受け継がれし「G」の名







1996年、臨海副都心で命を絶ったゴジラジュニアはメルトダウンで消滅したゴジラの放射能を吸収し、復活を遂げた。
しかしそれ以来ジュニアは姿を現さなくなり、東京の復興を機に人々は二度とゴジラの様な悲劇を産み出してはならないと決意し、平和への道を歩もうと試みた。





だが、それからも怪獣の出現は起こり続け、平和が訪れる事は無かった。
それは人類が「核」を捨てる道を選べない結果であり、ジュニアがいなくなってもなお、怪獣との闘いは続いた。
かつて対ゴジラ組織として活動していた「Gフォース」も対デストロイア戦後は活動を凍結させようとしていたが、怪獣の出現によって今一度国防力が求められた事により、ゴジラに対する力では無く「GUARD」、つまり怪獣への防衛力として再び活動する事になった。





そんな中、2005年に青森・福井・島根の三箇所の原発が同時に爆発を起こすと言う謎の事故が発生した。
その原因は全く不明であったが、世界は必然的に日本の「責任」を激しく糾弾し、日本はその原因追求と再発防止に全力を注ぐ事となった。
原発の爆発は日本のエネルギーの著しい低下と、放射能汚染による一帯のチェルノブイリ化を招き、日本に新たなる課題を残す事となった・・・






それから4年の月日が経った2009年。
この物語は新潟県にある小さな村、弥彦村から始まる。
この弥彦村は神聖な山と呼ばれる弥彦山が近くに聳え、その麓には越後国開拓の祖神・伊夜比古神こと天香山命を祀った弥彦神社の門前街である縁からか、人工1万人程度の田舎ながら新潟の名観光地として活気付いている村で、弥彦温泉や弥彦競輪場、年三回の村祭りなども手伝って今も衰えを知らない村である。
そんな弥彦村に、1人の破天荒な少年がいた。





「今日こそ決着を付けてやる・・・」



緑が広がる公園の広場に固まる、十数人の中の1人が言った。
どれも威喝い顔付きをしており、先程の男はその纏め役らしい。
しかもその集団の中央に1人、学生服を着た黒い短髪の少年が立っている。
いかにもこの集団に因縁を付けられている様子だが、少年は顔色一つ変えない。



「何とか言えよ・・・それともこの圧倒的な状況に怖じけ付いたか?」
「・・・逆だ。俺は今、わくわくして仕方ねぇんだ・・・!」
「なめやがって・・・!やれ!お前ら!」



男の一声に、群がっていた男達が一斉に少年に向かう。
まず1人が拳を振り上げ殴り掛かろうとするが、少年はそれを軽くかわしたと同時に自らの拳を男の腹に入れる。



「うおおっ・・・!」



男は少し宙を舞った後、地面に倒れた。
その直後にまた1人少年に迫るも、同じく少年の一撃で殴り飛ばされる。



「この・・・!」



次は2人同時に攻撃を仕掛けたが、少年は飛び上がって拳を避けると両足で2人の後頭部を蹴り、あっさり気絶させる。
更に着地したと同時に片足を翻して1人蹴り飛ばし、迫る2人をしゃがんで同士討ちさせた。



「うおっ・・・!」
「ばわ・・・!」



まだ向かっていない数人はその光景に一瞬たじろぐも、すぐに覚悟を固めて少年に向かった。
だが少年は軽く1人一蹴すると2人を拳で沈め、向かって来た3人を全て拳の一振りでダウンさせた。



「・・・こんだけか?」
「ざけんなぁぁぁ!」



最後に残ったリーダー格の男は叫びながら少年に殴り掛かるも、少年はリーチの効いた蹴りを男の横腹に浴びせ、隙が出来た男の顔面を殴った。



「ぐがっ・・・!」



男はそのまま地面に倒れ込み、意識を失った。



「・・・ったく、二度と偉そうに村を歩くんじゃねぇぞ・・・」



少年は手で軽く服に付いた砂を払うと、公園の出口へ歩いて行った。
少年の名は桐城健。
弥彦村立弥彦中学校に通う15歳の少年で、好きな事は喧嘩とゲームと走る事。
村内のリレーや競走では負け知らずであり、それはゲームと喧嘩も変わらない。
特に喧嘩に関しては中学三年ながら大人すら負かす程で、倒して舎弟にした不良は数知れず。
それもあって、村の人々からは忌み嫌われている存在であった。



「あ、兄貴~!」



するとそこに黒い鞄を持った健と同じ学生服の少年がおどおどとやって来た。
見る限り、健より低学年の様だ。



「おう、翼。無傷で14人抜きしてやったぜ。」
「よかったっす・・・流石の兄貴もあれだけの数を相手にするって聞いて不安で・・・」
「何言ってんやがんだ。この俺が負けるわけねぇって。」
「そうっすよね。兄貴の一番弟子のおれっちとした事が・・・あっ、預かってた鞄っす。」
「サンキュー。」



大きめの目が特徴な、この腰の低い黒髪ショートヘアの少年は青木翼。
中学1年で健のお目付け役を兼ねた、一応健の一番弟子である。



「そういえば、明日はあれの発売日っすよね。」
「ああ、俺がこの日をずっとずっと待ち望んでたあの・・・」
「「フォレストファンタジー!」」



声を揃え、互いに指を差し合う2人。
まさに阿吽の呼吸と言った所だ。



「いや~、明日まで待てないっすよ・・・」
「ほんと、もう明日は学校サボってやりてぇなぁ・・・」
「マジっすか?でも兄貴って確か・・・?」
「あっ、そうだな・・・母さんとの約束・・・」
「残念っすね・・・でもおれっち、兄貴のそういう所にも憧れるっす。」
「ほんとお前って、言ってくれるよなぁ・・・」
「へへっ。」



そう話している内、2人は十字路に差し掛かった。
健の家と翼の家は正反対の位置にあり、いつもここで別れている。



「それじゃあ兄貴、また明日っす!」
「ああ、じゃあな。」



互いに手を振り合い、健はゆっくり歩きながら十字路を右へ、翼は走りながら十字路を左へ向かい、別々の方向の帰路に付く2人。



――明日、学校帰りだけど残ってっかなぁ・・・


――明日は兄貴の為に、絶対フォレストファンタジーを手に入れるっす!






翼と別れてしばらく経ち、健は住宅地にある自分の家に着いた。
ドアを開き、玄関で靴を脱いでいるとすぐ近くの階段を誰かが駆け降りる音がした。
階段から降りて来たのは健の妹・美歌だ。



「たけにぃ、おかえりなさい。」
「おう、ただいま。」
「あれ?フォレストファンタジー、買って来てないんだ?」
「あれは明日だ。それにサボってた数学の課題が残っててそれどころじゃ無さそうだし・・・はぁ、俺だって明日は晩飯食って風呂入って、それからやりまくろうと思ってたんだけどよ・・・」
「ほんと、たけにぃも大変だね~。」
「言うなよ・・・」



美歌と他愛も無い会話を交わしながら、健は台所に向かう。
台所では健の母・和美が夕食の準備をしている。



「あら健、おかえりなさい。」
「ただいま。」
「聞いたわよ、今日も公園で喧嘩してたんですって?」
「おう。無傷で追っぱらってやったけどな。」
「たけにぃったらまた?そんな喧嘩ばっかりして、病院送りになっても知らないよ。」
「仕方ねぇじゃん。そいつら、前々から弱そう奴見つけては因縁付けて、ちょうど腹立ってた所なんだからよ。」
「これも青春ねぇ~。」
「お母さん!全然違うから!」



こうしていつもと変わる事無く、桐城家の夜は更けていった。
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