誓い〜for NEXT「Generation」〜


 2019年12月

 木製のテーブルの上でけたたましくバイブを鳴らすスマートフォンへの着信で、桐城健は目を覚ました。時間は午前1時を少し過ぎている。着信の相手が家族でなければ相手は限られる。当直の同僚かあるいは、

「はい、桐城です!」

 相手に眠気を感じさせない溌剌とした声で出ると、相手も眠気を感じさせない覇気を込めた言葉で返してきた。

『緊急召集だ。至急本部に集合しろ』

 上司である高田警部の甲高くも重さを感じさせる声で、健は早々に事態を把握した。「すぐに向かいます!」と言い放って電話を切ると、つまみとして皿に出していたカレー豆を一握り口の中に放り込み、壁に掛けてあったワイシャツとスーツ、そしてコートを羽織って部屋を飛び出した。


 健が県警本部の刑事部大会議室に入ると、半数近くの席が埋まっていた。まだ全員集まっていないのかと考えながら、健は目配せで高田の姿を探す。そして前方右側の一角を占める新潟県警刑事部捜査一課高田班の顔ぶれを見て駆け寄った。

「遅くなりました」
「おう。コレ飲んどけ。長くなりそうだ」

 そう言いながらホットの缶コーヒーを投げ渡す高田。両手で受け取った健は、それをカイロ代わりにして手先を暖める。暖気取りと眠気覚ましとを両立する、この時期この時間の差し入れとしては完璧な代物だが、高田は決まってブラックしか買わない。微糖派な健としては有り難半分ではあったが、背に腹は代えられず、一口すすって苦みを眠気取り切れぬ脳味噌に叩きつける。
 それから10分しない内に大会議室の席は埋まり、同時に上座に二人の人間が入ってきた。一人は課長、一人は刑事部部長だ。号令と共に全員が起立して互いに礼。着席。慣例に倣った流れを経て、課長が現状の説明の為に前方のスクリーンを展開させ、スライドを表示させた。

「今から6時間前、東京都恵比寿の宝石店に数名の強盗が押し入り、数十点の宝石を奪って逃走した。警視庁は直ちに緊急配備を敷いて犯人確保に乗り出したが、確保には至らなかった。並行して進められたの捜査の結果、この犯行は世界的密売グループの一派が実行したものであると明らかにされた」

 課長が一息挟んだ。誰もが次の一言がどう出るのか固唾を呑んで見守っている。それこそが、新潟県警が出張る確たる理由なのだ。

「その犯行グループの逃走ルートを警視庁が明らかにした。どうやら新潟港から出る船で国外への逃亡を図るつもりらしい。そこで首都圏から新潟に至る各ルートを潰すべく、群馬、長野両県警が現在、関越道と上信越道、国道17号と18号にて検問を実施中だ。しかし既に新潟県内への進入を許している可能性も否定できない。そこで我々は、新潟市内へ進入する車両の検問と万が一に備えて県内各地の港の警備にあたる」

 また一つ呼吸が挟まれる。そして次に口を開いたのは刑事部長だ。

「6時間経過して尚確保の一報が届かないとなれば、我々が最後の砦であると断言しても良い。ホシは必ず、新潟県警が挙げる。諸君の奮闘を期待する。以上!」

 「応!」という気合いの返答がこだまする。健も例に漏れず、この手で必ず、という思いを自分の中に着火させた。
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