誓い〜for NEXT「Generation」〜


 一口に新潟港と言い切ってしまうのは簡単だが、その言葉が示す範囲は実は広域に渡る。通常は新潟西港と新潟東港として区別すべきであり、その事情がわかっていない辺りは所詮は東京の人間だと言わざるを得なかった。
 東港は市の北端部に位置している商業港で、コンテナターミナルやコンビナートが立ち並ぶ、工業地帯としての側面も持つエリアである。
 西港は市街中心部、信濃川河口付近に築かれている。工業、商業の他、国内外への旅客船が発着するターミナルが在する。また周辺の商業施設も充実していて、事実上新潟港の表向きの玄関口としての機能を有しているのはこちらであると言える。
 密輸グループがどのような傾向を好むかによって、どちらから逃走しようとしているかが別れる。人気のない場所から貨物船を利用するのなら東。人混みに紛れながら旅客貨物問わず乗り込む船を選定するのなら西だ。
 だが、国外への逃亡を図るという情報が確かなら、西港は除外される。国際旅客ターミナルから発着する定期航路はここ数年設定されておらず、クルーズ船の寄港地としての役割しか果たしていない。むしろロシアや韓国などの日本海対岸への貨物船が頻繁に発着している東港の方が国外逃亡に適していると言うべきだった。
 高田班も東港警備のグループに割り当てられた。
 東港へ向かう道中、課長の声が無線に乗って飛んできた。

『港湾の管理会社に問い合わせたところ、不審なコンテナの存在を確認した。急行中の捜査員は現着後、直ちに所定の位置にて待機。以上』

 続けて無線には、そのコンテナを調べないのかという質問が乗せられた。だが刑事部長の声で改めて待機が命じられると、それ以上異を唱える者は居なかった。
 一人、健を除いては。
 後部座席の先輩刑事の「馬鹿」という声を意に介さず、健は無線機を手に取って臆せず言い放った。

「部長。理由を聞かせてください」
『命令だ。指示があるまでは手出しせずに待機。改めて理由の説明は不要である。以上』
「いえ、それでは納得できません、理由を……」
「桐城!」

 真後ろにいる高田に気圧されて、健は静かに「申し訳ありませんでした」と言って無線機を置いた。

「命令ならば、俺達が言えることはない。弁えろ」
「ですが……」

 健の考え及ばないところで、何かがうごめいている。そんな状況において良しとされるべき事をやめろと言い放たれる不条理さに健はまだ慣れないでいた。
 時として警察には情報の取り扱いに関して厳しく制限されることがあり、その為には嘘の情報を自分の口から言い放つ必要に迫られる。生まれながらの熱血漢、無鉄砲を極めている健には我慢鳴らない事もしばしばあった。
 そんな理想と現実の乖離に悶々としている内に、車は東港コンテナターミナルに到着した。警察の人間の所在を悟られぬよう、事務所がある建物の陰に停めるよう指示される。健がそこに車を回すと、見慣れない車が一台停まっているのが見えた。
 薄暗い中で色ははっきりとは分からないが、形は軍用のそれだった。車を停めて近寄ってみると、配色も側面の文字も自衛隊のそれではなく、Gフォースのものであると示していた。

「え……何で……」

 近くにGフォースの施設があるという認識は健の中にはなかった。ならば何故かと考えていると、事務所の表側で高田と誰かが話しているのが聞こえた。話していると言うよりは、息巻いている高田と素っ気ない相手の応酬に終始していて、言葉の殴り合いという表現が似合う状況だった。
 怒った高田相手に冷淡でいられる人間の存在に驚かされたのもあるが、それ以上にその相手の声に聞き覚えがあった事が健を驚愕させた。そして同時に結びつけられる。Gフォースの車両がある理由ではなく、誰が乗ってきているのかに。
 健が建物の表に回ると、高田がその相手につかみかかろうとしていた。しかしその相手はどこまでも無駄のない所作で高田の手を捻り上げ、背後を取った。

「これ以上僕らの邪魔をすると言うのなら、国際問題に発展しかねない事態に陥るが良いか?」
「て、てめぇ……公防の現行犯だぞ」
「お互い様だ」
「やめやめぇ!」

 大声で二人の間に割って入ろうとする健の声に呆気に取られたのか、相手の男は高田を放した。

「なっ!」

 相手の男は、健の顔を見て目を見開いた。やはりこの男は健が考えた人物そのものらしい。

「いてて……おい桐城! どういうつもりだ!」

 手首と肩を回してその動きが正常であるのを確かめると、高田は健に怒りの矛先を向けるようにして言った。

「すんません。コイツ自分の知り合いなんです。Gフォースの」
「はぁ? んなこと一言も言ってないぞ!」

 健はため息を一つ挟み、男の方を振り向いた。

「お前なぁ、物事には順序があるだろう?」
「いきなり唾を飛ばしながらどけどけと言い放たれたら誰でもああするだろう?」
「しねぇって!」
「まあいい。自己紹介を省いた非は確かにこちらにもある」

 彼がそう言ったのと同時に、事務所の中から彼の部下らしき人間が三人出てきた。中にいる職員に話を付けてきたらしい。
 軍服の襟を正し、敬礼しながら彼、健の悪友は言った。

「Gフォース特務遊撃隊隊長補佐の麻生将治です」
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