「G」という名の絶対者


「……バカ。」
「みどり。お父さん、あの子なら許してやるからな。」
「こんな時に何言ってんのよ。」

 雅子はずっと藤戸に付き添っている。藤戸の体はまだ治ってはいない。

『3人とも、あの頃と変わりませんね。』

 実に17年振りの再開だ。みどりは藤戸の横に座り、コスモスに顔を近づける。

『相変わらず、仲よさそうで安心しました。』
「そうね。変わらなすぎて家族にまた心配かけたお調子者もいるけど。」
「そんな言い方無いだろ?」
「ねえみどり、みどりはあの子をどう思ってるの?」

 雅子からの突然の疑問に戸惑うみどり。

「え?」
「何か、いつも気にかけてるじゃない?」
「…………お父さんみたいだからかな?」
「え?」
「俺みたいって?」
「周りに心配かけて、やるって決めた事をすぐにやっちゃう所なんかまさしく!」
「へぇ~」
「だから、余計に心配になっちゃうの。余計にほっとけなくて、気にしちゃう。」
「それじゃ、止めておくのが一番ね。私みたいに苦労するから。」
「そんな言い方ないだろう、雅子。」
「何よ。苦労してるのは事実じゃない。」
「だからさぁ……」
「いい加減にしなさい!」

「しかし……」

 はっと気づいた。会議室に取り残されたのはみどり達一家だけでは無かった。北川一行と新城もまだ座っている。

「新城さんはどうして?」
「いや、北川先生が話したい事があるとおっしゃってな……」
「神崎さん。中村君。コスモスのお二方もいらっしゃる。彼女たちにも話そうか。我々の仮説を。」

 玲奈と真一は会議室のテーブルの上に資料を並べた。ローマ沖の孤島とインファント島。それに、応林大にあった1万2千年前の遺跡の資料だ。

「見てください。全ての資料にモスラとバトラが映っている。いや、描かれていると言うべきですな。」

 確かにそうだ。インファント島の壁画とそっくりの絵が、あちこちの遺跡に描かれている。

「先住民族コスモスは、地球全体に大規模な文明を栄えていたという事がお分かり頂けるかと思います。いかがでしょうか?」
「確かにそうです。インファント島はただ、モスラの聖地としての役割を果たしていたに過ぎないと……」
「本当でしょうか?私は別の解釈をしました。それは、人類が唯一、オリハルコンを使える、聖なる領域という解釈です。」
「あっ…………」

 今の言葉。コスモスの2人にも身に覚えがあるようだ。

「あの島では、バトラも作られた。しかし、バトラはモスラと違い、戦闘能力を上げる事を第一とされた。だから、モスラのような穏やかな心が無かった。」
「じゃぁ……」
「バトラは、こいつに対抗するために生み出されたんだ。」

 北川が指したのは、モスラとバトラと対峙している黒い影だった。しかし、それはインファント島の壁画には印されていない。

「インファント島の壁画は、実は戦いの様子などでは無く、戦う為に協力を誓い合った2体の様子だった。私は疑問に思っていました。モスラとバトラはゴジラを倒す為に協力した。そんな2体が文明を滅ぼすような戦いをするだろうか?とね。」
「バトラの名古屋襲撃は?」
「フィリピン沖に向かう為の移動でしか無かった。しかし、モスラの事は目に入らず、ゴジラと戦った。」
『何故そんな事実を、私たちは正しく語られなかったのでしょうか?』
「あなた方はインファント島から一歩も出ていない。それにあの壁画には文字も書かれて無かった。なら、モスラとバトラが対峙している絵を見て勘違いするのも分かる話です。モスラもあの時生まれたモスラですから、そんな事実まで知る由が無かった。」
「つまり……」
「ゴジラを狙う者、『G』は確かに存在する。あの人工知能とは別に。」




『時は満ちた。』

 暗闇の中。電子的な声が轟く。

『この力で私は、私自身によって人類に罰を下す。これは私本体の意思。止められはしない。』
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