仲介をしたデータから作られた操縦ユニットは、21年経過しているとはいえ、桐城健という人間の癖や挙動にカスタマイズされた設定のままなのだ。健が動けば、バハムートはかつてのデルスティアと同様に同じ動きをするのだ。
 そして、今健はバハムートアイダに乗り、21年前と同じようにゴジラと敵に対峙していた。

『ゴジラ! 遅れた分は取り戻そうぜ!』
「ナニモノダ?」

 オメガが拳を打ちながらゴジラの隣に浮かぶアイダに問いかける。
 対して、健の笑い声が聞こえてくる。

『あー……なんというか、何年ぶりだ?』

ゴガァァッ!

『わかったよ。そうだな、ここは言うべきだってんだろ?』

 健は照れ笑いをしつつも、息を大きく吸い込む。そして、バハムートアイダは拳を天高く突き上げる。

『俺はぁ……天下無敵の喧嘩番長ぉ! 桐城健だっ!』

ゴガァァァァァァァオンッ!

 タイミングを合わせてゴジラは咆哮を上げた。
 そして、対するオメガも叫び、右手の槍を構えて襲いかかる。

「シネェェェェイッ!」

 しかしその槍をバハムートアイダは両手で掴む。

『うぉぉおぉぉおっ! ゴジラっ! 今だっ!』

ゴガァァァァァァァ・・・ッ!

 ゴジラが咆哮し、息を吸い込むと、槍を握るオメガの右手に火球状の息吹きを吐きつける。
 爆熱火球にオメガの腕が消滅し、バハムートアイダは奪い取った槍を海に投げ捨てる。
 オメガは後退り、腕を再生させる。

『ゴジラぁ、すぐに再生するらしい。どうする?』

ゴガァァッ!

『そうか! じゃあ、そこから海に叩き落とそうぜ!』

 ゴジラは地面を踏み込み、体を翻す。
 バハムートアイダも空中を駆けるように足を動かし、拳をオメガに向ける。

ドスっ!

 ゴジラの尾とバハムートアイダの拳が同時にオメガにぶつかり、オメガは陸地から海に転がり落ちた。
 そして、ゴジラは全身の力を溜め、背鰭が赤く発光する。

カコゥゥゥゥンッ!

「グハッ!」

 体を起こそうとするオメガの背中にモスラの光線が当たり、オメガは再び海中に倒れる。
 一方、健もバハムートアイダの左腕に装着されている籠手状のメーサー装備を起動させる。砲身が手の甲に沿って2門ずつ展開された。砲身のサイズは小さいが、全ての出力をそこに回し、砲門はバチバチとチャージされる。

『行くぜ、相棒! 発射!』

ゴガァァァァァァァッ!

 バハムートアイダのメーサー光線とゴジラの紅蓮の超放射熱線が同時に放たれた。

「ウソ……ダ………」

 刹那、業火に包まれたオメガは再生することが不可能な程に焼き尽くされ、最後は爆発四散した。






ゴガァァァァァァァオンッ!

 オメガを倒したゴジラは咆哮を上げ、海に去っていく。
 それを着陸したバハムートアイダから降りた健は、「また島で」ととても軽い調子で手を振って労をねぎらうと、近くに倒れるバハムートの側にいる睦海の元へと走る。

「睦海、大丈夫か?」
「うん。ちょっと肉離れやったみたい」
「まったく、無茶をするな! 心配しただろ!」

 健が睦海を叱るが、叱られた睦海は不満な顔をする。

「それ、絶対に今のお父さんにだけは言われたくない! 幾つだと思ってるのよ、全く」
「いや、アレは……その場の勢いというか、ゴジラがヤレって言うから……」

 威厳がどんどんなくなる健に睦海はクスクス笑いながら、彼の肩を借りて立ち上がる。

「歩けそうか?」
「うん。このまま肩貸してね」
「当たり前だ」

カクゥゥゥゥン・・・

 彼らの頭上を緑色のモスラが飛んでいき、飛びながら緑色の光を地上に降り注ぐ。
 モスラの過ぎ去った後には火災は消え、肉片は土に還り、荒れた台地には緑の息吹が萌える。

「すごい……」
「モスラも帰るみたいだな」

カクゥゥゥゥン・・・

 モスラは咆哮を残して、空の彼方に消えていった。

「お父さん、モスラの言葉もわかるの?」
「いいや、ただの勘だ。……さ、俺達も帰ろう」
「うん。お母さん、あっちで待ってると思うよ」
「そうか。睦海、無理はするなよ」
「大丈夫。こうやって、肩貸してくれれば辛くないから」
「そうではなくて、もう……な?」
「はいはい。無敵の喧嘩番長の娘程度には自嘲します」
「おい、親を揶揄うな」
「ごめんなさい。……無理はしないよ。だけど、歩みを止めるつもりはないよ。……お父さん、後でお母さんと3人で話したいことがあるんだ」
「何だ?」
「まだ話してなかった記憶があったんだ。……それと、将来の進路について」
「わかった。ゆっくり聞かせてくれ」
「うん!」

 こうして睦海の冒険は終わった。
 そして、彼女の新しい冒険の日々がまた始まる。
 



――――――――――――――――
――――――――――――





 10年後、内陸の地域で直下型地震が発生した。
 局所型の地震としては震央深度が浅い為、直上の地域が大きな被害を受けた。
 瓦礫の下に閉じ込められた少女は、泣き腫らし、衰弱しかけたながらも助けを信じていた。
 空腹で頭がクラクラとしていた頃、外から声が聞こえた。
 彼女は残された体力を振り絞って叫んだ。

「助けてー!」

 外で声が聞こえる。気づいてくれた。

「今助けます! 瓦礫を退かすので可能な範囲で守って下さい!」

 はっきりと聞き取れる女の人の声だった。
 そして、外で機械音が聞こえ、瓦礫が退かされた。
 久しぶり差し込む日の光に彼女は目を細める。
 そして、外にある大きなロボットの姿が見えた。彼女もテレビで見たことがあった。
 ガンヘッド。そのスタンディングモードで、ボディは陸上自衛隊の深緑色の迷彩塗装がなされ、装甲に紐で括り付けられた『災派』と書かれたビニールのシートが風でなびいている。
 そして、操縦席から出てきた女性、桐城睦海は少女に向かって力強く言った。

「自衛隊です! 救助に来ました! もう大丈夫です!」




-終-
27/31ページ
スキ