誓い〜for NEXT「Generation」〜


 ふわりと柔らかい風が静かに春の草を揺らした。雪がようやく溶けたばかりで、まだ幾分冷たさが残る空気の流れは、この村に別れの季節の到来を告げる。
 それに倣うかのようにして、葉と葉が擦れ合って慣らす音色を皮切りに彼女はか細い声で別れの始まりを告げた。

「じゃあ、そろそろ行かないと」

 このまま黙っていたら、このままで居られるような気がして、このまま時間が止まってしまったらいいのにと、彼女は寂しげな表情で訴えていた。それが彼女の紛れもない本心だ。

「ああ。もう会えないのか?」
「ううん。然るべき時が来たら、私はきちんと元の時間の流れに乗っておじちゃんと再会……じゃないね。出会えるはずだから」
「さっき言ってたことは本当なのか?」
「うん。おじちゃんと私を出会わせてくれる大切な人は、あと10年生きたらわかるよ」
「でも……」

 もう一人の女性が、申し訳なさそうにして口を挟む。二人の会話に水を差すような気がしてなのか、やや遠慮がちだ。

「それはその未来を招く為の結果がきちんと紡がれた上でようやく訪れるもの。だから、あなたにとっての勝負はまだぜんぜん終わっていないって言えるかな。だからね、一つ一つの出会いとか別れを大切にしてほしいの。ここに集った皆が知り合えて、こうして友達で居られているのは、過去の自分が選択した結果だからね。今に感謝するのなら過去にも感謝して、同時に未来の自分にも誓いを立てるの。絶対にいい未来にするって」

 それは彼にだけでなく、その場にいる全員に贈られた言葉であった。
 別れの季節が過ぎて間もなく出会いの季節が訪れる。それが当たり前ではなく、幾つもの自称が絡み合って形作ったある種の奇跡であると女性は告げた。誰かとの出会いに対してそうして感謝を積み重ねてきたかのような、芯が通った言葉だった。それは彼にとって最高の卒業の言葉となった。

「それじゃあ……もう行くね」
「ああ」
「おじちゃん!」
 それが、別れ際の彼女の最後の言葉だった。
「10年後、だからね。忘れないでね!」

 2010年3月。それは桐城健にとって最も大切な別れの季節となった。
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