Time axis of「G」


「ゴジラ……」

 名前でしか聞いた事の無い存在。初めは悪魔のような存在だと信じ込んでいた存在だ。健にそれは違うと教えられ、北川によって証明された。

「あの悪魔の前の存在……」
「あの悪魔に成り代わる前の存在を、君は知ってるの?」
「見た事は無い……」

 シエルはさっきから何かを思いつめているようだった。健にそれがすぐにわかった。

「睦海?」
「おじちゃん……やっぱり私許せないよ……あの悪魔が。平和というものを根こそぎ奪い去ったあの悪魔が……」
「シエル……」

 固く握られた拳。それがシエルの決意を表していた。

「睦海……」
「弥彦村に来て、おじちゃんから話を聞いて……私、ガダンゾーアが憎い……憎いよ……」
「シエル、もう少しだけ辛抱して。私がアメリカに伝えた技術で、まもなく対ガダンゾーア兵器が完成するわ。」
「え?」
「対ガダンゾーア兵器……もしかして、海外に新たな技術を与えた科学者って……あんたの事か?けど、確かその名前は真壁……」
「そう。真壁沙綾も私。私は偽名を含めて3つ名前をもってるの。遠野亜弥香が本名だけどね。」
「そんな事が……」
「ねぇ……その対ガダンゾーア兵器っていつ出来上がる?」
「一年後ね……」
「嫌よ。」

 シエルはさっきより強く亜弥香に言い寄った。

「私は……この世界がこんな風になる前をよく知らない……おじちゃんが幸せに、大切な人と一緒に生きていた頃を知らない。」
「睦海……」
「守れるはずだったものはみんな守りたい。それに……見てみたい。本物のゴジラを。」
「…………この世界を、こうなる前に救いたかったって言うのか。睦海。」
「…………」
「今まで何人の人がそれを願い、戦ってきたか……その結果、麻生の奴もああなり、みどりは…………」
「……」
「地上を救う術、あるにはあるわ……」
「え?」
「今何て……」
「シエル。あなたの協力が必要だけどね。」
「どういう事だ……分かるように説明してくれ。」
「いいわ。ちょっと目をつむって。」

 健とシエルは目をつむった。亜弥香は次元転位装置を起動させる。時間に変化を起こさず、場所だけを移した。


「いいわ。目を開けて。」

 おそるおそる目を開く健とシエル。そこに広がっていた光景を見て唖然とした。

「ここは……」

 そこは、ボストンにある国連科学技術庁の格納庫の中だった。スーパーXの整備に立ち会っていた将治もいる。

「と、桐城!?お前弥彦にいたんじゃ……」
「あ、麻生?……」

 将治と直接会うのは久しぶりだった健。しかし驚いたのは、失っていたと聞いていた将治の片腕と片足が健全に見えたという事だ。片目はそうは行かないが。

「麻生……お前……その体は?」
「いや、技術者の真壁氏が提供してくれた義手と義足だ。……て言うか、何故ここに?」
「いや……その……」
「私が連れて来ました。」
「真壁さん!」

 将治は亜弥香を、真壁沙綾という女性の名前で知っていた。

「亜弥香……」
「しっ、これは極秘任務なの。だから、歴史に名前が残るような出来事には真壁沙綾という偽名を載せるように仕向けてるの。」
「で……」

 亜弥香は格納庫を見渡した。

「麻生さん。アレの完全は遠そうですよね。」
「最低でも一年は……」
「なら方法は一つね。」

 亜弥香はシエルの目の前に寄った。

「あなたはこれから、悪魔復活の前に行くの。」
「悪魔が復活する前って……私が生まれる前……」
「そう。あの悪魔が復活したのには、他の存在からの干渉があったの。それを止める事ができれば……」
「おじちゃんや、麻生さんが過ごすはずだった幸せな時間を取り戻せるのね?」
「そういう事になるかもね。」
「……私やるわ。亜弥香さん。」
「私だって出来る限り協力するわ。この不幸な時間軸を少しでも幸せな方向に向けられるのならば……何だってやるわ。」


 実際、亜弥香も懲罰は覚悟の上だった。調査に来て、技術を伝えるだけだった任務。しかし、事もあろうか他人に次元転位装置を使わせるなど、あってはならない。にもかかわらず、亜弥香の心を動かしたもの。アンドロイドであるが故に、涙を流す事すら許されなくなった、シエルの悲痛な叫びだった。

「睦海……」
「?桐城、一体なにが……」

 話が飛びすぎてて、理解に苦しんでいる将治。健ですら、この急展開にどう対処すればいいのか分かっていない。

「大丈夫だ麻生。あとでじっくり説明してやる。」
「あ……ああ。」

「そしたら、シエルの為の特別な次元転位装置を用意するわ。それなら上にバレにくい。」
「ありがとう亜弥香。」
「ただし、これだけは勘違いしちゃ駄目。ガダンゾーアの復活の完全な阻止はできないわ。」
「え?」
「ガダンゾーアの復活は、この時間軸において回避できない事実。あなたがいくらじたばたしても、必ずガダンゾーアは姿を現してしまう。それを遅らせたり、ガダンゾーアの力を弱めて、この惨状の進行を和らげる事しかできない。」
「……それでもいい。」

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