「G」vsディアボロス

〈起点時間軸①〉




ズシン………



 暗闇の中に足音が響いた。
 ゆっくりと瞼を開いた先も対して違いはなかった。目に入る景色の至る所から立ち昇る黒煙によって周囲を照らしている筈の月明かりは隠され、土埃と煙が混ざった周囲は黒い霧がかかった様に霞んでいた。


ズシン………


 足音を耳にし、少年は自身がいた場所を振り返る。生まれ育った木造の家屋は上から加えられた力に抵抗できず、無惨に潰されて瓦礫と化していた。
 少年は先程まで居た、地面に空いた百年を遥かに超える大昔に作られた壕を見つめ、その中に押し込められた時の祖母の顔が浮かんだ。親代わりに自分を育ててくれた祖母の姿はどこにもない。否、瓦礫の中から祖母を探す勇気は少年になかった。


ズシン………


 少年は唇を噛み締め、大地を揺らす巨大な生物の足音のする方角を見つめ、気がつくと無我夢中で走り出していた。憎み、怒り、そうした負の感情だけで彼は足元の悪い瓦礫の中を走られせていた。

「ハァ……ハァ……っ!」

 眼前に見えるのは、全身の表面が黒くゴツゴツとした岩石状になったまるでゾウガメの様なシルエット。10メートルを超える高さのその巨体を悠然と動かすそれは、少年も知るこの土地に太古から伝わる岩を喰らう亀の神、岩噛巳であった。
 岩噛巳は長い首を高く伸ばす。獰猛なワニガメを彷彿させる頭部の中心には平坦な大きい結晶状の構造が、四角くカッティングした宝石の様に、光を反射させて黒く輝かながら動き、咆哮を上げた。


ボガァァァァアォオン!


 少年は瓦礫の中にライフル状の武器を見つけ、思わず掴み取った。それは光学兵器のレーザー銃であったが、少年はそれを正しく理解していた訳ではなかった。ただ、憎き岩噛巳を倒す武器になると本能的に察したのだ。

『ザ……ザザ………機体が……誰が操縦して……』
『…構わない………ザザ……彼女……だ!』
『……了解』

 レーザー銃に付帯して装備されていたボタン状の小型無線機から声が聞こえる。
 しかし、少年はそれを気にせず、岩噛巳に向かって銃口を向けた。

「お待ちなさい! ここは私に任せて!」

 少年は突然かけられた声に振り返った。
 そこには怪獣と相違のない巨大な鉄の城、少年も一度は映像で見たことがある。それは人類の叡智、技術と経験によって作り上げられた多脚立式戦闘兵器。その操縦席から現れた老婦人は年齢を感じさせない力強い口調で言った。
 そして、岩噛巳は悠然と足音を轟かせながら振り向き、まるで彼女の声に応じる様に再び咆哮した。


ズシン……


ズシン………


ボガァァァァァァァァァオアォオン…!
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