「G」vsディアボロス
ハクベラとCielの最初の邂逅は6年前の2040年。しばらくゲームを遊ぶ余裕もなく日々を過ごしていた彼がやっとプライベートでのアバターを再び作るだけの自由が得られ、端末から自作したのがハクベラだ。
WFOが独立したオンライン配信ゲームからJOプラザをプラットフォームにした提携サービスに移行したことは知っていた為、ハクベラはJOプラザの他タイトルも周りつつWFOを始めた。
JOプラザの配信登録タイトルは一部課金ゲームと呼ばれる例外こそ存在するが、JOプラザの会員であればプレイに別途費用は発生しない仕様が多い。JOプラザも会員コースが複数存在するが、ゲームや音楽、動画など特定の目的で設定されたコースでの登録ならば月額数百円の定量課金制となっている。WFOも同様に、一部の課金装備や特典以外は別途費用は発生せず、その装備自体もそれ以上の装備を入手までのハードルを下げる程度の救済処置に近い。
WFOの他にはファンタジー系タイトルのドラハンを筆頭とした大手メーカーの大作などの他、個人開発などのインディーズ作品も存在する。インディーズ作品は低コスト開発でプレイ時間をそこそこ確保できるテキストや合成音声などでストーリーを追うノベルゲーム形式と、配布マップに配置したオブジェクトを利用した探索や逃走を主としたゲームが多い。例外的に劇団員がモーション撮影して作成する舞台型のゲームも存在し、かつてのミステリーサウンドノベルゲームの魅力を復活させて大ヒットしたインディーズタイトルも存在する。一方で、メーカー作品は基本的にソロプレイ専用でなく、オンライン複数プレイを前提としている。例外的にあるソロプレイゲームはフォレストファンタジーなど古いゲームを移植し、専用のスペースで2Dの巨大モニターを観ながら遊ぶというスタイルで安価な資金回収を図るものも存在する。これは見方によってはゲームの中でゲームをしているシュールな絵面となる。
JOプラザのシステムで、課金機能は禁じていないものの、ほとんどの登録タイトルはその費用回収をプレイ人口、プレイ時間でJOプラザから還元される料金で行なっている。その結果、対人戦やコレクション、料理やアイテム作成といった生活的なシステムなどのやり込み要素の高いデザインのゲームが主流となっている。
序盤のチュートリアルを終え、最初のボスモンスターであるエビラというエビ型の怪獣を倒すと一気に行動制限が解除され、広大なフィールドを自由に移動できるようになる。マップのウィンドウがハクベラの目の前に表示され、推奨ランクが表示される。WFOは和製RPGに多いレベルシステムは採用されておらず、ランクという認定級形式が採用されている。条件を満たすとランクが上がり、対人戦の参加グレードや挑戦可能なクエスト、購入可能な装備が増えていく形式となっている。また、アバターの設定能力の補正も装備やアイテム、ランクの設定で行うことができ、そこが現実の体とアバター操作の違いとなり、プレイヤーにとってキャラクター育成の楽しみとなる。もう一つが所謂スキルというシステムアシスト機能で、WFOではパークという名になっている。ファンタジー系ゲームではお馴染みの魔法や剣技といったものに該当し、人気なものでは弾丸や光線を一定確率で自動的に回避する【本能的回避】や照準を合わせなくても一定範囲で自動補正される【百発百中】、リアルさを追求したあまり操作が難しくなってしまった車両や兵器の操縦を思考操作とAIサポートで簡易化する【操縦免許】シリーズがある。他にも純粋な威力の増強や体力の増加、被ダメージを減少させる防御力上昇などの補助効果を持つものもある。そして、10年近い期間、システムのアップデートやプラットフォームの変更などを経て変化をし続けているものの、常に人気タイトルであり続ける理由の一つに、このRPGの醍醐味の一つである育成要素によるゲームバランスがある。WFOは特にパークのバランスが良く、チュートリアル終了時など特定の条件を満たした時の配布や課金によって入手可能なアイテムを使用することで取得したパークをリセットすることはできるが、パークの取得に必要なポイントとは別に取得可能な上限数が決まっているのだ。パークの取得用のポイントはランクアップやクエスト攻略、対人戦などによって獲得でき、取得に必要なポイントが多いパークはそれだけ取得難易度が高いパークとなる。
従って、取得難易度の高いパークを取得することを育成の目標とすることは可能だが、合計取得数の上限がある為、何でもできるスーパーマンのような育成は本来不可能なのだ。
これによって、例え全てのクエストやアイテムをコンプリートし、パーク取得ポイントをカンストさせていても、何かしらには秀でたキャラクターとすることはできるが、必ず何か一つは弱点の存在するキャラクターとなるのだ。その為、玄人になれば、全ての補正値やアバターに反映されている基礎能力値を踏まえた上での最適なパークの組み合わせと装備を考察し、アバターをビルドし、繰り返し修正を重ねていくようになる。特にWFOはフルダイブを前提とした設計のゲームである為、プレイヤー自身の癖や身体能力もシビアに影響する。よって、固定の会費以外は無課金でも遊べるゲームではあるが、上位ランカーを目指す場合、装備への課金は不要だが、パークリセットアイテムとトレーニングジムという二つの課金をする必要があるとユーザー達からは言われている。
しかし、ハクベラは邪道と云われている装備の課金から行った。購入したのは照準補正のスコープ、照射レーザーサイト。そして、メーザーライフルとミサイルランチャー。パークは初期でも取れるポイントをかき集め、それを注ぎ込んで着地や転倒時に体を転がすことで被ダメージを減らす【受身】、エネミーの能力やパークの索敵で位置を特定されにくくなる【隠密行動】の二つだけ取得し、上のランクのプレイヤーと戦うことができるサバイバルフィールドへ行く。
ここは密林と荒野が混在する広大なフィールドで、本来は初心者狩りなどを防止する為に、システム的に二つ以上異なるランクのプレイヤーとは戦闘ができない仕様となっているが、ここだけは例外で高ランクも低ランクも関係なく戦闘が可能で、出現するエネミーの強さもマチマチである。そして、WFOはポイントやランクの設定上、高ランクのプレイヤーへの勝利や高ランクに該当するエネミーを倒すとアバターのそれらの取得率が上がるようになっている。つまり、ここで高ランク狩りをすることにより、最短でアバターを育成することが可能となるのだ。
コミュニティの掲示板や有志の攻略サイトで入手した情報だが、大抵は一定の段階まで育成をした後に腕試しを兼ねて行うテクニックであり、ハクベラのようなチュートリアル終了初日の段階で行うものでない。しかし、既にハクベラには勝算があった。
全身を茶色に迷彩させたハクベラは、荒野エリアの岩場を移動しながら、ターゲットを探す。
「いた」
距離を確認し、ミサイルランチャーを構えて、レーザーサイトで照準を固定する。WFOの武器はリアリティが高く、弾丸のリロードや持ち運びこそゲームらしく省略されているが、弾丸やバッテリーは消耗品となっている。ミサイルランチャーも例に漏れず、課金アイテムの中でも高額な弾であり、ハクベラも2発しか購入していない。
しかし、レーザーサイトを用いることで、パークなしでもある程度命中率を上げられる。相手が回避行動をしたら避けられる可能性はあるが、等速直線運動をする相手ならば、命中は確定的だ。
相手は九○式戦車。ウィンドウでこの兵器のウィークポイントになり得る場所を調べ、照準をそこに合わせた。
「ご苦労さん」
一時間後、ハクベラは岩山の頂から巨大なトンボ型のエネミーをメーザーライフルで狙撃し、応戦される前に一気に転がり降りるヒットアンドアウェイ戦法でポイントを集めていた。
このゲームのビルドスタイルは大きく三つに分かれる。一つは歩兵型。ハクベラも含め、生身で移動して戦闘するスタイルだ。もう一つは兵器を操縦するパークを中心に取得したパイロットスタイル。そして、緻密なビルドを行い、両方を両立可能なバランスにしたスタイルとなる。ハクベラのターゲットはパイロットスタイルだ。バランス型はパイロット型ほど操縦系にパークを割り振れない為、戦車やロボット兵器、戦闘ヘリといった複数の複雑な操作を求める機体は操縦できず、装甲車などを使用することが多い。チームを構成している場合も多いが、その場合は最低一人は目視の為に立つ。それがない場合は、複数人であっても、一番警戒すべき歩兵による追撃と二番目に警戒すべき高位の索敵能力持ちを避けてターゲットを選定できた。
結果、ハクベラのランクは急上昇し、大会等の出場も可能なところに達していた。当然パーク取得ポイントも貯まっており、再度育成も可能なところとなっていた。そして、戦利品も得ている。
「ふぅー……。そろそろ引き上げるか。……おっ!」
フィールドを離れようとしたハクベラだったが、荒野を単体で移動する三八式可変装甲戦闘車、通称ガンヘッドが目に入った。ガンヘッドは最大3人による操縦が可能だが、3人での操縦は可能であるだけで実際に使用する場合は、パイロット特化型として育成を完了させた状態で選択する機体で、パイロット型ソロプレイのゴールとも云われている。つまり、強敵ではあるが、それを攻略すると中にいるアバターは弱いということだ。
戦利品の中に煙幕、催涙ガスなど、強襲向きのアイテムが含まれていた。ハクベラはガンヘッドに近づき、一気に勝負を仕掛ける。作戦はシンプルだ。ガンヘッドに乗り込み、中にいるアバターを直接撃つ。
煙幕を張り、ガンヘッドに飛び乗り、コックピットにメーザーライフルを構えて、催涙ガスを用意する。
その直後、コックピットの出入口が開いた。同時に、催涙ガスをハクベラはそこに投げ込む。勝利を確信する。
「チェックメイッ…………!」
『You lose』
気がつくと、ハクベラはWFOの中央基地と呼ばれる非戦闘エリアのセントラルゲート前に死に戻りしていた。
「何が……アレは?」
思わず自分の目と記憶を疑う出来事に、アバターのログを確認する。
ハクベラは煙幕でガンヘッドの視界を奪い、【受身】を使い、被ダメージを抑えてタンクモードのガンヘッド機体上部に着地、メーザーライフルを構えて牽制しつつ、片手には催涙ガスを持ち、白兵戦に望む。コックピットの出入口の前に到達し、それが開くと同時に催涙ガスを投げ込み、メーザーライフルを構えて強襲を仕掛けようとハクベラはした。
しかし、次の瞬間、機体の中からサバイバルナイフが投擲され、ハクベラの頭部を直撃。急所判定でほぼ即死状態だったが、更に銀色の長髪が視界の前を舞い、蹴りがハクベラの喉を突き飛ばし、完全敗北していた。そして、アバター名はログに残されていた。
「Ciel……何者だ?」
ハクベラは驚きながら、データベースを確認し、ガンヘッドの操縦とあの身体能力、投擲技術を確認する。予想通りガンヘッドの操縦は、操縦系のパークを複数取得する必要があり、パイロットはあの身体能力にすることは困難だ。仮にパイロットが別にいて、身体能力特化のビルドであったとしても、威力や急所命中率が高すぎる。条件を満たすのは、パイロットがもう一人いて、Cielというアバターは攻撃力や急所命中率を極端に高めたカウンター特化型というビルドであるが、非常に活躍するシーンが狭い。
もう一つはJOプラザの配信タイトルで考え難い不正改造データを使っているという可能性だが、現実的ではない。とはいえ、万が一にもチートをしたアバターが侵入していたという場合を考え、Cielの名前を検索する。常習犯であれば、何かしら検索で見つかる筈だ。
「え? ランキング1位?」
WFOの大会にも何度も優勝しており、正体不明、不正データであればGMが確実に確認するアバターという点から否定されている。しかし、それ故に謎が謎を呼び、実は複数人が場面毎に操作を変わっているCiel複数人説など臆測も多い。ソロプレイが中心であることもその要因らしい。
ミステリアスなその存在が気になるものの当初の目的であるランク上げは上々の結果となり、そこから数ヶ月は少しずつランクとランキングを上げつつゲームを楽しんだ。
ある程度やり尽くし、そろそろ別のタイトルへ移動しようかと考え始めた頃、WFOの全国大会が開催され、そこでCielと再び遭遇した。
大会はフィールド上に兵器やエネミーも点在するマップで、幾つかのグループで分かれて互いに戦う。そして、最終的に生き残り、最もポイントを高く取った者が優勝となる。厳密には終了時点で生存するとボーナスポイントが付加され、また復活というルールは存在しない。
『3、2、1、開始!』
大会開始直後、マップの一部エリアで大規模な爆発が発生し、リアルタイムのポイント獲得ランキングで単独1位となるアバターが現れた。
「自爆?」
無茶苦茶だが、ルールを利用した戦略として間違いではない。ルール上死亡したら復活はなく、生存するとボーナスポイントがあるが、優勝は最もポイントを多く獲得した者。開始直後に多数のアバターやエネミーを巻き込む大爆発でライバルを落とし、同時に大量のポイントを獲得した訳だ。
「……死に逃げだな」
ハクベラは苦笑しつつも、一気にライバルが減ったのは有難いと判断し、活動を開始した。
大会開始から1時間後。残り時間は30分。ハクベラは順調にアバターを倒し、ポイントを獲得していた。
現在の順位は15位。14位が初っ端に大爆発したアバターなので、順調ではあるが、優勝を目指すには優勝候補のライバルを倒しての番狂わせを狙うか、アバター単体を倒すよりもポイント獲得数が圧倒的に多い怪獣に分類される大型エネミーを倒すかの二択となる。
「いた」
後者を選択したハクベラの次のターゲットは大型エネミーだった。
森林地帯を抜けて、崩壊した都市をモチーフとした廃ビル群の中心に20メートル級の真っ赤な怪獣の姿が見えた。カニやサソリの様に複数の脚を生やし一対の腕の様に伸びる巨大な鎌は他の部位と異なり真っ白い。そして頭部は目がなく、一対の触覚が襟足の位置からウネウネと動き、頭部も根本から口というよりも爪に近い、重機に装着する3点式機械フォークアタッチメントのように物を挟むことに特化した3本の爪が頭部の代わりに付いている。したがって、本来の頭部は胴体の先端部に存在し、触手状の触覚と頭部の様に発達した3本爪のハサミ型の口でできている。その頭部が、胴体から前傾に伸び、白く巨大な鎌を奮って、周囲の廃ビルを破壊している。
ハクベラはこの怪獣のデータを知っていた。カマロイアという名称で、制作サイドの情報ではデストロイアの集合体を採用しようとしたら通らなかった為、急遽巨大な触手を他の怪獣の鎌と重機データのフォークアタッチメントを流用して作ったオリジナル怪獣らしい。
このカマロイアは鎌と口の3点バサミが驚異だが、光線などの飛び道具的な攻撃を持っていない。つまり、遠距離と超接近戦は一方的に攻撃可能となる。
この時のハクベラは歩兵寄りのバランス型といえる構築ながらハクベラ流のスタイルにビルドしていた。基本装備はメーザーライフルと残弾切れの心配が少ないアメリカ製32口径自動式拳銃、予備装備にゲームならではであるが異様に威力と強度が高く強化された木刀に、軽装装備。対エネミー用高火力武器と対人向けの汎用武器、接近戦用武器はハクベラに関わらず殆どのアバターが採用する。ハクベラの特徴はパークの取得内容にあった。操縦は二輪の操縦パーク一つのみの取得に抑え、代わりに機械操作やクラフト系パークを多数取得し、戦闘能力に関するものは隠密系パークを中心に取得している。
カマロイアの暴れる場所近くの廃ビルの一階に入ると手早くアイテムを作成する。大会ではアイテムの持ち込みに大幅な制限があり、最初から爆弾を装備していた自爆アバターのような例外はあるが、基本的には持ち込みできず、現地調達となる。そして、クラフト系パークを揃えると爆弾を含めた罠や武器、機械式の装置も現地で作成可能となる。パーク数上限の関係で戦闘能力の育成に特化していないものの、戦闘系としての育成スタイルはゲリラ・コマンドーといえるが、最も近い育成スタイルは非戦闘系の生産職ロールといえる。
この1時間でかき集めたアイテムを組み合わせて次々と爆弾や起爆装置を作っていく。
「……よし」
ハクベラが、否白嶺がこの特殊な育成スタイルを選択したかといえば、【機械工作技術】というパークのためだ。取得条件となるパークが多く、クラフト系パークを多数取得しなければならないこと、ポイント消費も多いが、他には得られない特別なアイテムを作成できる。
アイテム作成は、ウィンドウ上で行う。通常はクラフトメニューと言われる作成アイテムと素材を選択し、一定時間で一つずつ作成される。この辺りはリアリティよりもゲームの利便性を重視しているらしい。
ここまでが通常のクラフトメニューだが、ハクベラのメニューには更にもう一つ、通常ではゲーム上で表示されることのないエディターウィンドウが表示された。これが彼の目的だった。事前に覚えていたコマンドを入力し、プログラムを構築した。
そして、作成した爆弾を廃ビルの柱に設置しながら移動する。
「よし、勝負だ」
キシャァァァァアアアアッ!
カマロイアが姿を現したハクベラに反応し、咆哮を上げながら襲いかかる。
しかし、ハクベラにカマロイアが到達する前に周囲の廃ビルが爆発し、カマロイアを押し潰す。更に、瓦礫の下でカマロイアを取り囲む様に電撃が迸る。
ハクベラはメーザーライフルを構え、カマロイアの触覚を狙って撃つ。
キシャァァァァアアアアッ!
「くっ!」
カマロイアは倒れず、大鎌を振り回して暴れ、瓦礫を吹き飛ばす。
ハクベラは距離を取り、メーザーライフルを構える。
キシャァァァァアアアアッ!
「っ!」
カマロイアが咆哮し、ハクベラに向けて大鎌を振り下ろそうとした瞬間、カマロイアの大鎌が青白い光線に撃たれて凍結した。
「……超低温レーザー砲」
レーザーが飛んできた方角を見ると低空飛行で迫る機体が見えた。事前情報でフィールド内のどこかに隠されている兵器の一つであるガルーダIIであった。
ガルーダIIはカマロイアを超低温レーザー砲で攻撃をしながら、廃ビル群の中を飛び、上昇すると旋回し、再びカマロイアへ向けて降下する。
「横取りされてたまるか!」
ウィンドウを表示させ、即座にプログラムを込めたボタンを作成し、レーザーサイトでガルーダIIに向けると、ボタンを押す。ボタンにはレーザーサイトで合わせたターゲットの近くにある爆弾を起爆するようにプログラムさせている。
ガルーダIIの周囲の廃ビルの一階部分が爆発し、倒壊する廃ビルにガルーダIIは挟まれる。
「よしっ! 後はぁぁぁっ!」
メーザーライフルをカマロイアへ向けて放つ。
ガルーダIIの攻撃で凍結をしていたカマロイアの大鎌に命中して砕け散る。更に、頭部を狙うがチャージが足らない。
「くっ!」
キシャァァァァアアアアッ!
カマロイアは咆哮を上げながら、瓦礫を残る大鎌で払い除け、フォークアタッチメント型の三本爪の口を開き、ハクベラへ迫る。
同時に、倒壊する廃ビルの土煙の中から超低温レーザー砲が放たれ、ガルーダIIがカマロイアとハクベラの横を抜けて墜落する。
カマロイアの頭部の触覚と三本爪の口が凍結する。しかし、元の勢いのまま凍結した頭部はハクベラへ迫る。
一方、ハクベラはメーザーライフルを捨て、木刀を装備すると、襲いかかるカマロイアに向かって走り出す。そして、木刀を振り上げる。
「うぉおおおおぉぉぉ……りゃぁあああっ!」
数値上は人工ダイヤモンドコーティングチタン合金装甲に匹敵する頑丈さを持つ木刀。振り下ろされるその木刀は真っ直ぐハクベラへ突っ込んでくる凍結したカマロイアの頭部に命中し、頭部が砕け散り、カマロイアは半透明の立方体状の粒子に変わるエフェクトを出して消滅した。
ポイントが一気に増え、ランキングは3位になる。
「!」
息をつく暇もなく、攻撃を察知したハクベラが瓦礫の影に回避すると、銃弾が次々と土煙の奥から放たれる。
土煙の中に見える人影が像をハッキリとさせる。小型軽機関銃を構えた長い銀髪の女性アバター、Cielが姿を現した。現在、Cielはランキング1位。残り時間は10分。
「ミニミか。厄介だな」
武器と材料を確認し、手早くアイテム作成とプログラミングを行う。
Cielが瓦礫の裏を確認すると同時に小型軽機関銃を撃つ。
「っ!」
しかし、ハクベラはそこに居らず、代わりに爆弾が置かれており、爆発する。
Cielは爆風に押されて後退すると、レーザーがCielに触れた。
「!」
メーザーライフルの光線がCielに向かって放たれる。小型軽機関銃を手放し、モーションをリセットし、メーザー光線が直撃するのをギリギリで回避する。小型軽機関銃はメーザー光線に当たり、消滅する。
しかし、Cielは身体を転がし、9ミリ拳銃を装備し、射撃地点に対して発砲する。着弾の火花エフェクトと音が聞こえるが、同時にそれがアバターへ命中した際の反応と違うことに気づく。
Cielが察した通り、メーザーライフルは三脚とレーザーサイト、プログラムの組み込まれた発射装置で作られた無人砲台であった。
「うぉぉぉっ!」
「っ!」
Cielが頭上を見上げる。廃ビルの2階窓から廃ビルの破片と共に落下しながらハクベラは迷彩マントを纏い、その発見を一瞬遅らせる。そして、マントを外し、木刀を振り下ろすハクベラの落下に対し、Cielは地面を両手で突き飛ばしバク転をする。
地面に木刀が突き刺さるが、ハクベラは閃光弾を落下させる。閃光が迸り、Cielの視界を奪う。
そして、ハクベラは地面に突き刺さった木刀を軸にして、身体を回転させ、バク転中のCielの脇腹を蹴り飛ばす。
しかし、Cielは閃光弾で視界を奪われ、目を瞑ったままの状態で、ハクベラの蹴る足を掴むと、キュイーンというサウンドエフェクトがかかる。
「マジかっ!」
音の正体に気づいたハクベラは、咄嗟に軸にしていた木刀を手放す。
同時にCielの体は空中で捻られ、ハクベラの足を回す。体術・格闘系のパークを極めていると取得可能なクロコダイルローラー。ハクベラのプログラミングと同じく、かなりのパークを費やさないと取得条件を満たせない大技だ。
そして、技をかけられてきりもみ状態になりながら、遠心力に飛ばされて二人は地面を転がる。
「「――っ!」」
二人は同時に拳銃を発砲した。
ハクベラの肩に9ミリ拳銃の弾丸が命中し、ダメージ表示され、【重度出血】と状態異常の警告が表示される。すぐに止血用のアイテムを使用すると、死亡を回避できるが、秒単位でダメージ割合が上昇する為、操作ミスは許されないが、直ぐに使用可能とする従来ゲームのショートカット登録をしていた為、即座に取り出して状態異常を解消する。
「ふぅー……あ」
『Game over』
終了を知らせるアナウンスが目の前に表示される。そして、最終的なランキングが表示される。同時に、アバター名の横に最終的な生死も記載される。
【1位 Ciel 死亡】
【2位 hakubera 生存】
それを見た時、初めてハクベラはCielを倒していたことに気づいた。首を向けるが、当然Cielの姿は消えている。
ログで確認すると、ハクベラの放った32口径の弾丸は偶然にもCielの頭に命中し、ヘッドショットの一撃確定キルとなっていた。
それ以来、Cielは変わらず常に総合ランキング1位のトップランカーであるが、ハクベラはそのCielに唯一勝てるアバターとして認知され、ここ最近に至ってはこの二人の1位2位は不動のものとなっていた。