「G」という名の絶対者


数ヶ月後


弥彦村



「おはようございます。」
「あら、みどりちゃん。」

 ある晴れた朝。みどりは健の家を訪れた。しかし健の姿は無く、研護と和美が身支度をしていた。

「あ、今日は中学の卒業式でしたね。」
「けど、朝から健がいなくなってて、制服は無かったから着替えてはいると思うんだけど……」
「みどりちゃん、健の行きそうな場所に心当たりはあるかい?」
「さあ……あいつの事だから……」




 その頃、健は村の中心地に来ていた。初めてマジロスと遭遇した場所だ。

「こんな所で何をしているんだい?」
「え……うわぁ!?あ、麻生?何で?」

 何も考えずに立っていた所に思わぬ訪問者。健が驚かない訳無い。

「互いに人生のある節目にいるんだ。思いたった場所にいたい気持ちはあるさ。」
「お前、卒業式とかは?」
「前にも説明したはずだ。」
「そうだったか?」
「ゴジラはアドノア島でのんびり暮らしているらしい。今は三枝さんと、青木梓さんが監視……じゃなくて、見守っているって。」
「翼のお母さんそんな所に行ってんのか……」
「君は何をしているんだい?」
「俺は今日卒業式なんだ。でもその前に……」
「そう言えば、この村には高校が無かったな……村から出るのかい?」
「いや、確かに高校は村の外だけど、引っ越しはしない。けど、」
「けど?」
「前みたいに、喧嘩三昧の毎日じゃなくなるからさ。そう思ったら、何だか無性に寂しくなった。」
「……馴染みの場所を見て回りたいって訳か。」
「……それに、俺、やっぱり気になってんだ。あいつの事が。」
「あいつ?」
「みどりだよ。あいつもすぐに社会人になるだろ?今みたいに暇な時に弥彦に来るって事はできなくなるんだよ。」
「君が手塚さんをどう思ってるかは知らない。けど、現実逃避は宜しく無いな。もっと前向きになるべきだ。」


「兄貴~」

 健と将治の会話を割ってやってきたのは翼。しかし、翼だけでは無い、誰かが後ろにいた。

「翼?」
「探しましたよ。姐さんからこの辺りじゃないかって言われて。この人が兄貴に用があるって。」

 翼が連れてきた人物を見て、健も将治も見惚れてしまった。同い年位の女の子だが、やけに可愛い。そういう事には強い筈の将治ですらこの様だ。

「あ……あ……」
「桐城、お前こんな可愛い女の子と知り合いなのか?」
「いや……初めてだよ……って言うか、君誰?」
「言ったよね。私の本当の顔は、あのアンドロイドの顔の比じゃないって。」
「え…………」
「って事は、睦海?」

 健の中に何とも言えない感情が込み上がってきた。何故かそれは将治も同じだった。

「そ、それが本当の睦海の顔?」
「ガダンゾーアがいなくなったから、私はアンドロイドである事実から逸れたの。今の私は生身の私だよ。生身の私で、おじちゃんに会いたかった。」
「睦海……可愛いんだな。お前。」
「ありがと。……何だか悔しいな。」
「何が?」
「私はおじちゃんの事が好き。だけど、それは未来を変えてしまう事になる。」
「何で?」
「おじちゃんはやっぱり……」

「健!」

 そこにやってきたのはみどりだった。健の様子がおかしくなる事に翼は気づいた。

「あれ?誰?その子。健の彼女?」
「だっちっちっちっちっちちち違う!彼女じゃないぞ!」
「何動揺しちゃってるのよ?」
「やっぱりそうだもんね……」

 睦海の目線はみどりに向けられる。

「悔しいな。私もみどりのように、おじちゃんと同じ時代に生まれたかった。」
「も、もしかして睦海ちゃん!?」
「久しぶりね。」
「ああ!!姐さん!時間がぁ!」
「そうだ!健!もう時間じゃないの?急ぎなさいよ!」
「げぇ!マジかよ!っ!睦海!まだこの時代にいるんだろ?」
「え……うん。」
「卒業式が終わったらこの時代の日本を案内してやるから!待っててくれ!オラ行くぞ翼!」
「はい!」

 健と翼は学校に向かって走り出した。

「さっきまで沈んでいたのにあの変わりようは……」
「けど良かった。ガダンゾーアがいなくなったお陰で、未来のおじちゃんの奥さんも死なずに済んだから。」
「なあ。その桐城の奥さんって誰?」
「フフッ……」

 チラッとみどりに目を向けた睦海。

「あと10年生きたら分かるよ。」


…………私は幸せだよ。こうして、明るい未来の話ができるんだから。

……ありがとうおじちゃん

……ありがとう、ゴジラ






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