Z -「G」own path-




「艦長、作戦準備しました」
「わかった」

 奄美大島南東沖に到達した項羽は、既に四面楚歌を展開し、奄美大島の半分及び南部の群島である加計呂麻島、請島、与路島も範囲内に入っている。陸上自衛隊の派遣部隊が奄美市と瀬戸内町の南北両側より上陸をし、既に市地域の山間部を包囲している。そして、市地域の北東5キロの入江と、西に25キロの瀬戸内にて海上自衛隊と米海軍の艦が待機する。
 既に四面楚歌はベニアジサシZ寄生体の群の全容を掴んでいた。山中に潜む個体も陸上部隊が既にマーキングしている。
 合計33羽。内3羽全長10メートルの大きな個体がいて、最も多いのは2メートル~5メートルの個体であった。陸上部隊の報告では既に肉の腐った臭いがあり、肉眼でも変形が確認されている。既に寄生体の合体を繰り返して単に巨大化したベニアジサシのアンデットという解釈で作戦の実行は、想定外の事態を生むリスクがあるとマリクは判断し、屋内避難者のいる市街地での攻撃を避ける自衛隊側から出された作戦ではなく、Gフォースの怪獣殲滅戦として立案した作戦を採用することにした。勿論、主戦場は洋上の項羽周辺だが、そこまでの道筋が異なる。

「既に司令からの命令は下っている。俺のタイミングで作戦を決行する。……作戦開始!」

 マリクの声と共に、島内で一声に発砲音が響いた。
 それに反応し、市地域上空は怪鳥の群れで真っ黒に染まる。

クイィィィキィキィ・・・
キィキィキィ・・・

 鳥は鳴き声を上げて警戒し、その羽ばたきで風が吹き荒れる。その範囲は市地域全体に及びマングローブ林や南部の山々の木々も強風に荒れ狂う。
 しかし、これは作戦の最初に過ぎない。続けて市地域の陸地を囲むように配置された内地の砲撃部隊が一斉に発砲した。
 だが、この砲撃は全て閃光弾だ。飛翔した鳥を撹乱させ、警戒をより強化しつつ混乱ささるもの。案の定、通常の鳥よりも攻撃的である為、閃光弾に反応して無秩序に暴れ、攻撃をしている。
 このままだと被害を拡大させてしまいかねないが、本番はここからである。
 次以降の実弾を装填している最中、洋上に待機した2隻それぞれの艦上に翼を生やした人型のロボットが立ち上がる。バハムートの強襲形態だ。頭部、翼、脚の形状は猛禽類を彷彿させ、胴体と腕は人と同じ形状となっており、全体がメタルブラックで統一されていることも相まって、甲冑を連想させるデザインとなっている。両腕にメーサー砲を装備しているもののこれまでのGフォースで開発されたロボット兵器に比べると全高18メートルとかなり小ぶりであり、故に無人のパワードスーツとも呼ばれている。
 しかし、それでも十分に巨大であり、対怪獣戦を想定した外装は量産化を視野に開発された対G兵器御用達のNT合金と人工ダイヤモンドコーティング採用の複合装甲の高い防御力と、それによって増した重量を四面楚歌によるエネルギー供給フィールドにより大幅に削減した燃料の軽量化で実現させた機動性を生かした戦闘はオリハルコン怪獣との戦いでも十分な戦果を上げている。
 二機のバハムートは艦艇を大きく揺らして飛翔し、四面楚歌有効範囲ギリギリを大きく旋回しながら怪鳥の群れを洋上へ追い込む。
 それでも攻撃を仕掛ける鳥は地上からの援護で追い詰める。

「やはり動きませんね」
「庚、群れをこっちに集めろ」
「了解」

 瞬が指示をすると、項羽から耳障りな高音が放たれる。それは項羽へ怪獣を誘き寄せる術の一つで、元々はゴジラの帰巣本能を刺激する為の研究から生まれた技術であるが、音による誘導は先の作戦で用いた臭いによる誘導以上に効果的である。しかし、万能な手段ではない。肝心のターゲットにとって意味のある音でないとただ煩いだけで、その音の意味もわかっていなければ狙った反応を得られないからだ。
 しかし、今回はベニアジサシのZ寄生体である為、既にベニアジサシの鳴き声から作成した音響サンプルは準備していた。音響の意味としては、こっちに来い。狩りの際や外敵の襲撃時に使われる音を元にして作られている。

クィィィィ・・・
クィィィィ・・・

 音響に引き寄せられて群れは項羽へと移動を開始した。

「タイミングは俺が判断する。高機動型バハムートをスタンバイさせろ」
「了解」

 マリクは四面楚歌に映る群れの動きを見つめて言った。まだ今はその時ではない。距離が離れ過ぎれば鳥は島や周辺に拡散して早期決着が叶わない。近過ぎれば項羽が邪魔でバハムートの力を最大限に発揮することができない。狙うはバハムートの一撃による早期決着。
 群れは刻々と項羽へと近づいている。しかし、群れは長い帯状に展開しており、まだ島に近い。

「先頭、項羽まで20キロ」
「まだだ!」
「……先頭、15キロ」

 群れの後方は、島から5キロの距離だ。ギリギリといえる。
 しかし、このタイミングでマリクは劉に音声を繋ぐ。

「先頭……10キロ!」
「今だ! 行けぇぇぇぇっ!」
『了解!』
「バハムート、発進!」

 刹那、項羽の射出口カタパルトから高機動型バハムートが発射される。閃光を帯びた軌跡を残し、飛翔したバハムートはそのまま一気に加速し、機体周辺に雲が出来る。更に先端にプラズマが発生し、それはまるで神話の神が投げた槍であった。
 バハムートの外装は超電動電磁フィールドが展開され、空気の壁を破壊しながら突き進む。低空飛行の為、その衝撃波は海を割り、水の壁を後に残し、項羽もその影響を受けて激しく揺れる。
 そして、バハムートは帯状に伸びる怪鳥の群れを串刺しにする様に突き抜けた。
 一瞬の出来事であった。
 直撃を受けたZ寄生体はその存在の痕跡すら残さずに消滅し、その衝撃波を受けた個体も再生が困難なほどバラバラに四散する。
 バハムートは群れを抜けて上昇しながら旋回をし、更にもう一度残った群れに向かって急降下する。
 その頃、奄美大島の海岸は突風によって、木々が大きく揺れ、軽い砂や石が吹き飛ぶ。一つ間違えれば屋内避難をしている建物ごと、それがなくても屋内にすら被害を与えかねない危険な攻撃ではあるが、それでも怪獣殲滅の目的には最も効果的な一撃となった。
 第二撃も群れが反応する暇すら与えずに突き抜けていた。

「バハムート、帰投します」
「よし、強襲型バハムート全機出撃! 項羽、攻撃開始! 殲滅戦に以降する! 一匹も取りこぼすな!」

 マリクは言った。
 最早勝負は付いていた。四面楚歌に映る怪鳥は7羽。6羽は5メートル以下で、10メートル級1羽も既に高機動型と入れ替わりに出撃した強襲型バハムートの敵ではない。
 まもなく項羽とバハムートのメーサーによって怪鳥型Z寄生体は、全てその再生が不可能な程に燃やし尽くされて灰となった。




 
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 みどりの運転するトラックは、日没前に土佐清水市へ到着した。トラックは未希の案内で市街地の外れにある海辺の丘を切り拓いて設置された土佐大学のキャンパスの駐車場に停めた。

「みどりさん、ありがとうございました」
「到着しましたね」
「これからどうします?」
「………」
「未希さん?」

 未希は目を閉じて何か目を凝らして探るようにゆっくり南の方角を向き、目を開く。

「近づいている。……それも物凄く沢山のものが。……とても気持ち悪い」

 未希は口元をおさえつつ伝える。

「……!」

 睦海とみどりが支えていると、未希は目を大きく見開き、もう一度南を見た。

「今、沢山の人が亡くなりました」
「そんなっ!」
「新城さん!」
「「「「!」」」」

 突然呼びかけられて、後ろにある大学の建物を4人が振り向くと細野夫人を中心に沢山の人が並んでいた。それは学会に参加していた超能力者達であった。
 良子の押す車椅子で細野夫人が未希に近づく。

「もうすぐ足摺岬へアンデットがやってきます。まずは海上保安署へ。それと貴方、千尋岬に行きなさい。大切な人を守るのです」
「えっ……まさか!」

 言われたレイモンドは驚きつつも、すぐに携帯で茉莉子へ連絡をする。

『レイくん、もう用事は終わったの?』
「マリちゃん、今どこにいる?」
『おばあちゃんち。さっきお葬式が終わって……』
「そのおばあちゃんちって、千尋岬?」
『そう! 千尋ヶ崎って限界集落っていうやつ? でもよくわかったね?』
「マリちゃん、待ってて! 今からそっちに行く!」
『うそっ! じゃあ、水族館が近いみたいだから間に合わないかもだけど』
「多分、それは難しい。……とにかく、家から出ないで!」
『う、うん。……じゃあ、戻って待ってるよ』
「待って、今どこに?」
『おばあちゃんちの近く。何か有名な化石があるらしくてそれを見に来てたの』
「……わかった。じゃあ、すぐに家に戻ってて。多分、20分くらいだから!」

 電話を終えると、タクシーを呼ぼうとするレイモンドに良子が車の鍵を渡す。
 驚く彼に細野夫人は頷く。

「使いなさい。彼女は貴方が守るのです」
「……はい! ありがとうございます!」

 礼を伝えると、レイモンドはすぐに国外向け販売されている国産4WDオフロード車のスポーツモデル逆輸入車に乗り込み、駐車場を出た。
 未希と睦海がそれぞれ物言いたげに車を見ていると、細野夫人が微笑んだ。

「こんなこともあるかと思って用意しておいたのよ」

 その言葉に思わず睦海は苦笑した。
 そして、細野夫人は未希に視線を戻す。

「新城さん、私達もできる限り協力します。せめて市街地への進行はさせないようにしますので、避難もそのようにお願いします」
「わかりました」

 未希は三人を大学の敷地外へ連れて行く。
 一方、細野夫人達超能力者達は目を閉じて念力を使う。湾になっている港の海上に目に見えない念力の壁、所謂結界が作られた。

「……すごい。これが」

 歩きながら未希は呟く。彼女には結界を感じ取ることができていた。テレパシー、サイコキネシス、予知を開花させた未希ですら、実体の存在しない壁を作ることはできない。そして、それを成せる超能力者も今のところ存在しない。これは超能力者達が力を結集して作ったものなのだ。
 そして、睦海、未希、みどりの3人は大学の裏門から出るとなだらかな坂を丘に沿って下ると、その道と県道の交差点に沿って立つ建物へと移動した。建物の裏には先程の大学のある丘がある。
 建物は高知海上保安部土佐清水海上保安署となっていた。

「G対の桐城みどりです」
「こちらです!」

 署内に入るとすぐに海上保安官が奥へと案内した。

「先程、予備航路航行中の上海行きフェリーから救難信号を受け、消息を断ちました。現在予想される海域にヘリが向かっています」
「どのくらいの乗客が?」
「オフシーズンの為、定員の半分程度でほとんどが帰国の為に乗った中国籍の為、まだ詳細は得られていませんが、乗組員もいる為、恐らく300人程かと。場所はここから40キロ程南の海上です」
「わかりました。怪獣による可能性が高い為、足摺岬が最も上陸のリスクが高い地域となります。こちらからも県へ避難要請を行いますが、船の航行を至急禁止して下さい」
「わかりました」

 みどりは司令部と連絡を取る。
 今は睦海も状況を見守るしかないが、いざとなったら自分も戦う覚悟をしていた。
 

 

 
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 洋上に一隻のフェリーが沈没していた。
 すでに大きな船は至る所が破壊され、二つに割れた船体はその中央部から深い海の中へと引き込まれていた。そして、船内にはおびただしい量の血痕と死体が広がっており、その中で動く存在は有象無象の不死者であるZ寄生体のみであった。
 Z寄生体は魚と巨人だけでなく、イカやタコの軟体動物も加わっており、奄美大島に現れたベニアジサシの群れ程ではない10羽程度で大きさも巨大化していないが、カモメといった海鳥が増えていた。
 そして、その沈みゆくフェリーの前に達也は、巨大イタチザメの背に立つ虚ろな目で見つめていたが、ゆっくりと両手を掲げて声を上げた。

「オキロォォォォォォォーッ!」

 声に呼応して、船内から不気味な呻き声が次々と聞こえてきた。

「アアァァァー……」
「アァァアァァ……」
「アァァァ………」

 船の中から次々と姿を現す蠢く死体達は、次々と船外へと身を投げ、海中にその身を沈める。

「……!」

 達也はぐるりを首を回して、上空を見上げる。
 上空には海上保安庁のヘリコプターが飛んでいた。

『生存者発見! 洋上へと次々と飛び込んでいます。また、船内には複数の影が見えます』

 ヘリコプター内では、船の状況を伝えている。

『えっ? 既に死んでいる? いえ、ですが生存者が……』

 海上保安署から生存者でなく既に死んでいるという連絡を受けて海上保安官は困惑する。
 距離が離れている為、それが生者かアンデットかの見分けはつかない。
 そのようなやり取りをしている最中にも、達也はヘリコプターを指差して命令をする。

「ヤレ」

 ヘリコプターへと向けて鳥が次々に飛んでいく。
 更に、船上で立った巨人はイカ型Z寄生体を掴むとヘリコプターに向かって投げつけた。

『なんだ! 鳥が! えっ? イカ!』

 ヘリコプターは鳥とイカの特攻を受け、プロペラが破壊され、黒煙を上げながら海へと墜落する。
 それを見届けると、達也は足場にしているイタチザメ型Z寄生体に両手をつけて、四つん這いになる。すると、その手足はイタチザメの表面と一体化した。
 そして、達也は土佐清水の足摺岬の方角を向く。

「イクゾ……」
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